MX-1000 Homage(オマージュ)。
現状。測定もしていないし未調整の状態を VER.AのRev.01とするならば、その特性を実測し、修正し、Rev.02へ移行したいと考えています。
疑似無響計測の必然性
脱線。
マトリクススピーカーがこの世に誕生したころ、疑似無響計測は(存在はしていましたが)日本において一般的でありませんでした。私も1980年代はこんなものを手に入れて、計測のマネゴトをしていました。「これでも測らないよりはマシ」なのか、それとも「狂ったものさしは無いより悪い」なのか。
昭和の当時は、「スペアナ」と呼ばれるものとか。具体的にいうとこんな映像の出る

装置で測定したり、その後日本ではefu氏の「Wave Spectra」(私も愛用させて頂きました)なるフリーウェアが市民権を得たりしました。

(こんな感じの映像を見たら、それはWaveSpectra)上図のような特性図を見たら、”ほとんど信頼できないデータ”と捉えていただいて大丈夫です。昔からあるものですが「狂ったものさし」に近いものです。
残念ながら、スマホアプリをはじめとするスペアナもWave Spectraも擬似無響計測ができません。時間窓の概念がないからです。なぜ疑似無響計測が必要なのでしょうか? 脱線なので詳述は割愛しますが、無響室における特性の方がヒトの感応特性に近いからです。Hi-Fiな再生を目指したいのであれば、次の二段階プロセスを踏む必要があります。
A. Far Filed+Near Fieldで無響室特性を実測し、その特性を極力、位相直線/振幅平坦に調整する
(市販製品では原則ソノママですが)
B. 残響込みの有響特性を実測し、設置位置/聴取位置/ルームアコースティック等によって極力Aと近似の結果へ近づける(平坦にするのではなくAと相似。)
当然、優先されるはAの方です。Stereophile(というより海外)でも優先的に考えられているのはAの方になります。
マトリクスの疑似無響計測の難しさ
そんなこんなで、日本では有響室での疑似無響計測がほとんど普及しませんでした。それもあってか、ネットを散々ほじくり返してみてもマトリクススピーカーの疑似無響計測例は1件もヒットしません。
よって今回私が実施する計測が、世界初のマトリクススピーカーの疑似無響計測 ということになるかもしれません。(ちょっと悲しい)
ただし、これは過去のMX-1でもなければMX-10でもありません。MX-1000H(つまり海千山千の得体のしれないスピーカー)です。計測できたからといってこの結果が誰がしかの参考になるとも思えません。
マトリクススピーカーの疑似無響計測は困難を極めます。疑似無響は通常ならば、Lチャネルだけ(またはRチャネルだけ)を測るものです。ところが、マトリクスはLとRが合体してしまっており、音響的にも電気的にもLR相互の干渉があるのです。何処で測ろうが、あまり正確無比な計測はできなさそうな予感がします。
例えば、L+Rは共用のキャビネットになっているわけです。それに片chだけ信号印加すれば、必然的にもう片方は休止状態となりますので、エンクロージャーが設計どおりに動きません。少なくとも、以下3点につき齟齬が生じます。
- 低域が設計値通りに動かない=実動作中の特性と異なる
- へたすると、休止側のドライバがPRsとして機能してしまい特性を乱す
- 上/下ドライバの位相干渉による高域低下がなく、そこも実動作中の特性と異なる
実動作に近い状況を計測できなければ意味がないのです。せめて上記3点だけでも解消したい。そこで、ちょっとした工夫を行いました。

miniDSPのダッシュボードです。
Lにも、Rにも、Lchの信号を印加することにしました。
これの何が良いのでしょう?
これでLchへいつものテストシーケンス信号を流すと、センターのスピーカーがモノーラルのMTMとして動作するのです。すなわち、上記の課題がすべて解消されます。低域は設計値どおりに動くし、上下ドライバとトゥイーター間(=MTM間)で位相干渉も起こって実動作に近くなります。
しかしこれとて、課題がまったくないわけではありません。
モノーラルのテストシーケンスにも関わらず、左右ドライバ
= L-R, R-L
のチャネルからも音が出てしまうのです。
しかし実動作中は左右からも音が出ているわけですので、この方が実動作に近しいという見方もできます。このため、あえて左右の音を停めることはしませんでした。(中を開ければ出来ます)
現段階の状態(Rev.01)を実測する
まず測定ジオメトリから。
トゥイーターの高さは77cmでした。よってマイクロフォンの高さもそれに合わせます。ANDROMEDAに比べるとかなり床に近くて不利。測定ジオメトリを計算してみても、時間窓の余裕がほとんど無いみたいです。
最初は15ms.の時間窓でチャレンジしましたが、反射をたくさん拾ってダメでした。諦めて5ms.にします。MTMの位相影響を実態に近くみたいから、限界まで離れて90cm。これ以上下がると時間差猶予が無くなって計測が破綻します。
得られた結果がこちら。総合特性でも、20Hz未満まで伸びたずば抜けた低域特性が見られます。

ムラサキの線がFar Fieldでの疑似無響特性。
赤線はBlendedです。
部屋の残響も若干拾っていますので、正しい疑似無響とは言えません。クロスオーバー調整などには通常ムラサキの線(遠点疑似無響)を用います。
高域が3dB~5dBほど落ち込んでいます。ここは聴感での感想と一致しますね~。
MTM化による能率上昇と、3dBほどトゥイーターの能率をミスリードしたかもしれません。ここは抵抗交換のみで調整可能なのですが、色々考えて当面は今のままにすることにしました。カリッカリの解像度タイプにしたいわけでもないということと、色々視聴してみるうち、これはこれでアリのバランスだなと思ったからです。
もう一方で、50Hz中心に大きなディップが生じています。設計段階で想定できた現象ですが、ここ、もう少し何とかならんかな。
ということで、調整を試みます。
低域のディップ調整(=Rev.02)
まず、正相接続であるサブウーファーをInvertしてみます。

ぜんぜんダメですねえ。かえってディップが深くなってしまいました。
正相へ戻します。(miniDSPのダッシュボード一発で出来るので便利です)
クロスオーバーを調整します。
測定結果を眺めながら徐々に変化させるイメージです。
結果、フィルターは LR24, Fc=125Hz にしてみました。
結果がこちらです。

ー Rev.02 特性Fixの図 ー
少~しだけディップが浅くなったイメージですね。
クロス調整だけだとこの辺が限界かなぁ。
マトリクスヘッド、つまりフルレンジ側は80Hzくらいまでは再生できていて、そこからダラダラと低下していく特性でした。こちら側の低域をこれ以上伸ばすのは難しいと思います。
一方、サブウーファはバンドパスが効いて、40Hz以上がずどんと落ちてしまうのです。ただ、ココは実は調整手段がなくはないです。少し面倒臭いだけ。
サブウーファーの第一キャビに少し詰め物をして、容積を減らすんです。すると、高い方のレンジが拡がって、ここのディップは埋まります。一方で、どうせこのマトリクススピーカーは弩フラットはムリと思って作っていますので、こんなもんかなぁと考えている自分も居ます。

これはANDROMDA – Alphaの振幅特性。これと比べてしまうとMXが相当に暴れているのはわかります。
どこまで頑張った所で、こんな化け物じみたフラットネスは無理ということが判っている。(チート補償でもしないかぎりは。)特性の優秀さや忠実度で勝負するようなスピーカーではないと、聴いていて強く感じます。
Appendix. 仮想同軸

どうですかね。
このスピーカーをボンヤリと眺めていると、なんだか25cmくらいの同軸スピーカーに見えてきましたか?(笑)


DIも含め、指向性制御と聴取位置に依らない盤石なコヒレンス確保をつきつめて行くと、最後はCoaxial構造に集約されます。
ただし、コアキシャルドライバには以下の潜在的弱点があります。
- 構造上理想のトゥイーターは搭載できない
- コーンがウェイブガイドを兼ねるため、コーン形状に制限が生じる
- ミッドコーン振幅による高域のランブリング(混変調)が起きる
- サラウンド等、ウェイブガイドの急激な境界条件変化の起こる場所があり、そこで反射(f特の乱れ)が生じる。
上記一連の弱点に目を瞑ることができれば、コアキシャルはコヒレンスを実現する最適解のひとつです。
さて。
実はこの後に、またまた驚天動地の(そしてチョッピリ悲しい)大大大大大逆転劇が待ち受けていたのです。それはまた後日譚ということで。。。
【この連載の目次】
- 次のスピーカーは奇行種を作ってみたーい
- チビ鬼ウーファーの再設計:MX-1000
- マトリックス用の板をオーダーしちゃった!
- MX-1000H (1)コンセプトと構造のご紹介
- MX-1000H (2)基礎設計
- MX-1000H (3)システムトポロジ
- MX-1000H (4)ボード加工図面
- いろいろなモノ、ぞくぞく着弾~
- MX-1000H (5)箱の組立手順
- MX-1000H (6)エンクロージャー材料も到着
- MX-1000H (7)木材にナンバーを
- MX-1000H (8)設計変更と木材ケガキ
- MX-1000H (9)中華パーツ着弾するが買物失敗
- MX-1000H (10)ボード二次加工開始~穴開け
- MX-1000H (11)トリマーで角穴を空ける手法
- MX-1000H (12)トゥイーターを選定するよ
- MX-1000H (13)バッフルのフラッシュマウント加工
- MX-1000H (14)フラッシュマウント加工の2
- MX-1000H (15)内部板材の二次加工
- MX-1000H (16)ミッキーさん耳加工
- MX-1000H (17)ミッキー耳貫通とバスレフポート
- MX-1000H (18)最大の角穴とマグネット干渉部のザグリ
- MX-1000H (19)ミッキー板の完成と、トリマー選びの大失態の話
- MX-1000H (20)左右スラントバッフルの切除加工、新トリマーよ頼む
- MX-1000H (21)スピーカー端子の穴!…とチョイ斜め削り
- MX-1000H (22)鬼目と爪付きをひたすら打ち付ける
- MX-1000H (23)仮組みをしてみる
- MX-1000H (24)マトリクスヘッド-組立開始
- MX-1000H (25)組立手順をチョイ変更
- MX-1000H (26)左右スラントバッフルを接着
- MX-1000H (27)面取り、ガスケット制作など
- MX-1000H (28)底板接着とインナー塗装
- MX-1000H (29)サブウーファーポートの成型
- MX-1000H (30)ヘッドのエッジカットと整形
- MX-1000H (31)ヘッドの下塗装、サブのボディ組立
- MX-1000H (32)サブの側板と、小鼻
- MX-1000H (33)ボディの組立完了
- MX-1000H (34)ボディとベースの下塗装開始
- MX-1000H (35)ひたすら研磨塗装研磨塗装研磨塗装…(以下略
- MX-1000H (36)サーフェイサーで塗装工程も佳境
- MX-1000H (36.2) 用のスピーカーベース
- MX-1000H (37)塗装の下処理がすべて完了
- MX-1000H (38)ボディをザラザラ・コンクリート調へ
- MX-1000H (39)ボディ仕上げとパッキン制作
- MX-1000H (40)マーブル塗装のジグ準備
- MX-1000H (41)鼻カッパー
- MX-1000H (42)大理石塗装:アンカーベース
- MX-1000H (43)大理石塗装:ヘッドブロック
- MX-1000H (44)大理石塗装:完了
- MX-1000H (45)研磨と塗膜補正
- MX-1000H (46)サブウーファー=ボディがほぼ完成
- MX-1000H (47)塗装と表面処理が佳境
- MX-1000H (48)表面加工が全て完了
- MX-1000H (49)トゥイーターの取付、フックアップ
- MX-1000H (50)アンカーベースにスパイクを
- MX-1000H (51)やらかした!ドライバー挿入不能
- MX-1000H (52)又やらかしたか! 今度は…!?
- MX-1000H (53)プレ実測用のXoverを組む
- MX-1000H (54)遂に姿を現した?
- MX-1000H (55)大きさ感を比べてみよ~
- MX-1000H (56)アメイジングな超低域
- MX-1000H (57)2way Xoverアライメント
- MX-1000H (58)アンプが燃えても工作はできる!
- MX-1000H (59)利用スキームについて解説する
- MX-1000H (60)インピーダンス計測
- MX-1000H (61)ついに始動 Ver.A音出し
- MX-1000H (62)ソースによる音質差が
- MX-1000H (63)剣の峰を歩くだと?
- MX-1000H (64)VerA-Rev01の測定
- MX-1000H (65)Xoverを改良してRev03へ。
- MX-1000H (66)低域改良して年越しだぁ
- MX-1000H (67)音質改良:VerAのFIX
- MX-1000H (68)VerAの空気録音
- MX-1000H (69)で好ましく鳴る録音
- MX-1000H (70)再始動、今度はネイティブマルチアンプにチャレンジ
- MX-1000H (71)裏蓋をバラす~ドライバ直結型へ
- MX-1000H (72)5ch分のケーブルを配線する
- MX-1000H (73)MTMのXoverを考察する
- MX-1000H (74)全体的なジオメトリを補償する
- MX-1000H (75)Ver.Bの確定、Ver.C, Dへの展開
- MX-1000H (76)Ver.Eの実力とフルレンジ単体の性能
- MX-1000H (77)最終回、けっきょくMX-1000Hとは何者だったのか?
- MX-1000H (78) Reboot! 久々のパッシヴXover Ver.A
- MX-1000H (79)パッシヴXoverの最終調整
- MX-1000H (80)サブウーファーフィルター後の最終特性

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