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MX-1000 Homage(オマージュ)。

音質に対する総合的な所感は前稿で説明しました。今回は選定ソース毎にどんな感想になったかをツラツラ書いていきたいと思います。

MX用のせとり

前稿でも書きましたが、マトリクススピーカー専用のせとりを準備しています。
ANDROMEDAで聴いていると、サウンドステージ感が特に優れているもの。あるいは位相をいじっていることがアリアリで、スピーカーの超外側、真横まで定位が広がるようなもの。今回はこのせとりを中心に聴いていきます。

ただし、ステレオスピーカーで優秀なステージ感だったソースが、必ずしもMX-で有効とは限らない。ここがマトリクス型の難しいところです。マトリクススピーカーでは、モノラル集音で単純に「音量差だけ」で左右の定位を作り上げているもの(つまりほとんどの音楽ジャンル)は不得手。そうしたソースは左右どこに置こうがほぼセンターおダンゴになりやすいです。不得手と云うか、そういうモノだと思って聴けば、ラジカセみたいなもんなので、特段不満が大きいという訳でもありません。

ボリューム調整の難しさ

ヒアリング感想に移る前に、音量調整の難しさに触れておきます。

このラウドスピーカーは、特定のソースで、ちょっと音量調整を誤るとすぐに破綻するというか変な音が出てしまいます。普通のラウドスピーカー換算で音圧レベルを記述すると、最も能率の低いウーファーに揃えるわけだから、能率は75.5dB/2.83Vと極端に低く、なおかつ特定ソースで1W未満で破綻するのだから、ほとんど満足な音量で再生ができない。

== 一部のソースは本当に「再生不能」なのです。

これは本当に、前代未聞のラウドスピーカーといえます。「超低域が再生できない=伸びていない」スピーカーは再生可能だし大丈夫なのです。伸長しているからこそ、再生できなくなるというこのジレンマ。30Hz, 40Hzあたりからロールオフを始める一般的スピーカーなのであれば、全く問題なく再生できます。=変位破綻もタービュランスノイズ増加もないからです。

ワイドレンジなままでこれを根治するにはラウドスピーカーを巨大化するしかありません=> だんだんとANDROMEDAに近づいていってしまうわけです。

  

トラック毎の感想

せとりで印象的だったものを数曲ピックアップしていきます。
視聴感想はすべて遠点鑑賞によるものです。

Manger Test Disk : Music from anoother worldより
Der Himmel deckt alles mit Stille zu

オンマイクの朗読とSEのナマナマしさがポイントのトラック。
ANDROMEDAで聴くとダークネスの極み。総毛が泡立つほど生々しく不気味な肉声ですが、そこは二歩も三歩も後退。綺麗で鮮明ですが、ANDROMEDAほどの不気味なまでの緊張感はありません。音場はスピーカーを無視して展開しますが、一方でほとんどの音源がセンターに集中してしまいます。仕方がないのですが、これがパッシブ型のマトリクスの原理限界でもあります。

James B Welch
Dieterich Buxtehude-Praeludium, Fuge And Ciacona

これはもう。。。。ムリ~っ。
鳴り始めた途端、ボリュームを絞りました。

たった1分少しの、静かな静かなオルガン曲です。ですが、この短くて静かな曲にMX-1000は「持たない」のです。ドライバーはボトミング寸前でパコパコと雑音がし始めますし、ポートからはバルバルと壮絶なタービュランスが出始めます。

ほんの僅かな、そう、しっかり聴こえない、音楽鑑賞としては小さすぎるまでに音量を絞っていくと、ウルトラワイドレンジでフルフルと空気のゆらぎまで感じる、このサブウーファーの真価の片鱗は聴かれます。つまり、MX-1000Hの「美味しい音量レンジ」はあまりにも「狭い」のです。音楽鑑賞用としては「失格」と言って良いでしょう。

ただ、この危うい感覚は多くの市販ラウドスピーカーでは味わえない世界とも思います。なぜなら、市販製品はレンジが「狭く」そして「安全」だからです。ワイドレンジは音量許容量とトレードオフになります。

超低音を別にすれば、これはDavid Wilsonが録った純然たるワンポイントステレオレコーディングなので、ホールの空間感もfレンジも素晴らしいです。ただ、元々の録音のS/Nが凄く悪いんですよね。真空管マイクアンプのノイズが猛然とします、が、それを除けば最高レベルの録音。

Gong
A Sprinkling Of Clouds
これは、相性バツグンで素晴らしいです。多くの音源がスピーカーの位置を完全に無視して空間定位し、空間を駆け巡ります。ポピュラー系としてはうるささもなく、古い録音ですが未だにHi-Fi感満載の好録音。

ただし、ANDROMEDAなみに部屋中を音が駆け巡ったり、部屋が音塊で充満するかというと、さすがにそれには及ばない。空気感も濃密ではなく、少々スッキリしすぎです。

School of Seven Bells
A Thousand Times More

かなり派手目の録音です。スピーカーによってはちょっと綺羅びやかになりすぎたりキツイ音が出ると思いますが、MX-1000Hはこれもスッキリ整理して聴かせ、少しもうるささがありません。低域は良くはずんでサブウーファーの面目躍如といった感じ。

ポピュラー系は一聴凄い低音と思わせて、実はそんなに凶暴ではなく、極低い帯域も入っていないので安全なものが多いです。そういうことは、最低域が伸び切った特殊なラウドスピーカーで鑑賞したり、スペクトルを目視して確認しない限り、判らないのです。

Walter Tilgner : Waldkonzertより
Woodland Stream

こちらは聴感、「凄い低音」という感じが全くないのに、パルス的な超低音の変位量でスピーカーをぶち壊す、といったタイプです。これもバイノーラルのワンポイントなので、自然で広大な音場が素晴らしい。鳥の声は、鳥によりますが、スピーカーを全く無視して空間に定位します。

春の4分前後から始まる雷鳴がポイント。こちらも相性はよく、かなり実体感のある音を聴くことができます。ただし、ANDROMEDAのように現実音とすり替え・錯覚するほどの威力はなく、あくまでも「スピーカーから出ている音」の範疇は出ない音でした。

Sophie Milman
Beautiful Love
これもかなりイイ。
どうもMX-1000Hは予想に反してポピュラー系・JAZZとの相性が意外と良いみたいです。それもヴォーカルがいい。(今のところ。)

声は生き生きとし濡れたような艶もあり、ベースやドラムもよく弾む。低域が多少ドンスコ節で、ステレオ感が少々狭くこじんまりする事を除けば、十分鑑賞に足る音質です。

Higher Primates
Phases

これは、まったくダメ。おどろおどろしく重苦しい空気感と気配が空間を満たすというウルトラ級の録音ですが、MX-1000Hではその空気感がスカッとさわやか、どこかへ消し飛んでしまいます。あっさり、さっぱり、全然「恐くない」。

これの能率が低すぎることもさることながら、口径からして空間を蹂躙するようなエネルギーは不足するのかもしれません。全体的に録音レベルが低く繊細な音の連続だから、それを拾い上げる解像力と、それを空間に余す所なく伝える放射力の両方が必要になるんです。そのへんが超大型スピーカーと小型スピーカーの決定的な差になってしまいます。音量をあげずとも無理してる感がハンパなく、ドラムの入力でボトミング寸前のノイズが出ます。

大西順子
ザ・スルペニ・オペラ
これは、冒頭数分間の左右に別れた双発ベースがポイント。
トップレベルの破壊力と解像力をもったウッドベースですが果たして。これも相当に相性が良い。低域を伸ばしただけのことはある、安定して威力のあるベース。問題なし。隈取もなかなかイイ。

ただし、左・右からダブルベースの掛け合いが聴こえる・・・とは行かず、どちらもセンターから聴こえてしまいます(笑 基本的にはセンターのスピーカー周辺にほとんどの音像がへばり付いています。

Otmar Suitner / Staatskapelle Berlin
Mahler : Sinfonie Nr.5, 1st Movement.

ホールトーンや空気感が素晴らしい。
こちらはあまりスピーカーの存在を意識せず、自然なオケ表現ができていたかと思います。ユニゾンの表現もなかなかいい。ただ、トゥッティでホールが唸りを上げてドッと来るところ。どうしても低域のマッシヴな咆哮が汚らしくなってしまうというのか?ウーファーに無理をさせていることがアリアリと判る音質になってしまいました。そのへんは大型スピーカーに一日の長か。

Gidon Kremer
Bach: Partita No. 2 In D Minor, BWV 1004, Ciaccona
実に音色がいいです。
月並みな表現をすると、松脂が飛び散りそうな音。艷やかで濡れた高弦が心地よい。弦楽器との相性がバツグンです。私はFOSTEX FE~系の弦が決定的に苦手なのですが、これならば許容範囲です。

Vangelis
100 Meters
こちらは昔から定番でマトリクスとの相性バツグンの1枚。
さすがです。部屋を突き抜けて、「無限音場なのか?」というくらい何処までも何処までも空間が拡がっていきます。

Steven Wilson
Pariah

これも、素晴らしい。
最近のポピュラー系のレコーディングエンジニアリングの真骨頂みたいな音質で、個々の楽音の品位もさることながら、空間デザインも凄みを感じさせます。評価用として最適な1ピース。

ここでは一部のみ取り上げましたが、昔の印象と同じです。ソースの選り好みがすさまじいスピーカー。何でも美味しく食べられるわけではありません。

低域に無理をさせていることとも相まって、まったく受け付けられないソースもあったし選り好みが激しく、アタリハズレの多い結果となりました。音量調整にもかなり神経質で、基本的には小音量専用のモニターです。

サウンドステージに広がりはありますが、超えられない限界も見えてきました。

・・・・・・・・・・・・

と。 結構ネガティヴな意見や諦観が沢山書いていますが、実はこの後に大逆転が待っていたのです。次回はその辺を・・・。

 
 

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投稿者

KeroYon

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