MX-1000 Hommage (以後略してほまげ?)の設計制作を開始します。
ここからは連番で設計と制作のプロセスを、一切のギャグ無しで冷徹に記録していきます。
これを誰かがまんまトレスするという可能性は皆無なのでどちらかというと自分用の備忘録。
Andromedaでも当時の記録が後日非常に役立っています。まさにこれが本来「ブログ」の役割です。
きっかけ
日本でスピーカーを制作するような方は大なり小なり鉄男師の影響を受けていると思っています。私もご多分に漏れずその一人です。ただ、私の場合末期だったためでしょうか「信者」とまではなれませんでした。鉄男師から教わったのはスピーカーの作り方というより、書籍を通じてのソフトウェアの見つけ方だったり、物事の考え方や取り組み方などとても本質的な部分です。そんな、BHの音質が決定的に苦手だった私でもフックされたのが、マトリクススピーカーでした。学生の頃にMXをそのまま作ると高いのでお安いFE-87(だったっけ?)を買って貰って、手抜きの縮小版を作ったりしていました。そんな少年期の原体験が今回のモチベでエンジンになってます。

マトリクス・スピーカーの原理
マトリクス・スピーカーは「ラジカセのようなもの」という言い方も出来ます。
筐体がとても小さいですから。ラジカセも小さな筐体からステレオ再生をしていて、左右のスピーカー間隔がとても狭いです。それでもステレオ感が全然無いわけではない。そこ、何とか改善したい。ラジカセやコンソールステレオのような狭い筐体でも、ステレオの広がりある音場感が何とかならないのか?で生まれたのがマトリクスの技術です。今でもこの差信号混合の考え方はテレビ音声などで生かされています。
マトリクス(信号)とはその名の通り、行列式から来ています。
すなわち、左右信号を行列式で表わすと、


これで生成された実際にラウドスピーカーの配置に割振りすると、


この結線図です。
しかし、これをそのまま模倣するつもりは全くありません。
このように、LとRの差分信号を左右のスピーカーから発音することにより、中央部の和信号との「打消」=逆相による相殺が発生します。そのことにより、とても小さな筐体から左右の広がり感を得ようというのが目的です。しかしこれで平坦かつHi-Fiな再生は可能なのでしょうか?(可能なわけないでしょ。)
しかしながら、この方式からは逆相成分が誇張された、広がりのある、とてもフシギな音がする、そこが欠陥であり魅力です。
構想とターゲット
ネット検索をしてみると、鉄男師のマトリクススピーカーは、数多くのフォロアDIYerによってコピー/創作されているようですね。私のは五十番煎じか百番煎じか。
マトリクススピーカーの始祖さまをMX-1、もしくはMX-10と置きますか。
これらを、理論上も特性上も音感上も圧倒的に凌駕する、というのがターゲットです。これから始祖さまの課題を幾つか挙げます。これら、元の課題を個々に解決することがMX-1000の目標です。
課題1. ナローレンジである
ここは一番に何とかしたい課題です。
私はワイドレンジではないラウドスピーカーは許せないタチなので、可聴帯域をほぼフルカバー、かつ出来るだけ平坦な特性を狙います。(後者はちょっと怪しいですけど) その解決策として、モノラルのサブウーファーとトゥイーターを追加しています。
特にサブウーファーは実績のある構造で、18Hz付近までフラットに再生できるはずです。
ここで、「位相特性のよいフルレンジだけで構成するから意味があるのであって、モノラルのウーファーなんか追加したらもうマトリクスじゃ無いじゃないか?」などの重大な誤解があると思います。低域の波長を考えた時にたかだか40cmの左右幅は意味がありません。低域はモノラルで良いのです。またフルレンジの位相特性は最悪なので、フルレンジさえ使って他を排除すれば位相特性が担保されるというのも幻想です。まして、自ら逆相を混入したり多数ドライバーの干渉が生まれてる時点で最初から位相的には「詰んでいる」ので、そこにこだわるのも無意味です。
後継のMX-10等はダブルバスレフで低域を伸ばす工夫をしていたようですが、10cmフルレンジだけで可聴帯域をフルカバーするのは無理がある上、エンクロージャー設計も経験とカンに頼っただけのメクラ打ちの設計なので、満足な平坦再生が出来るわけもありません。よって、適切な設計のウーファーを追加することがBESTと判断しました。
課題2. 分割振動、カラーレーション
4″ (10cm)のドライバーで全帯域をHi-Fi再々するのは土台無理です。

4インチというと、多少オマケしてみても、4kHzより上は全部分割振動の集積と言って良いと思います。したがって、位相はぐるぐる回り続けます。実際に計測してみてもフルレンジの位相は大きく乱れます。したがって、位相特性が大切と言いたいのであれば最初からフルレンジなど使わないこと。優秀なトゥイーターは可聴帯域でピストンモーションしますので、最小位相もピシャリと回りません。コヒレンスを大切にしたいのであればそうした優秀なトゥイーターを使うべきです。フルレンジと優秀なトゥイーターの最小位相特性を測定して見比べてみましょう。残酷なほどの特性差に愕然としますよ。
とはいえ、これはマトリクススピーカーですからフルレンジが混入してくる、そこも何とかしたい。

始祖MX-1に使われていたFE-103(系列)とTangband W3-2141では実際の口径差以上に設計の違いがあります。
FEはヴォイスコイル径が小さく、ダイアフラム径が大きい。対して、Tangbandはヴォイスコイル径が大きく、実効ダイアフラム径は小さい。もうお分かりでしょうか、これらによってTangbandの分割振動帯域は高い方へシフトします。
FEが4KHzまでしか使えないとするのなら、W3-2141の高域は7kHzくらいまでなら使えそうです。実際それを裏付けるように、W3-2141の最小位相特性は(フルレンジにしては)優秀でした。
課題3. 位相干渉、指向性、振幅と位相の非平坦
4本のフルレンジで、同じ帯域:高域を再生すると位相干渉によって高域は落ちますし、指向特性も劣化します。つまり、設計思想が位相を大切にするような産物なのに、逆に位相をメタメタにする実装になっているということです。そこも多少なりとも改善したい。
フロントのL+Rだけでも何とかならないかという対策として、トゥイーターを足して2wayとしてみました。
これによって、以下メリットが生まれます。
- 4~5kHz以上は完全なモノーラル再生になり、指向特性が向上する。
- 5kHz以上は1本で再生するので高域の位相干渉/位相の乱れは無くなる。
- フルレンジはハイカットされるので高域の分割振動は除外される。
- フルレンジがハイカットされたことでカラーレーションも減ずる。


上図はFOXTEX FE-103 Solの特性です。
4kHzより上は期待できませんが、そこをトゥイーターで代替することで大幅な特性改善・聴感改善も見込めます。
Avalonはたった3インチのミッドレンジを、4kHzまでしか使っていません。
使えるのにそうしているのではなく、”使えないから”使っていないのです。
課題4. バックキャビティの干渉によるモノラル化
MX-1やMX-10は、差信号用のD3~D4と、モノラル信号のD1~D2が同じエンクロージャーに収納されていました。差信号用のドライバーは原則として低域信号を打ち消す方向へ働いてしまうので、4本を混合したエンクロージャーでは低域再生がかなり不利になります。また、排圧を介して相互の信号が干渉するので、トータルで数百Hz未満の中低域未満では背圧干渉により「モノラル化」してしまい、せっかくのマトリクスもマトリクスではなくなっているという見方も出来ます。

そこで、本MX-1000では差信号用のL-R, R-Lの背面を完全な独立エンクロージャーで覆い、相互干渉を絶ってみました。
原理的にモノラルに近い超低域はL-R, R-Lで打ち消されているはずですので、D3, D4(差信号)においては低域再生がほぼ必要ないはずです。同じ理由で、サブウーファーは波長が長く、(記録されている信号ではなくて)左右の空間合成信号がほぼ一致するのでモノーラル構成としています。

D1+D2はもともとモノーラルで再生したい狙いがありますので、むしろ背圧が干渉して信号が混成するのはウェルカムです。
ですが、D3,D4はどうでしょう。差信号だけを再生したいのに、D1,D2の背圧に煽られて、和信号が混成してしまうんです。
全体構造
上記のターゲットスコープを基に、全体構成を決めています。
まず、上部のマトリクスヘッド、下部のボトムサブウーファーは単体でも利用できるように、分離構造を採っています。それを1本のビスで結合して使うイメージです。

上部のマトリクスヘッドは、前述のとおりエンクロージャーの分離構造を採っています。

左右の差信号ブロックはエンクロージャーが独立した密閉型です。
一方、中央部の和信号ブロックは2つのPRを用いたパッシヴラジエーター型を採っており、小容量・単体でも良好な低域再生を狙っています。ここで手を抜くと、サブウーファーと平坦に繋がらないのです。

4インチ(10cm)という口径はマトリクススピーカーには口径が大きすぎるのではないかと常々考えていました。
まず、4インチを使ったMX-1は実際に目の前にすると、けっこう幅が大きくて威圧感があり大きすぎるということ。また、位相や音場を最優先するのであれば、分割振動を抑制できかつ放射面積が狭くなる3インチの方が有利なのでは?という仮説です。
惜しむらくは、W3-2141のフランジやモーターシステムが立派過ぎで、思ったよりも小型化出来なかった所です。

下部のボトムサブウーファーは、6thバンドパスの構造を採っています。
たった3.5インチのウーファー、たった8リッターの箱ながら、18Hz/-3dBのワイドレンジを達成するウーファーです。UltimateMicroSubで実績のある実装ですが、それをやや縦長にすることでスピーカースタンドも兼用する形です。
6次バンドパスウーファーは、前面と後面のポートを長い経路で通し、最終的に前面バッフルから合成して放射する構造を採っています。このポートは位置を分けても良いのですが、最終結果の測定(答え合わせ)がものすごく楽になるので、出力位置を一致させています。

パーツリスト
ご紹介するパーツは「時価」になります。(そういうものですよね)
元から所持していたものも、「現在買うとこうなる」の金額を記入したため、この金額が全て掛かったわけではありません。
その他パーツ
- ケーブル少々
- ターミナル少々
- 吸音材少々
- ねじ少々
- 接着剤少々
- サーフェーサー少々
- 塗料少々
- サンドペーパー少々
- マスキングテープ少々
この、「少々」というのが曲者で。実はのちのちココに凄いコストが掛かったりします。
例としてAndromedaでは上記「少々」の部位に6万円以上(推定)のコストが投下されてしまいました。(当初は当然、当人はそんなにコストが掛かるとは思いもしていません)
今はそこのコストは観ないことにしています。
気長に〜
これらパーツの納期は、最長のもので6月中旬・・・なんと、梅雨時か~。
各品目、もう少し納期を確認すればよかったか?
しかし焦るつもりは全くありません。
最長で一年位かけるつもりで、大きなプラモデル感覚で、じっくり楽しみながら作って行きます。

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