MX-1000 Homage(ほまげ)。本日は長文です。
さあ、マルチアンプで早速音楽試聴だ~!
・・・と行きたいところなんですが。その前にやらねばならないことがあります。
下図の通りMX-1000HのセンターセクションはMTM構成での2wayになっています。その2wayのXoverを最適化しなければなりません。

実装といっても私はダッシュボードをいじるだけですが…
Xover実装へ移るそのまえに、ちょっとMTMクロスオーバーの最適解について考察を加えておきましょうか。
MTMに3rd.が最適と言われているワケ
一時期(といっても大分昔ですが…)MTMには-18dB/oct = 3rd. が最適と言われていた時期があります。その事だけは覚えていた。しかし当時は「ふ~ん」位で理由を真面目に考えたことは無かったので今回少しツッ込んで調べてみました。
3次というと、クラシカルなButterworth 3rd.の事ですね。(以下BW3)
本当はLR3なんていうモノが在れば良かったのですが、Linkwitz-ReileyのフィルタはButterworth^2のスタガで形成されるものだから、原理的に偶数次つまり2次/4次/6次/8次しか存在しないのです。
BW3ではドライバの位相はそれぞれが交差点で135度ずつ回りますのでドライバ間位相差分は270度=-90度近くなります。そこで無理くり正相接続は可能ですがディップが生じますし群遅延も劣化します。少なくとも、合成点での振幅特性補償のための工夫は必要になります。
ドライバーを逆相接続してしまったらコヒレンスは一貫の終わり。これはアマチュアの方でも直感的に判ると思いますが、そういうスピーカーシステムが多いのです。

振幅は平坦にならないし群遅延は劣化する。=黙っていてもコヒレントではない。なのになんで3次が優勢とされたのか?調べていて、どうやらこれかなというリソースにたどり着きました。
MTMによる2way(=2M+1T)は、一般的な 1M+1Tの2wayに比べてビーム制御に有利で、 ロービングを改善できるというのが最大理由のようです。
簡易的にLobingの模式図を描いてみます。

[ Lobing of General 2way System ]
こちらが一般的な 1M + 1T の2wayにおけるLobingの様子です。
2wayはずばーんと帯域がカットされる訳ではなく、比較的ブロードな帯域でオーバーラッピングします。そうすると特定の帯域で指向性のコブやヘコミが生じます。これがロービングです。また通常の2wayでは、ミッドバスとトゥイーターが上下いずれか一方のみで配置されるため、ドライバー間の中心線がオフセットし、クロス帯域での位相・振幅バランスが傾きます。つまり上下で指向性アングルに偏りが生じる。これが通常2wayの問題点です。

これがMTMにおけるロービングの様子。カラー・ラインがXoverスキームによるロービングの違いを表しており、ブルーラインがBW3です。確かに上下対称性やLobingは改善されたかのように見えますね。確かに、この二図だけを観てしまうと誰でも騙されます。でも、この図にはレトリックが混ざっていますので見誤らないようにしないといけません。
確かにMTMでは従来型2wayで存在した“主ローブの傾き”が無くなるため、リスニングエリアでの高周波落ち込みが特定の上下動作(立ち上がり/座り込み)で著しく変化しなくなります。
また側面に発生する副ローブ(サイドローブ)は上下に同一強度・角度で出るため、リスニングポイントでの変動が滑らかになって、急激なディップによる定位の不安定化を防げる効果も認められます。
副次的な効果として、ビーミングの制御が上げられます。音源が上下分散しますので上下への指向性は狭まり、床や天井からの二次輻射による悪影響をリジェクトしやすくなるそうです。
しかし上記のロジックにはレトリックがあります。3rd+MTM化で完全にローブが消失するわけでは無いのです。「上下に対称なサイドローブ」は必ず残るため、極端な上下方向のオフアクシス(軸上外)では音抜けが落ちる点は変わりません。また、「1波長分離」と「同位相駆動」のズレが生じると、前提であるはずの対称性は崩れます。逆に通常2way以上にロービングが顕在化してしまうリスクはあるのです。
オーディオの世界に限らず、一面での性能向上ばかりに視点が向くことで総合的な判断を見誤ることがあります。MTM+3rd.もそれに類する議論だと思いました。
MTMは擬似的なコアキシャルになるから一見理想的でコヒレントにも感じられるが、現実には真コアキシャル同様に、コヒレンスを達成するための課題がある。
まとめると:
- 上下ビーミングの制御とロービングの改善に限って言えばBW3の採用には一定のメリットが認められる。
- しかしBW3は極端に群遅延が劣化することと、同相接続では振幅ディップが避けられないことから別途補償回路が必要となり、コヒレンスを重視するなら推奨できない。
- ロービングではなく軸上コヒレントだけを優先するならばLR2かLR4の方が妥当。
- MTMの真価を発揮するにも2Mの距離をできるだけ縮め、波長を稼ぐ。それと共に2wayのクロス周波数は可能な限り下げねばならない。
MTMと一般的な2wayのメリデメを簡単な付表へまとめてみました。
| 観点 | 一般的な2way | MTM (+coaxial) |
|---|---|---|
| 帯域内コヒレンス | ◎:ドライバー1本ずつ → 位相・遅延の整合性が高い | △:上下ミッドの干渉が出やすく位相歪みのリスクあり |
| 垂直方向の指向性 | △:天井・床への放射が強く反射音が混ざりやすい | ◎:垂直方向ビームが狭く、間接音影響が減る |
| 位相補正のしやすさ | ◎:単純なオフセット補正で整う | ◯:対称構成なので補正設計に意味がある |
| 実装難易度 | ◎:設計がシンプル | △:フィルター設計やユニット配置に高度な制御が必要 |
これが私の結論です。
一方で、割と良いんじゃないかと思ったのがLR2です。確かに指向特性は極端に狭くなってしまうのですが、どうせMatrixでは軸上で聴くことを余儀なくされますから、指向性が狭いことはむしろ有利に働きます。(二次輻射の影響をリジェクトできてトータルでのコヒレンスが向上する)
少なくともBW3よりは指向性が劣るもののコヒレンスでは上回り、群遅延の上昇も避けられそうです。まずはLR2で始め、つづいてLR2+BW3を試してみようかなと思いました。

上図は通常の2way 対 MTMのタイムレスポンスと、それの群遅延をシミュレーション比較してみたものです。必ずこうなるというものでもありませんが、MTMでは群遅延特性が局所的に大きく劣化する傾向になりますね。
こうして検証すればするほど、無理にMTMにするメリットが希薄に感じられてきました。コヒレンスを犠牲にしてまでディスパージョンやロービングを改善する必要があるのか?どのみちMatrixは軸上でしか聴かないのだから、ロービングが出てもいいのでは?フルレンジ1+トゥイーター1 (1M+1T)の2wayにする方が無難に思えてきます。少なくともコヒレンス面では優位です。
実のところ、上に書いた数々の課題はCoaxialドライバの場合も同じです。コアキシャルは理想ドライバのように語られることが多いのですが、実のところは多くの原理的な課題・技術的な課題が山積しており、必ずしも理想ドライバーとは呼べません。
ところでマトリクススピーカーとはそもそも、
#1 = R-L
#2 = R+L
#3 = L-R
この3ドライバのみで構成するのが最も理想コヒレント。理論上はね。ただしそれは#1, 2, 3が全部コヒレントで超線形なドライバの場合に限る; 残念ながらそんなフルレンジは世界中のどこにもありません。
私の場合はセンターフルレンジを1本にもできるし、トゥイーターを切って1wayで1ドライバにもできるし、何だって出来るわけです。MTMだけでなくそれらも追試する予定です。
ところで1970年代~90年代、つまり日本オーディオ全盛期の国産スピーカーを見ると、XoverはBW2による2次フィルターばかりに見えています。これらはコヒレンスという観点では最初から詰んでおり、何をどうやろうがどうにもならない状態です。私は日本人には技術志向だと思い込まれている国産スピーカーはワールドワイド視点では20~30年技術が遅れているガラパゴスだと思っているのですが、その理由のひとつがXover設計です。ちょっと脱線がすぎるのでこれは別稿で起こそうと思っています。
Xover調整の実際
miniDSPのセットアップを行います。

[ch1][ch2]…ではなく、各chに判りやすいネーミングを施しました。
まずはセンター・トゥイーターのチャネルだけを有効にして、小音量から徐々に音量を上げて本当にトゥイーターの割当なのか?を確認します。そこのchアサインを間違えるとトゥイーターへ低域が印加されて壊れます。ほかは多少のオフセットが加わっても大丈夫。

次に、Subや差信号chは休止状態とし、センターチャネルのみ有効にしてXover調整と測定を行います。ここは何ループかします。
予習の結果、コヒレンスと指向性を総合的に勘案するとMTMにはLR2かLR4が良さそうだと結論したので、まずはLR2で試します。調整に難儀したらLR2とBW3の混合を試します。

ご覧のとおりで、まずは高低ともにLR2を適用してみました。
そしてクロスは3500Hz。パッシヴXoverの頃に比べるとだいぶ低めです。MTMは、ドライバー間距離に対して十二分に長い波長つまり低いクロスオーバーにしないと利点が無いと学んだからです。
これって今回は小口径フルレンジのMで挟んでいるから有利ですが、一般的なMTMでは厳しい条件ですね。トゥイーターを選びますし、大口径Mには向かないでしょう。拙宅でLobingの検証までするのは面倒ですので、いつものように軸上振幅特性と群遅延特性だけで判断しようと思っています。
初視聴
さてさて。
実はこの原稿を書いてる時点で既にササササ~っと。ひとしきりの測定と初期調整が終わり、一発で割と整った特性が出てしまったのでその状態で音楽を聴いています。
コイツ。。。やべぇ奴です。
マジでヤヴァい。
とんでもないモーレツ・スピーカーに豹変してしまいました。少なくとも前身であるPassive MX-1000Hとは全く別モノです。人格が・・・キャラが全然違うのだわ。凶悪。
まさかまさか。たかがDSPに移植しただけでこんなに変わると私も思っていませんし、大して期待もしてませんでした。いま片っ端から色々なソースを聴いていますが、軽く、いや相当に、ショーゲキを受けています。なんでこんなことになるの?
もちろん、アナログドメインを単純にディジタルドメインへ移植したわけではないのです。実は、音が大変貌する調整ポイントを見つけてしまったのですが。そこは次回。
次回は詳しい調整のようすと、試聴感想を上げたいと思っています。
とりあえず、トータルでの実測SPLだけでも上げとくか。

だいぶ良くなりましたが、大して整ってはいませんし以前の実測と大差はありません。しかし特性だけでは語れない良さが出てきました。
それでも低域はやっぱり 17Hzあたりまで伸びていますよね。(笑)
くどいですが、そのせいで全く大音量は出せません。そこは変わらないのね。

【この連載の目次】
- 次のスピーカーは奇行種を作ってみたーい
- チビ鬼ウーファーの再設計:MX-1000
- マトリックス用の板をオーダーしちゃった!
- MX-1000H (1)コンセプトと構造のご紹介
- MX-1000H (2)基礎設計
- MX-1000H (3)システムトポロジ
- MX-1000H (4)ボード加工図面
- いろいろなモノ、ぞくぞく着弾~
- MX-1000H (5)箱の組立手順
- MX-1000H (6)エンクロージャー材料も到着
- MX-1000H (7)木材にナンバーを
- MX-1000H (8)設計変更と木材ケガキ
- MX-1000H (9)中華パーツ着弾するが買物失敗
- MX-1000H (10)ボード二次加工開始~穴開け
- MX-1000H (11)トリマーで角穴を空ける手法
- MX-1000H (12)トゥイーターを選定するよ
- MX-1000H (13)バッフルのフラッシュマウント加工
- MX-1000H (14)フラッシュマウント加工の2
- MX-1000H (15)内部板材の二次加工
- MX-1000H (16)ミッキーさん耳加工
- MX-1000H (17)ミッキー耳貫通とバスレフポート
- MX-1000H (18)最大の角穴とマグネット干渉部のザグリ
- MX-1000H (19)ミッキー板の完成と、トリマー選びの大失態の話
- MX-1000H (20)左右スラントバッフルの切除加工、新トリマーよ頼む
- MX-1000H (21)スピーカー端子の穴!…とチョイ斜め削り
- MX-1000H (22)鬼目と爪付きをひたすら打ち付ける
- MX-1000H (23)仮組みをしてみる
- MX-1000H (24)マトリクスヘッド-組立開始
- MX-1000H (25)組立手順をチョイ変更
- MX-1000H (26)左右スラントバッフルを接着
- MX-1000H (27)面取り、ガスケット制作など
- MX-1000H (28)底板接着とインナー塗装
- MX-1000H (29)サブウーファーポートの成型
- MX-1000H (30)ヘッドのエッジカットと整形
- MX-1000H (31)ヘッドの下塗装、サブのボディ組立
- MX-1000H (32)サブの側板と、小鼻
- MX-1000H (33)ボディの組立完了
- MX-1000H (34)ボディとベースの下塗装開始
- MX-1000H (35)ひたすら研磨塗装研磨塗装研磨塗装…(以下略
- MX-1000H (36)サーフェイサーで塗装工程も佳境
- MX-1000H (36.2) 用のスピーカーベース
- MX-1000H (37)塗装の下処理がすべて完了
- MX-1000H (38)ボディをザラザラ・コンクリート調へ
- MX-1000H (39)ボディ仕上げとパッキン制作
- MX-1000H (40)マーブル塗装のジグ準備
- MX-1000H (41)鼻カッパー
- MX-1000H (42)大理石塗装:アンカーベース
- MX-1000H (43)大理石塗装:ヘッドブロック
- MX-1000H (44)大理石塗装:完了
- MX-1000H (45)研磨と塗膜補正
- MX-1000H (46)サブウーファー=ボディがほぼ完成
- MX-1000H (47)塗装と表面処理が佳境
- MX-1000H (48)表面加工が全て完了
- MX-1000H (49)トゥイーターの取付、フックアップ
- MX-1000H (50)アンカーベースにスパイクを
- MX-1000H (51)やらかした!ドライバー挿入不能
- MX-1000H (52)又やらかしたか! 今度は…!?
- MX-1000H (53)プレ実測用のXoverを組む
- MX-1000H (54)遂に姿を現した?
- MX-1000H (55)大きさ感を比べてみよ~
- MX-1000H (56)アメイジングな超低域
- MX-1000H (57)2way Xoverアライメント
- MX-1000H (58)アンプが燃えても工作はできる!
- MX-1000H (59)利用スキームについて解説する
- MX-1000H (60)インピーダンス計測
- MX-1000H (61)ついに始動 Ver.A音出し
- MX-1000H (62)ソースによる音質差が
- MX-1000H (63)剣の峰を歩くだと?
- MX-1000H (64)VerA-Rev01の測定
- MX-1000H (65)Xoverを改良してRev03へ。
- MX-1000H (66)低域改良して年越しだぁ
- MX-1000H (67)音質改良:VerAのFIX
- MX-1000H (68)VerAの空気録音
- MX-1000H (69)で好ましく鳴る録音
- MX-1000H (70)再始動、今度はネイティブマルチアンプにチャレンジ
- MX-1000H (71)裏蓋をバラす~ドライバ直結型へ
- MX-1000H (72)5ch分のケーブルを配線する
- MX-1000H (73)MTMのXoverを考察する
- MX-1000H (74)全体的なジオメトリを補償する
- MX-1000H (75)Ver.Bの確定、Ver.C, Dへの展開
- MX-1000H (76)Ver.Eの実力とフルレンジ単体の性能
- MX-1000H (77)最終回、けっきょくMX-1000Hとは何者だったのか?
- MX-1000H (78) Reboot! 久々のパッシヴXover Ver.A
- MX-1000H (79)パッシヴXoverの最終調整
- MX-1000H (80)サブウーファーフィルター後の最終特性

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