
本日もかなり長大な話。しかし、少しでも室内音響を改善したい向きは、ぜひ最後までお付き合いください。
序論
過日、以下の記事でも触れましたが、
ルームアコースティックに対し、「壁から離した方がよい」、「吸音パネルをXXへ貼るのがよい」、、、どこかで聞いてきたかのような経験則やカンに頼った調整は「だいたいハズレ」ます。
また一方、部屋の構造で出来てしまったPeakやReverse Nullを、AudacityやREWといったツールで強引にフラットにすることはお勧めできません。LPポジションにおける特性は「見かけ上」平坦にはなりますが、人間の耳には決して平坦には聞こえませんし、少なくとも時間軸特性は壊されます。=大概において、著しくおかしな音になります。
手順として、
- Room Simulatorで装置を正しい位置に置き、正しい位置で聴くこと
- 調度品、吸音装置、カーテンやカーペットなどの設置で、微量ではあるが、特性を少しだけ改善すること
- 正しい測定装置と測定手法で、正しく答え合わせと検証をすること
- 残った瑕疵を、ほんの微かなイコライジングで整えること
それもフルオート任せはダメです。効かせて良い場所といけない場所の見極めをし、最小限の適応量とする
今回ご紹介するのは1番。なにをするにしても、最初のプロセス。基本中の基本をご紹介します。
それは定在波の課題解決。
定在波というのは主に低域〜中低域に対して作用し、非常に強力なものです。たいがいは下記3点で決まってしまうものだからです。
- 部屋の寸法
- スピーカーの配置
- リスニングポイント
部屋の寸法というのは自宅施工後に容易には変えられませんから、主に2と3を調整してなんとかする事になりますね。
世の中には、そうした作用を吸音材や音響パネルでなんとかする、という常識をお持ちの向きもあるかもしれません。しかし、定在波というのはそんなに生っちょろいものではない。気休め程度にしか効果がないのです。
シミュレーターを少し触れば、そして正しい(そこ重要)測定環境をお持ちであれば、そのことをまざまざと体感できるでしょう。
今回は数あるルームシミュレーターの中でも、REW (Room Acoustic Wizard) を使ったシミュレーションの操作方法をご紹介します。思い込みや先入観は改善の邪魔になります。論理的なアプローチと正しい測定だけが、本当の改良への近道になります。
REWとRoom simの起動
REW Mac版を元に説明します。
REWを起動します。
TOPのメニューから [Tools] – [Room sim] と操作します。


これがREWのルームシミュレーターを起動した状態です。
では、このアプリを使ってセットアップを行っていきましょう。
リスニングルームとラウドスピーカー位置のセットアップ
部屋の寸法

設置している部屋の実際の寸法を記入します。
一応説明しておくと、Widthがラウドスピーカーを設置している壁の長さ。Lengthがリスニング方向への部屋の長さです。Heightが天井高。

そのように部屋の寸法を記入すると、それが下部のルームレイアウト図にそのまま反映されます。
ラウドスピーカーの設置位置
部屋のセットアップが決まったら、今度はラウドスピーカーの設置位置を調整しましょうです。

上図は平面上のXY位置。下図は上下方向のZ位置です。
現在、どんな位置に設置しているかをメジャーで測り、だいたいその位置になるようにラウドスピーカーをマウスで動かしましょう。
この位置ですが、「ウーファーの振動版前面」を基準値に考えます。定在波は低音中低音だけだからです。
4wayの場合は、サブウーファーとミッドウーファーの両ドライバーを設置し、クロスオーバー設定をしましょう。

右側に表示されるグラフがラウドスピーカーの部屋影響による振幅特性(ルームシミュレーション結果)です。
どうでしょうか、部屋の影響で大きく特性が暴れていますね。「音楽にならないほど」置き方ひとつで音質は壊れてしまうのです。また、
- 部屋の寸法を変えるたび
- スピーカーの設置位置を変えるたび
面白いようにこのグラフが変化する様子が分かるかと思います。
逆の言い方をすれば、「少しでもマトモなグラフになる位置を」この仕組みで「探す」わけですね。
いったん設置位置を「決めてしまった」後は、少々何をしようが一向に特性傾向が変わってくれないことも体感できると思います。部屋を作った段階で、音響特性は「半分詰んでしまう」し、さらにスピーカーの位置を決めて動かさないとすれば「もう半分も詰んでしまう」のです。
また、数cm、数mm動かしても特性傾向は全くといっていいほど変わらないです。大きく思い切って動かさないと効果なしです。ミリ単位で追い込む…とか言えばプロっぽくてカッコイイですが、その実出音は「体調不良レベル」でしか変わりません。もし動かすときはドーンと大胆にレイアウト変更しましょう。
リスニングポジション
ラウドスピーカーの位置と同様に、今度はリスニングポイントです。
普段お聴きの場所、高さを正確に測り、位置を調整しましょう。

こちらも、リスニング位置を動かしていくと、グラフが劇的に変わることが分かると思います。
部屋のサイズ変更ができない限りは、「ラウドスピーカーの位置」「リスナーの位置」この2つがいかに支配的か、グラフを診ているだけでも分かります。
以上、
- ラウドスピーカーのポジション
- リスナーのポジション
この2つを調整することが、基本にして究極です。極論すれば、「ほかは枝葉」です。
例えば、スピーカーの置き場所が制限されていても、聴取位置なら変えられるかもしれない。耳の高さを調整してみることも大きな意味があります。また、スタンドや台でウーファーの高さを変えることも定在波には大きな効果があります。
そのとき、めくら打ちでカンと聴感だけで判断するには限界があります。パッと聞き一瞬よいと思うかもしれないが、長い期間では必ず不満が出てきます。そんなとき、シミュレーターや正確な測定に頼りましょう。測定値と聴覚の相関で必ず腹落ちできる瞬間があると思います。

グラフのなかの縦棒は定在波の節や腹。つまり共振モードの周波数を示しています。

これらは、出っ張ったり凹んだりはしてくれるけど、なかなか動いてはくれない。動いてくれないけれど、「できるだけ均す」はできるのです。色々と工夫をしてみましょう。
壁面の吸音率

Surface Absorptionsとは。簡単に言ってしまえば壁や床の吸音率です。
と、言われても。具体的に記入は難しいでしょうから、代表的な入力値を表で示しておきますね。
| 表面の材質・物 | Absorption入力値の目安 | 低域での性格 |
|---|---|---|
| コンクリート・モルタル | 0.01 | ほぼ完全反射 |
| 石膏・漆喰の平滑壁 | 0.01~0.02 | ほぼ反射 |
| 壁紙を貼った石膏壁 | 0.02 | ほぼ反射 |
| 塗装したコンクリート | 0.01 | ほぼ反射 |
| レンガ | 0.03 | ほぼ反射 |
| 木板・木製壁 | 0.1~0.15 | 少し吸う |
| ガラス窓 | 0.1 | 基本反射 |
| 厚いカーテン・ドレープ | 0.1~0.2 | 少し~中程度 |
| タペストリー | 0.2~0.25 | 意外に効く |
| 壁から離した厚手カーテン | 0.2~0.3 | 空気層で効く |
| 薄手カーペット直敷き | 0.05 | 低域にはほぼ無効 |
| 厚手カーペット+下地 | 0.15~0.2 | 250 Hzから効く |
| ソファ・布張り家具 | 0.3~0.4 | かなり吸う |
| 本棚・本が詰まった棚 | 0.3~0.4 | 意外に大きい |
| 木製ラック・空ラック | 0.1 | ほぼ拡散体 |
| 木製ルーバー・柱状拡散板 | 0.1~0.2 | 主に散乱 |
| 50 mm厚の吸音材 | 0.2~0.3 | 125 Hzではまだ弱い |
| 100 mm厚の吸音材 | 0.4~0.5 | 低域にも効き始める |
| 150~200 mm厚の吸音材 | 0.6~0.8 | 低域吸音として有効 |
| 本格的な超大型ベーストラップ | 0.5~0.8 | 構造次第 |
| 膜・ダイアフラム型低域吸音 | 0.5~0.8 | 共振周波数付近で強力 |
ここで示す値は、実測された材料固有の吸音率ではなくて、REWの1値モデルに落とし込むための実用的な代表値です。実際には、60Hz, 125Hz, 250Hz… と吸音率は変化するのですが、REWでは1値しか入力できませんから。
ここで重要なことは、
- けっこう大掛かりな吸音パネルの「つもり」でも、実際には大した吸音率は無い
- そして、その「大したことないもの」を少々貼ったところで定在波は思ったように変化してくれない
という認知ができることです。これは自分で数字を入力してシミュレートしたり、はたまた実測してみると、効果のないことを実感できるでしょう。
反対に、思った以上に効果があるのは「大きな体積を持った家具」です。本ぎっしりの大型本棚など。それは体積があるからです。加えて、隣室へのドアを開け放して密閉の逃げ道を作る(ベーストラップ)など、劇的ではないがそれなりに効果が見込めます、密閉室よりはずっと。定在波は低音だから、よほど巨大なものにならないと、吸音パネルごときでは効果が無いのです。共鳴現象ですから、物凄いエネルギーとパワーを持っている。
つまり、「いったん生じてしまった弱点」はなかなか室内音響デバイスで改善はできないということ。また、定在波で出来た大きなNullをオートイコライジングすると、必ず音質は悪くなります。
では、どうするか? ・・・そこが本稿の出番になります。
- ラウドスピーカーの置き位置
- リスナーの聴取位置
この2調整で、可能な限り問題回避し、音質劣化を未然に防ぐのです。
もちろんそれだけで完璧にはなりませんが、「どうにもならない」大きなピークやディップは低減できる可能性が高い。起きてしまった障害は改良ができない。臭い匂いは元から・・・というわけです。
我が家ではなんとなく恥ずかしいので仰々しい音響パネルは装着していないのですが、その代わりにあえての本棚や棚を設置していること、また「意外に効く」中空のタペストリやカーテンなどで専用吸音パネルを少々設置した以上の定在波効果を示しています。
定在波・リスニングルーム調整ではよく言われる常識としては、「リスニング後方」の吸音率が重要。これは、シミュレーションでも「なぜなのか」とてもよく理解ができると思います。
逆説的に言うと、このシミュレーターで「効果が高そうな部位」に定評あるルームアコースティック素材を導入すると「若干は」改善できるかもしれません。劇的ではなく少々ね。
「ジオメトリ(設置位置)で基本をできるだけ整えて」
「細かなピークディップはルーム音響素材に頼る」
これが基本です。
高域のハーシュネスを減じるために、壁に吸音パネルを貼ったりするのはそれなりに意味があります。定在波には効果がないというだけ。
現状 / 改良後 をシミュレーターで比較する
REWには、P1からP5まで、メモリースロットが付いています。
これを使って、「現状」と「改善後」をシミュレーション比較できます。

「現在の部屋の状況」がセットアップできたら、すかさず [Save P1] を押して保存しましょう。
以後、いくら設定を変えてしまっても、[Load P1]で何度でも呼び出せます。

ついでに、[Set reference] ボタンも押しておきましょう。
これで、現在の状態が比較の基準=referenceとなります。

referenceを保存しておけば、グラフが重なって表示されます。点線がリファレンス(現状)、そして実線が現在の設定です。これで、どうしたら改善できるか探っていくわけです。
メモリースロットは5本もありますから、これらを活用してBESTの設置を試します。重いスピーカーを動かして視聴したり、リスニングポジションを変えるのは大変です。もちろん、それら視聴には意義がありますが、動かす前に「アタリ」を付けて「手抜き」ができるわけです。
高度計もなく真っ暗闇の中をランディングするのではなく、滑走路にうっすらと灯りが点っているなかを着陸するのでは、天地ほどの違いがあるのは判りますよね。ソフトランディングの為にシミュレーターを使うんです。
我が家の現状
Reference
最後に、うちの状態をシミュレーターに掛けてみます。・・・というか、ウチの設置はシミュレーションを元に決めていったレイアウトなので、それがそのまま出ているだけ。

できるだけ正確にスピーカー(ウーファードライバー)の位置を入力。
ウチの低域は、サブソニック(45Hz未満)を8発、45Hz以上を2発のミドバスで再生していますから、それら10個のドライバ表面をすべて設置し、適切にクロスオーバーします。

拙宅のように、低域が一発でない場合は、こんなふうにセットアップをするわけです。
サブウーファーの低域下限(F3)は8Hzまで。密閉型。
ミドバスのF3は45Hz。密閉型。
クロスオーバーも45Hzとしておきます。

これが拙宅の定在波状況。
手前味噌ですが、なかなかに整っている方だと思います。しかし当前です。整うように決めたのだから。
105Hzに深めのNullが見えます。この現象は、拙宅の実測特性ともよく一致します。無響室特性では出ないが、リスニングポイントでは100Hz付近にこのディップが必須で出現し、消せないのです。
しかし、この鋭いディップをイコライジングで無理に埋めるのは絶対にやってはいけない。有響特性は「見かけ」整ったかのように見えるが、フラットであるべき無響特性は壊れる。鋭い低域ピークの癖を再生音へ乗せる。=インパルス応答が壊されます。=極めて不自然な音質に変わります。
現状を [reference] へ保存し、置き方を変えたものと比較してみましょう。
ハイエンド風〜スピーカー引っ張り出し

「ハイエンド風味」でよく見かけるレイアウトです。すなわち「後壁から離しなさい」という教科書を盲信し、ラウドスピーカーを手前へグンと引っ張り出す。その分、自分も後方へ下がる。
この教科書は「誤り」とまでは言えないが、必ず好結果をもたらすものとは限らない。結果がそれを語っています。

reference (点線)に比較すると特に低域側で暴れが出始めます。
特に、40Hz付近と68Hz付近の広く深いディップ。それからそこかしこにみられる「尖った」共振峰の列。これらは、間違いなく再生音に固有のキャラクターを載せ始めます。
リスニング有響特性を偏重して追いかけるべきでは無いが、そうはいってもこう暴れていれば再生音にも強い影響が出始めます。
リスナー後ろへ壁面

これもよく見るレイアウト。狭い部屋を有効活用。少しでも聴取距離を稼ぐために、「スピーカーは手間に出すが」「自分は壁際まで下がる」
これ、定石でもあるし悪くは無いんです。特に「低域が痩せて聞こえる」の対策としては大概効果があります。ただ、

良いことづくめではない。
低域端は肥大化するし、中低域には鋭いディップが出始めます。128Hz付近のディップも広く目立つようになってしまう。ここは低域伸長とトレードオフです。160Hz以上での中低域の暴れの方が再生音影響は大きいかも。
以上、ラウドスピーカーの置き方や、聴取位置の影響がいかに大きいか。グラフィックイコライザーの少々の音質劣化など吹き飛ばす位のインパクトがあります。だから私はイコライジグは否定しません。
しませんが、極一部の「全自動」でのフラット化やカーヴフィッティングは否定します。理由は何度も書いてるとおりで因果律を無視しているから=インパルス応答を還付なきまでに破壊してしまうから です。バカとハサミは・・・などといいますが、イコライジングも使い方さえ誤らなければ、凡百の高額装置を超えるくらいの効果は生み出せます。キーワードは線形近似補償ね。
まとめ
今回は、数あるルームアコースティック対策のなかでも、シミュレーターを活用して、定在波影響を可能なかぎり未然に防ぐ というテーマで書かせていただきました。ポイントは至極単純で、
- どこに置くか?
- それをどこで聴くのか?
たったこれだけです。
その完成度を上げるために、什器や吸音パネルの設置、イコライジングなどがありますが、主役とはなり得ません。あくまでサブセットです。
以上です。

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