今日は、川の「右岸」「左岸」という看板がよくあるけど、左右は何によって決まっているの?という話題です。
hkhk321さんの河川敷の話題で思い出しました。

地図をじ〜っと観ているとですね。地図はノースアップなのだから、川の右側=東が右岸で、川の左側=西が左岸なのかな?と考えがちです。でも違うんですね。川は、東西を走っている地帯もありますからね。その考え方では成立しなくなってしまいます。
実は河川の「左右」とは、河川自身の自己座標系によって決まっているのです。「そんなの知ってるよ!」というお話だとは思いますが、なぜそんな捉え方になったのかの源流を紐解いてみましょう。
川を「擬人化」して考えてみる
河川には「上流」「下流」が必ずあって、上流から下流に向けて水が流れますよね。右岸左岸はその水流の向きによって決まります。

川を、「歩いている水の魔神」のようなものと想像してみてください。水の魔神ですから、当然ながら上流から下流へ向けて… つまり、水の流れの向きに歩いているわけです。
その「水の魔神」の目線で見た時の
- 右側が「右岸」
- 左側が「左岸」
というわけです。
どうでしょうか。このイラストを見たあなたは、もう一生「右岸」「左岸」を忘れたり見紛うことはありません。
人は、理屈だけの字面の知識はすぐに忘れてしまいます。しかしイラストや概念とセットになった立体的な/多次元の知識を得ると、深く深層に刻まれて絶対に忘れることが無くなります。受験勉強で暗記カードは覚えられないが、語呂合わせや強烈なエピソードとセットになると記憶が強くなるのと理屈は同じです。
太古の昔から右岸は右岸、左岸は左岸だった
川には絶対的な「右」「左」というものがありません。だって、観測点である「人間」が移動してしまえば、右も左も取り違えてしまうわけですから。
そこで昔から土木・測量・治水などの世界で、
ヒト視点ではなく、川そのものを視点にする
という発想を採用していたんですね。流れには必ず上流下流があるので、向きを一意に定義できる。そうすると、右と左も決めることができる。この考え方はそっくりそのまま、現代の河川工学でも適用されています。だから、
左岸 -- 川 -- 右岸
などと図示されることもあるわけですね。
そして、なんとこの考え方はほぼ世界共通なんです。例えば英語でも
- Right Bank
- Left Bank
と言います。この時もやはり facing downstream(下流を向いたとき)で左右が決まります。

河川も下流域になると、途端に水流がわかりにくくなる。潮汐や強風の影響で、なんだったら「逆流」に見えることさえある。そんなとき、河川の右岸左岸標識から逆算で川の向きを判定できる。水の魔神を覚えてしまったあなたは、もうどちらが下流方向だか判る。私もいつもそうしています。

川を見たら、いつもこの水の魔神を想像してください。
川には神が宿っていた
これをご覧の皆様も「山の神」「海神」のような単語はご存知のはず。太古の昔から人間にとって大自然は神のような存在。これは河川についても例外ではないです。
古代から人類にとって「川とは」飲み水/漁業食料/農業/交通手段/洪水災害 …などを握っているステークホルダーでした。それを御する手段を持たない人類にはまさに神の存在。
私は今日、水の魔神のようなイラストを作りましたが、これは偶然ではありません。太古から川は神格化された存在だったんです。川は単なる水路ではなく、意思を持った存在。その捉え方は古代人にとっては極く自然。
有名どころでは、 河伯(かはく) でしょうか。これもともとは中国の神だったらしいのですが日本にも伝承されました。
- 川を支配する神
- 人間に恵みも災害も与える存在
として描かれていますね。それから「みづはのめ」など。こちらは川というより水の神でしょうか。
そのものを司る神です。
また、日本は特に「川」そのものを祀った神社もたくさんあります。
海外に目を移すと、古代エジプトでは「ハピ」という河神がいました。ナイル川の豊かな氾濫をもたらす神。毎年の増水は農業の生命線だったので、ものすごく重要視されていたらしい。ギリシャ神話では「アケローオス」という神が有名。
川をヒトの一生に例えるようなお話もたくさんありますね。
- 源流で生まれ、
- 山を下り、
- 平野を育て、
- 海へ帰る。
紆余曲折しながら、一方向にしか歩かないすがたは人間と重なる。だから、私が「川を擬人化」したのも偶然ではないです。
川とは、制御不能な神であり、命や農作物を摘み取る宿敵であり、食物を与えてくれる母でもあり、そして癒してくれる友でもあった。
このように、はるかな過去から、川は「そこにあるもの」としてヒト視点でモノとして認識される固形物ではなくて。自ら意思をもって息づく、生物や友や神のような存在であった。そのような神の一人称の「視点」で「右」「左」が決まるのは、ごくごく自然。現代人にとっては奇異に映るのかもしれないが。私はそう感じています。
経緯を知ってしまうと、右岸左岸はあまりにも自明。自然で、そして必然。
私は、山を自転車で駆け抜けるのも好きですが、それ以上に河川は癒されます。昔から川が好きなのです。それは、古代人にあった水の魔神に対する畏敬が私のなかにもすこしだけ残留しているからかもしれません。
以上。誰の役にも立たないよもやま話でした。

こちらは大変珍しい写真。(私には珍しくない)
2本の河川が並行しているから、その中央を疾るサイクルロードには、右岸/左岸の標識がどちらも立っている、という風景です。これに係った河川工学の設計者はきっとワクワクしながらこの河川やCRを設計したに違いない。

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