ドライバーの裸特性を測定する：DIATONE P-610

オーディオの特性を計測して眺めるのって、愉しくありませんか？S/N、歪み率、群遅延、周波数振幅、インピーダンス、各種の係数。私は視聴と同じくらい毎回ゾクゾクします。

シリーズDIATONEのP-610、大改造。
T/Sパラメータも測れましたので、今回はSPLを簡易的に測ってみます。

箱があるわけではないので、裸で。本当に簡易的な測定になりますが、中高域の素性はこれで読み取れます。

測定のジオメトリ

なんとも不格好ですが、簡易計測台です。床から1m持ち上げ、マイクロフォン距離は水平軸上70cm。それを5ms時間窓で切り取って疑似無響とします。

写真では吸音に隠されて見えませんけれど、木製のクランパーがドライバーのマグネットを挟み込んで固定しているのです。このクランパージグで、どんなドライバでも測定ができるようにしています。（かれこれ15年選手？）

フェルトとぞうきん。こんなものでも無いよりはマシです。バッフルステップを無効化する効果はありません。この場合はフランジ幅がバッフル幅になりますので、だいたい16cmくらいのバッフルに取り付けていることになります。しかし周辺吸音でディフラクションを最小とする効果はあります。

まあ中高域はそれでいいとしても。
ドライバーを裸で鳴らしているのだから、遠点になると低域が下降してしまい測れません。

そういうときは低域のみニアフィールドで計測して補完します。
この場合はメンブレン単体での加速度信号のみを計測している状態になります。具体的に言うと、このドライバを無限大密閉箱に入れたのと同じ特性が測れます。ただしそのとき「箱」とは言ってもバッフルはゼロです。ゼロというかフランジがバッフルですね。

オリジナルの音圧周波数特性

まずはP-610Aオリジナルの特性です。

青がFar Fieldの疑似無響特性。
紫はNear Fieldでの疑似無響です。

600Hzにバスっと段差ができています。ここは後で説明します。
繰り返しますがこれは、「無響室で」「バッフル面積極小の」「無限大密閉箱に入れた」ときと類似の特性になります。

魔改造ドライバーの音圧周波数特性

つづいて魔改造版です。

こんな感じになりました。
分かりづらいでしょうから、両者を重ねて観てみます。

Comparison / 考察

グレーの点線はバッフルステップによるロス分です。中高域と低域で約6dBの段差が出来ています。理論値どおりです。したがって、以前説明したとおり、フルレンジであってもBaffle Step Compensator (BSC)は絶対に必要です。無限大平面バッフルに取り付けないかぎり。

青：オリジナルと赤：魔改造を比較してみましょう。

メンブレンが全く同じものなのに、結構カタチが違いますね。

すぐに気づくのは高域の違い。魔改造は高域がやや落ち込んで大人しい感じになっています。これは恐らくスパイダーの違いに拠るものだと思います。オリジナルでは固い布製スパイダーで制動できていたため、メンブレンが制動されて高域を稼げていた。それが、スパイダーのフリクションが減少したために相対的に高域が落ち窪んだのだと思います。判りやすく言えばサスペンションがウーファー寄りになった。
この高域落ちはフルレンジとして観るとデグレですが、のちのちトゥイーターを足して2way運用を考えるならむしろメリットです。
位相特性を見る限り、4kHzから上はドバっと位相が乱れ、ロクハンのフルレンジではそのへんが限界かなと。

次に気づくのがオリジナル（青）の600Hz付近の大きな段差。オリジナルのサラウンドはウレタンでスカスカなので、ダイアフラム裏側の逆相の音が混入し、ここで二次系の接合が生じているのでしょう。

この周波数はインピーダンスカーヴ上もサラウンド逆共振痕跡として現れています。判りやすくいえば、デキの悪い2way 二次クロスオーバーみたいな感じ。
これはエンクロージャーに取り付ければ消えるのかもしれないし、消せないのかもしれない。
また、魔改造（赤）の方も、よーく見れば300Hz付近に同じ傾向が現れています。この、300Hzという周波数もインピーダンスカーヴのヒゲとして観測されていますね。

魔改造（赤）の方が低域が伸びています。
これは魔改造の方はFsがガクンと下がったから。裸や無限大密閉箱ではFsの低さがそのまま素の特性になります。

総括すると、オリジナルはそこかしこにどたばたと暴れが多いが、トータルではバランスが取れている。対して、魔改造品は大人しいし極端な暴れはないが、高域が落ち込んでいるし1-4kHzに山が出来てしまい、見かけ上のフラットネスが足りない。どのみちBSCは必達なので、ついでにピーキングフィルタでこの山を潰してしまえば問題とはならないでしょう。

音楽にならないのは百も承知ですが、オリジナルが裸の状態で試しに音楽を鳴らしてみました。

とても汚らしくて嫌な音がします。あまり私の好みではないかなぁ。
「いかにも」歪率が高いこの感じ。紙臭く、古臭く、やかましい音。これが立派な箱に収めれば、果たして改善されるのか？