YAMAHA AX-10の魔改造シリーズ。

前回までのおさらい。AX-10を我が物にし、世界に一台のカスタマイズ予定。その前に、徹底分解。徹底洗浄をしたのが前回まででした。今回から、サーキットの詳細を徹底分析・分解して改造の計画情報としていきます。
ここから先は吐き気がするほどおぞましい量の、とめどない画像と、とりとめのない解説文が延々と続きます。アンプの回路解析にご興味のない方、改造にご興味のない方はぜひ、ここで離脱をお勧めします。
これは自身の内容整理と備忘録のためだけ、の原稿です。
ただし、
・「これからAX-10を入手して改造しよう」
なんていう酔狂な方にとっては値千金の記事になるかも知れません。なぜなら私自身、この記事以上に内部と回路を徹底解析し詳細に説明したブログを、他所で読んだ経験がないからです。細かい部位まで徹底分析し、このアンプを丸裸にしています。
マザボの分析をする

回路分析を始めるにあたり、まずはリアパネルの内容をMEMOしておきます。何処から何の信号が入力されているかを知ることは、回路をトレスするにあたり重要な手がかりになります。

主電源回路とパワーアンプの載った基板、呼称「マザボ」から内容の解説を始めます。
清掃前に背の高いパーツは外してしまったのですが、解説用にあえて(笑)パーツを戻して撮影しています。
例えば、主電源平滑Cはもう外れていますね。でも副電源のCやリレーはお戻ししています。(さすがに半田付けはされていません)
電源サーキットの解析
まずは副電源回路から解析を始めます。追加プリアンプの電源は副電源から摂る予定ですから、主電源(±Vcc) よりも重要なのです。
回路を読み解くにあたって、プリントパターンの読み取りは不可欠です。なんだったら部品面を見るよりパターン面を見る方が回路が丸わかりになるものです。

写真で右側に見えている3ポールが主電源ソース、副電源はその左側の2ポールですね。ここに電源トランス2次が絡げてあったわけです。
最初、私はこの絵面なので、「副電源は単電源」と思い込んでいました。つまり、+電源のみ。
ところが、その奥にはそれ用と思しき平滑キャパシタが2本林立している。おかしいじゃないですか。
そこでパターンを当たってみたところ、副電源も正負2電源(±)ということが判ったのです。では、念のために電源トランスの電位も当たっておきますか。

そんなん、セットが動いているうちに測っとけよ!って話です(笑)
単純に忘れていたの。実は私、まだ「素のAX-10の音」をまだ一度も聴いた経験はないのです。その音質に興味がないから(笑)

1次側AC100Vです。なんと、いい加減な・・・。良い子は絶対にマネしないでね。

せめてものショート対策で、マステで1次側が近寄るのを防ぎます。

さらに実験ボードへマステで貼り付け。ぶつかったり揺らしたりしなければ大丈夫でしょう。

2次側もマステでガッチリ貼り付けて、簡易端子台とします。
もし接触でもしたら・・・分かりますよね、ヒューズひとつ付いていないから、最悪火災のリスクもあります。

慎重に通電し、プローブを当てる。

まず主電源側。2次は、センタータップに対し、37.4V, 37.8V, でした。

続いて、副電源も測ってみます。ここもセンタータップ(黒線)は「共用されているだろう」と仮定して・・・

ひとつは14.07V。

もうひとつは、

14.05V。
ビンゴです。やはり副電源も2電源を想定した巻線になっている。つまり、

パワートランスはこんな巻線になっていたということなんですね。
計算上はこれで、DC ±52V と ±20V の2系統が採れるはず。しかも、巻線が独立でなく共用であれば低電位側もそれなりに電流が引けることになります。(音質はともかく使い勝手は良いってコト。)

パターンを追ってみると、2次側巻線は、
- バスバーの下に隠れている小さな整流ブリッジへ入り、
- その後、2本の平滑Cへ
という回路になっていました。
ちなみに、入力コネクタの近傍に立っている2個の小さなフィルム+Rはスナバ(Snubber)です。
このスナバはブリッジDからの数十ns~数百nsの非常に急峻な電流パルスを吸収し、数M〜数十MHz帯のリンギングを抑える役割があります。このCRは波形観測して実測から最適値を決めることが多いです。アマチュアは入れない回路。プロならではの仕事と言えるでしょう。
この整流ブリッジだと1Aも摂るのが精一杯だから、大電流の負荷は無理ですね。
ところで、安定化電源はないのかなとその後を追っていくと・・・

ありました。ここに。この2つで、±15Vを生成していました。
こんな小さなTr2つでね・・・。

この±15Vが何処へ使われるのか追っていくと・・・
プリアンプ全般です。例えば、リアパネル直近にはバッファアンプが大量に搭載されていますが、そのバッファOPアンプの電源は全てこの±15Vです。

それとは別に、3端子のREGも。こちらは+12V。単電源。
他にも、そこかしこでローカル電源が生み出されており、このアンプは「ローカル電源の塊」と言ってもよいと思います。やり過ぎなんじゃないかと思う一方で、これは徹底した「回路の相互干渉」を断ち切った帰結でしょう。純粋にレギュレーターは設けていなくとも、デカップリングを入れて干渉を絶ったり、電源を経由して信号が汚染されるのを徹底的に回避した痕跡が見られます。
結果、回路は決して「シンプル」とは言えないのですが、その分、プロ根性を感じますね。
このブログではたびたび説明していることですが、日本人の感覚は少し狂っています。
- シンプルなこと = 優れている
ではありません。
- 優れた設計がされていること = 優れている
です。

主電源側の清流には一体ブリッジのS4VB20が使われていました。定格が4A。もうちょっと有った方がいいけどな。

こちらの2次側(整流前)にも、サージ吸収用のマイラーCが投入されていました。巻線数が多いためか、副電源よりも容量が大きめで、Rはナシ。LC共振もやや下の帯域へ降りてくるのでしょう。
繰り返しますが、プロ設計です。アマチュアは「電源の整流はブリッジ入れときゃいいんでしょ?」位しか考えていませんので。

以前も説明しました。メイン平滑キャパシタの中央部にはスター状の銅板が埋め込まれて、GNDを形成します。手前のバスジャンパーのうち3本が実はGNDで、3本バラバラにこのスターへ集まって、一点アースで落とされています。GNDラインの引き回しは「徹底」していますね。

電源回路〜スピーカー出力端あたりのパターン面です。太・細、ジャンパーを使って徹底的に配線が補強されているのが判るでしょうか? なんなら「パターンが繋がっている」箇所でさえ、「PCBのパターンなど信用できるか」と言わんばかりに、ジャンパーで補強がされています。それも、1本では足りず、2本パラで補強されている箇所も多数。
このアンプは小型のアンプではありますが、小型高密度設計であるが故、パターンラインが細くなってしまうところ、徹底的にジャンパー線で補強する。というのが設計上の一大特長にもなっています。
パワーアンプブロックの分析
次にこのアンプの「本丸」とも言える、パワーアンプブロックを解析していきましょう。

パワーアンプブロックをパターン面から映した図になります。現物を眺めるのはもちろんのこと、パターン面を高解像度で残しておくと、回路トレスが一層容易になります。(ただし昔のアンプの話ネ。今のアンプは無理。)
向かって左側が入力段。左へ行くにしたがって出力段やリレーが近くなります。

ファイナルは 2SC4278と、

2SA1633のコンプリ。

電圧増幅段の接写です。
これね・・・基板をじーっと眺めてるだけで判っちゃうんですよね。これ、ACアンプです。DCアンプではありません。だって、作動アンプもカレントミラーらしきものも何処にも見当たらないんだもの。

入力のカップリングキャパシタ(DCカット)には、電解ではあるが、ELNAのDUOREXという高級パーツが投入されています。これのリードは何とOFCだという。

パワーアンプの中央に、1本だけDUOREXの巨大版がドーンと立っている。ステレオなのに1本だけ。
おそらくローカル電源系の平滑Cだろうなとアタリを付け、追ってみると・・・

あ・・・ホラね。もう判っちゃった。
この平滑Cは、主電源+Bの支流から作られたローカル電源で、ファイナルとドライバを除いた、電圧増幅段のあらゆるTrに給電されていることが追えました。
つまりこれはACアンプ。確定です。だから、DCオフセットの調整なんて要らないの(笑)
ファイナルとドライバー段だけが±52Vで駆動されています。

出力のリレーは贅沢に2個。
左がSPEAKER – Aのリレーで、右がSPEAKER – Bのリレー。あれ、逆だったかな?
左右は Lch, Rch のリレーなんじゃないか?って?違います。 A/Bのリレーなんです。理由は、よく考えてみれば解る。ジャンパーで左右を入れ替えてまで、A / B のリレーとして使い分けています。

左のリレーの左手前に見えているのがリレー制御回路です。
- SPEAKER-A=ON のときは左リレーON, 右リレーOFF
- SPEAKER-B=ON のときは左リレーOFF, 右リレーON
- ヘッドフォンを挿されると、左/右リレーOFF
- 電源OFFのとき、左/右リレーOFF
といったように使い分けされます。

ではその脇にある、同じようなリレーは何者なのかというと・・・。

ヘッドフォン用のリレーでした。ヘッドフォンを挿されると、
- ヘッドフォンリレー=ON
- スピーカーリレーA=OFF
- スピーカーリレーB=OFF
ヘッドフォンを抜かれ、スピーカーAがONなら、
- ヘッドフォンリレー=OFF
- スピーカーリレーA=ON
- スピーカーリレーB=OFF
といった動きをします。つまり・・・何を意味しているかというと・・・
- スピーカー信号もヘッドフォン信号も「スイッチ」の類は一切通りません。
- スピーカー信号はヘッドフォンジャックの劣悪な接点を通りません。
大昔のアンプは、その辺の設計が甘いので、接点やジャック由来で簡単に接触不良が起きたり音質劣化が起きていました。このアンプはリレーを大幅に奢ってその辺をリモート制御し、音質劣化を回避しています。
ヘッドフォンジャックや、スピーカーA/B切替なんて、全てやめちまえば、もっとシンプルになるのにな。
…というのが超高級アンプの世界ですね。スピーカーA/B切替なんか「百害あって0.1利も無し」です。存在そのものが害悪になる。ヘッドフォン出力もプリアウトメインインもピュアダイレクトも、何もいらん。何もかも無くしていけば、アンプの音質は確実に向上します。それは、こうしてパタンを追ってみれば実感できますよ?

PCBをひっくり返してこのヘッドフォンリレーを追いかけてみると・・・
アンプリアパネル寄りのスピーカー出力から、ヘッドフォン出力を抵抗で取り出し・・・それをフロントパネルの方角へ引き回しています。ヘッドフォンジャックはフロント側にあるから、そこだけはリア側へ引き回すしかないのです。このように、ヘッドフォンは何枚かの基板を経由してフロントへ近づいていきますが、今回の改造とは無関係なので無視して大丈夫です。
なんならこのリレーや経由抵抗を外せば、余計な容量性/誘導性負荷が減り、音質だってよくなろうってもんです。
ヘッドフォンジャックの検出接点が劣化すれば、誤認識が起きてスピーカーリレーが切れてしまうという貰い事故だってあり得るわけで・・・。
脱線が過ぎました。

アンプ出力側のこの白い大きな部品は、ファイナルのエミッタ抵抗です。普通ファイナルステージのエミッタ抵抗は片ch 2本ですが、これは2本がセットになったブリッジ型なので2本しかありません。
しかし一体成形だと、ファイナルPPの片側Trとは遠くなってしまうから・・・

こんな風に、太いバスバーで抵抗までエミッタ信号を吹っ飛ばしています。
出力のZobelを分析する

エミッタ抵抗の近くに見えるコイルはパワーアンプ出力のインダクタです。
その手前に見えるCRは何が目的か判りますか?これはZobelで、インダクタと目的は似ています。
BJTを用いたパワーアンプでは、出力端にLやZobel Networkを入れるのが定石です。ケーブルやラウドスピーカーのようなリアクタンス負荷に対して終段の安定性を上げるためのものです。ここがしっかりしていないと、位相余裕が崩れる。例えば極端な容量性負荷であるコンデンサ型などを繋ぐとファイナルが一発で飛んでしまう事があります。
まあ、このLやZobel。アマチュアだと抜いてしまう人が多いんですが(笑)
それはアマチュアイズムだと考えてください。ちなみに、ウチの6ch MOS-FETパワーアンプもLやZobelが入っていません。入れた方がいいんじゃないかな〜とは思いつつ、今は入れてない。これはMOSだから、というのがあります。MOSなら必ず省略してよいかというと、全然そうではないんですが、今は省略しています。
良い子のみんなは
LやZobelは絶対あったほうが無難。
と覚えましょう。
Zobelというくらいだから、ここはリアクタンス負荷に対するインピーダンス補正の意味合いが大きいんです。このアンプはここのLとZobel以外にも、リレー近くに位相補償回路が準備されていました。たとえば、

このあたりなんですけれども。ランドはたくさん準備されているのですが、パーツは実装されていません。

部品面はここですね。パーツNo.もシルクがあるが、実際はからっぽ。
ここは回路図で描いた方が分かりやすいと思うので、

こうですね。×の付いた部品は出荷時には省略されたのです。
省略された理由はさまざまだと思いますが、代表的なところでは
- コスト要因で省略された(笑)
- ベンチテストで誘導性負荷を繋いで無くとも安定、応答波形から不要と判断された
実装後のテストで「想定外」「万が一」を想定し、パーツスペースだけは確保してある…というのは手慣れた(プロの)設計だと思いました。試作段階OKでもプロダクトレベルではNG・・・というのは良くある話です、特に高周波領域ではね・・・。

パワーアンプ上空俯瞰図。分かりにくいですが、丸を付けた石がドライバ段です。ドライバにしては小さいよね。。。本格的パワーアンプでは、もう少し熱容量/電流量の大きなTrが使われます。まあ、最大出力量に対しこれでも十分と判断されたのでしょう。
それに、多パラと同じで「容量が大きければいい」ってもんでもない。大型Trはロールスで、小型Trはライトウェイトスポーツとでも考えてください。一長一短があるのです。

この丸をつけたのは初段ではありません。パワーアンプ回路と関係無いです。
どうやら、ミューティング用のスイッチTrではないかと。導通すると、カップリングCの出力側がGNDに落ちるのです。つまり交流的には入力ショートされて音が出なくなるってこと。
これでパワーアンプ一式の解析が終わりました。改造には直接の関係は無いけれど、いろいろな事が判って面白いですねえ。なんだったら、「スピーカーA・B切替」を諦めると、配線を変えて単純化・高音質化も狙えます。
PURE-DIRECT分析
この分析は私の改造にとって重要です。なぜなら、私はこの機能の経路変更機能を流用して、
◾️ 超・単純化された優先パス
をひとつだけ作ろうと考えているからです。「PURE入力端子」みたいなヤツね。

これはマザボの片隅に載っている「パワーアンプ・バッファ」です。パワーアンプ入力の直前に入れられているバッファアンプ。このAX–10、全身が「バッファのカタマリ」なのです。なにせ、バッファ用OPアンプだけで9機(18回路)も載っているんだから。

では、その近傍にあるこの黄色いリレー2個はナニ?
実はこのリレー2個こそが、「PURE-DIRECT」のスイッチャーなのです。
PURE-DIRECTとは何者で、具体的にナニをしているのか?
まあ、余計なサーキットをバイパスしているのだろうな?位は分かりますよね。私の場合は「何処の」「何を」バイパスしているのかまで同定する必要があります。それが分からないと改造ができないから。

そこを解析するには、パターン面のこの辺りを読解すれば全て判ります。

まずこのパターン面向かって右側のリレーですね。
丸を付けたコネクタは、「バランス+トーン基板」を「行って/戻って」している接点です。パターンを追っていくと、右側のリレーはその往来を途中でぶった斬り、ショートカットしているリレーだという事が判ります。
加えて、右側の水色コネクターからは「PRE OUT」「MAIN IN」の信号が出入りしています。フロントパネル側から、リアパネルの端子までぐーんと長旅して往復している信号ラインです。
トーン基板の出力がこの「PRE OUT」へつながり、「MAIN IN」でこの場所へ戻ってくる。
よって、この右側リレーは PRE OUT-MAIN IN の長経路もショートカットしたことが判ります。

そしてつぎに左側リレー。
丸を付けたコネクタは、上部にある「ロジック+ボリューム基板」のアッテネータから直接ラインアウトしてくる、極めてピュアな信号です。(事実上、セレクタとアッテネータしか通過していない)
アッテネータを通過した信号は、
→ バッファ → 左リレー → 右リレー
と流れていきます。
パターンを追っていくと、左リレーはその左側に設置されたバッファの回線をぶった斬り、ショートカットをしているリレーだと判りました。
つまり、「PURE-DIRECT」とは、

パワーアンプ手前のバッファ回路と、

BALANCE、BASS、TREBLEのトーン回路。

そして、背面のプリアウト〜メインイン端子の往復経路。
この3つをスキップする機能だということが分かりました。
特に、3つ目の長大なループ経路を切る事は意義深いと思います。
まあ〜。私の場合は。どのみち改造でこのトーン基板を「撤去」せざるを得ないので、「生まれながらのピュア・ダイレクト(笑)」になる計画なのですが。もとよりプリアウトメインインも廃止する予定でした。
しかし、スイッチとリレーがあることを利用して、「なにもかも吹っ飛ばすピュアなINPUT端子」も作れそうなのです。既存の機能性を活かしたままでね。
さあ、話が長過ぎでそろそろ嫌になっちゃいましたよね?でも話はまだこれからです。ここから先が本題と言っても良い。
入力セレクタの解析
このパートこそが、本稿の白眉です。
最重要テーマ。
なぜなら、
・ このアンプの最大の特徴を形成している と共に
・ 改造における要点
がこのパートに詰まっているから。
内容は複雑ですが、私には避けて通れません。
また、知るほどに興奮が増すような…当時としてはぶっ飛んだ設計内容だったのです。YAMAHAさんスゲエ・・・。

このアンプの入力段は、マザボを含む
- フォノEQ+LINE-IN基板
- CD専用バッファ基板
- REC-OUT基板
の4枚でロの字の基板構造で、複雑な回路を形成しているのはお伝えしたとおりです。
(PCBの名称は中身を表わせていないので、気にしないでください)

中でもこの「REC-OUT基板」は部品配列が整然としてパターンも鮮明。最も象徴的なこのPCBを題材にして説明します。

この基板の右側。同じTrがズラ〜りと沢山並んでいますね。
これら、「何をしているか」想像できますか〜〜?

型番は全部2SD1915。NPNのトランジスタです。このアンプはこのTrが猛烈に沢山並んでいるのです。
驚くなかれ、これらは全部「電子スイッチ」として動作しています。つまり、アナログスイッチです。
判りやす〜く言えば、リレーの替わりだと考えてください。

全面パネルについているソースセレクタノブは、スイッチングするTrのベース電位を制御するだけの役割です。たとえば、今スイッチは1が同通しているから、Q4(一番上)のTrのベース電位がプルアップされ、Q4だけが同通します。すると、「CD INPUT Lch」と「出力」がつながって、CDが入力セレクトされた状態になります。他のTr(Q1, Q2)はベースが引っ張られていないから、OFFです。つまりアナログスイッチです。
ですが、電気回路の有識者なら、一発でこの回路図の問題点を看破します。なんだこんなのスイッチにならないじゃないかと。半導体は非線形が強いのです。この回路では、信号源インピーダンスが高い影響で、Q1とQ2が完全なる「OFF」にはなりにくい。わずかな漏れ電流が流れてしまいそうです。そうすると、Q4へスイッチしたことにならない。
そこで、このアンプでは執拗な「バッファ攻撃」によって課題回避しています。

こうですね。入力という入力、すべてにインピーダンス変換のバッファが設置されているのです。もれなくです。
(簡素化するために3INPUTで描いていますが、実際には6入力ありますので回路規模は6x2chです)

最初、回路を追っているなか、私は訝しんだのですよ。なぜこんなにOPアンプまみれなのか?と。
普通に考えると、バッファが必要なら奢ってもL/Rの2個だけで済むじゃないですか。しかし現実には1INPUTに1個(L/Rで)のOPアンプが設置されている・・・なぜ?
理由はこれ。「トランジスタによるアナログスイッチを成立させるため」だったのです。

バッファの設置で出力側から見た信号源はショートに見える。その強い引き込みの力で、ON/OFFが鮮明になり、半導体の非線形要素を排除できます。なるほど・・・だからOPアンプバッファは「スイッチの手前」である必要があったのか・・・。
なにがなんでも小信号Trでスイッチングを実現するのだという、執念と創意工夫に拍手を送りたいと思います。

これがスイッチの正体です。
この基板には
- AUX IN
- TAPE1 IN
- TAPE2 IN
の3入力に加えて、
- TAPE1 REC-OUT
- TAPE2 REC-OUT
の出力を備えています。
Trスイッチは「入力切替」だけに留まりません。「REC-OUTセレクタ」も6択あるので、6種類の信号源スイッチングに対応しなければなりません。だから基板上も「INPUT SELECT用」のTrと、「REC-OUT SELECT用」のTrがずらずら並んでいます。この基板が扱っているのが「3入力」だけだから、INPUT REC-OUTともに6個ずつのトランジスタで済んでいるのです。他の入力端子は他の基板へスイッチャが搭載されているということですね。

加えてこの基板には・・・「REC-OUT」端子があるため、[REC-OUT = OFF]のためだけのスイッチTrが搭載されています。6入力。6択のREC-OUT。そしてREC-OUT OFF。これらを全て実現するために、スイッチTrがなんと28個も搭載されているのです。それにMUTEスイッチまで含めると30個か・・・・。
狂ってます。私はこの実態を知るにつれ、段階的に衝撃を受けました。
「何が彼らをここまで駆り立てたか・・・」と思ったのです。そして、知れば知るほど(当時としては)理にかなっている。

パターン面を確認してみると、この実装の効果が判ります。
基板下部。入出力されている信号は、
- LINE-INのL/R
- REC-OUTのL/R
このたった4本です。このPCBには全部で10端子の入出力があったはずなのに、です。この実装の効果はここですね。
基板上部から沢山の信号線が入力されていますが、それは全てTrのOn/Offのための「DCの制御信号」です。品質が問われる音声信号ではありません。

このことは、回路図を「実装のスケール」へ置き換えて描いてみるともっと如実にわかります。
これです。入出力の切り替えは、すべてリアパネル近傍の基板で終わらせている。だから、フロントパネルのボリュームへ送る信号はたった2線で済んでしまう。
フロントパネルから引っ張り回されている信号線は論理回路の制御信号であって、音声信号ではない。しかもLRを共用できるから、本数も半分になる。シールディングも要らない。音質に寄与する効果も絶大です。
Trじゃなくて、素直にリレーにすればいいじゃないかって?バカを言わないでください。
こんな小さなアンプの、こんな狭苦しい入力段にリレーを最低でも14個? ・・・入るわけがない。(後でわかったことだが最終的には16リレー必要)
仮に設置できたとしても、これはたった5万円の安物アンプ。コストが見合うわけがない。
ただ、これはレガシーな技術ではある。そこは間違いないです。
今だったらもっと良いスイッチICはいくらでもあるし、なんなら電子スイッチすら必要がない。ロジックによるルーティングでディジタルドメインですべてが変更されるだけだ。
だから、凄い凄いといってもあくまで「この時代には選択の余地がない最適解」だったというだけ。今ならこれはやらない。ただ、この時代の彼、彼らの不断の努力があったからこその現在、と、私は思っています。
それと、
- このアンプは何十回ぶっ壊れても、その気になれば恐らく何度でも直せる
- 現代機器は壊れたら終わり。瞬時ゴミ箱行き
そこは大きく違います。劣化が大きい昔のアナログ装置だが、「故障」や「製品寿命」の考え方が現代機器とはまったく違う。アナログは緩やかに老いて壊れてゆくが、現代機器は若くして瞬殺で死亡する。現代装置は高密度実装かつプログラミングとFPGAの塊で治せないのです。

他の基板も見てみましょうね。
このCD専用バッファ基板は、左側に制御信号がわーっと6本走って、そして増えてますね。
ロジック制御信号は「フォノEQ+LINE-IN基板」が一番多くて、
・「フォノEQ+LINE-IN基板」12本
↓
・「CD専用バッファ基板」8本
↓
・「REC-OUT基板」6本
と徐々に減っていきます。役割を終えて要らなくなるからですね。

これはCD専用バッファ基板ですが、

あ、やはりありますね。右側の2個がINPUTスイッチTrです。

この基板には、PHONO、TUNER、PRE-OUT、MAIN-INの端子がありますが・・・・

ありますねえ。ここにも。PHONOとTUNERで2系統だから、INPUT用Trは4つですね。REC-OUTセレクト用も4つ並んでいます。
このように、入力の信号は3つの基板へ分離されてしまっているんですが、最終的にはTrスイッチによって1系統にまとめられて・・・

基板のこの辺りに流れ着きます。

ここですね。DCカットキャパシタが目印。TrスイッチングでOffsetが出ますんで、DCカットは必須です。

パターン面を見るとこれ。
あんなに「入力ソースが大量にあったのに」最終的にフロントパネル側へ流れてきたオーディオ信号はL/Rの2本のみ。これこそ、YAMAHAのメンバーが実現したかった姿なのでしょう。広々した基板のなか、INPUT信号だけはGNDシールドを従えつつ悠然と中央を走っています。これがもし、全6入力(12本+GND)がフロントパネル側へ走ったら?・・・笑えますよね。
非線形を伴うTrでのスイッチの音質妥当性はともかく、信号干渉を排除してピュアなINPUT信号だけをフロントのボリュームへ届ける というYAMAHAの野心は達成されています。
ちなみに、このTrスイッチは「MAIN-IN」端子近傍にも設置されており、「PURE DIRECT」をONにすると、このTrが切れるようです。=ジャンパーピンを付けっぱなしでONしても余計な負荷がぶら下がって壊れることはありません。
コネクタと制御回路のMEMO
さてと。
主要な回路の分析はこれでほぼ完了しました。
ここから先は、コネクタの役割や、通っている信号をひとつずつMEMOしていきます。
ここをミスリードすると改造もままならないからです。

「フォノEQ+LINE-IN基板」の下部中央コネクタ。いろいろ描いてありますけど、オーディオ信号はヘッドフォン出力だけ。他は全部ONOFFのための制御信号です。

「フォノEQ+LINE-IN基板」の下部フロント寄コネクタ。
ここは重要です。さきに述べた通り、PRE OUT〜MAIN IN の信号がここから出入りしています。
他はほぼ電源+制御信号。たとえばMUTEやPURE DIRECTの制御信号が飛んでいます。

これです。この、「フォノEQ+LINE-IN基板」のフロント寄り右上から出ているコネクタ。
こここそが、「アッテネーターへ向かう信号の取り出し口」。
私が改造基板への信号取り出しをするとしたら、「このコネクタの手前のどこか」ということになりそうです。
その左側のコネクタは、REC-OUTセレクタの制御信号です。だから2ch分無くて1本でいいの。

上部、さらにその左側。ここはフロントパネル側から飛んできた制御信号を受けるコネクタのようです。
6入力の切替、PURE DIRECTのTrスイッチ信号、スピーカーA/B切替の制御信号など…雑多。
音声信号としては、ヘッドフォンのLRだけを飛ばしているようです。(リア側から→フロントパネルへ)

「ボリューム+ロジック基板」のロジック回路。
このアンプはリモコン制御にも対応していますので、ここでロジック制御し、各部の制御信号を作り上げます。

そのロジック回路の左側にはSIPが2本。これはおそらくモータードライバICでしょうね。このアンプはモーター駆動でINPUTとボリュームを回転制御しています。だからドライバが必要です。

さきほど見ていた「フォノEQ+LINE-IN基板」側へ、このコネクタからフレキが飛ぶわけですね。
だんだんと脳内で繋がって来ますよね〜。

そして、INPUTセレクタ近傍にあるこの小さなコネクタ。これは最重要の信号。
ソース切替後に、ボリュームを通って来ただけの汚れていないピュアなL/R信号がここから出力されています。したがってここから先のパターンを読み切ることが、このプロジェクトの成否を決めます。

AX-10マザボ、パワーアンプブロックのフルパターン。高解像度画像を残しておくと、解析に必ず役立ちます。

「スピーカーセレクタ基板」。パターンだけ簡単に読んでおきます。この基板は今回触りません。そのまま流用します。
オーディオ信号としてはヘッドフォン出力しか流れておらず、他は全部「制御信号」です。だからパターンも大雑把・いい加減で良いのです。

こちらは「REC OUTセレクタ基板」。
ツマミを増設する都合上、今回は撤廃して使いません。

でも、どこか固定でREC OUTが出るようにしておくのはいいかもね。たとえば「CD固定」とか。だからパターンを読んでおくのは意味があります。
このスイッチは1回路8接点まで対応できるようですが、2つ潰して6接点として使っているようです。

これが全体のブロックダイアグラム。しかしまだ、コネクタのワイヤリングを書き込んでいません。
これからこの図を仕上げていきます。
この図を使いながら、「どこから信号を取り出して」「どこへ信号を戻すか」「従来の機能を活かしたままでどう改造するか」を設計していきます。
ここまでは「分析」が主な作業でしたが、それは終わり、これからは「設計」のフェーズへ突入していくわけですね。
というわけで、長かったですが、この解析のお話は「まだまだ」続くわけです、ゲップ。。。。
【この連載の目次】
- YAMAHA AX-10 (1)arrival
- YAMAHA AX-10 (2)分解、徹底洗浄
- YAMAHA AX-10 (3)PCB洗浄
- YAMAHA AX-10 (4)PCB徹底洗浄-後編
- YAMAHA AX-10 (5)回路アナリティクス-その1

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