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先日ご紹介した、M&KのThe Power and The Glory。

リッピングしてスペクトルも撮れましたので、観てみましょう。

この作品では米ロサンゼルスにある First Congregational Church(第一合同教会)に設置された複数のパイプオルガンを対象として録音されました。総数で25,000本以上のパイプを持つ巨大オルガン、最長は32ft.菅。
原理的には fx ≈ 16.35 Hz の基音が聴けるはずの巨大パイプオルガンです。

しかし果たして、本当に16Hzなんて収音されているのか??
実際にはローカットされ、倍音列で「それっぽく聞かせてる」だけなんじゃないの?

なぜならば、Vinyl (アナログディスク)に16Hzをマトモなレベルでカットするなんて、正気の沙汰ではないからです。

8〜10Hzには(多くのプレイヤーがそうであるように!)アーム共振周波数が控えています。それと、スレスレの超低周波。そんな隣接周波数に16Hzをまともに切ってしまったら、アーム共振が励起されます。へたをすると、楽音と一緒にアームとカートが踊り出してしまうかも知れません。

しかし、ことリスニング体験では(ディジタルリソースにおける優秀なソレらと同等に!)20Hzかそれ未満の体感的鳴動を感じるのです。(耳ではなく身体で。)

それでは、早速スペクトルを見ましょう。この盤には4曲が収録されています。もったいぶらずに、全曲一挙にお見せします。(ただし曲時間帯全てではなく、印象的なパートの抜粋でのスペクトラムです)

Track1 : J.S. Bach : Toccata and Fugue in D Minor
Track2 : Vivaldi : Largo (D Minor COncerto)
Track3: Richard Wagner : Grand March from Tanhauser
Track4 : Alexander Russel : The Bells Of St. Anne de Beaupre

げぇええええええええ。

20Hz未満までカッティングされている・・・だと!!

それも、猛烈なカッティングレベルで。。。。ありえへんです
前代未聞・狂ってる・と言ってもいいんじゃないでしょうか・・・。

これは、とあるアナログディスクの周波数スペクトラムです。
これこれ、8Hz-10Hzあたりを中心にピークが見られるでしょう?楽音ではありません。このピークがアーム共振峰です。楽音と同等レベルにまで高いのが分かりますね。そして、その手前の低域。10Hzに至る手前でずどんと落ちくぼんでいるでしょう。ローカットされているのです。普通はこうするんですよ。なぜって、10Hz付近の低音なんかカッティングしたら、それに励起されてアームがさらに強い共振を始めてしまうからです。(マイクのハウリングのようなものだと想像してください)
トラッカビリティが極端に悪くなるだけでなく、再生音はおかしくなり、へたをすればカートリッジや音溝にもダメージが生じるかも。=クレームになります。

しかし The Power and The Glory は違いました。よく考えたら、大昔のTELARCも違ったな。
トラッカビリティ〜?そんなものは知らん!お前はオーディオファイルなんだろうから、自分で何とかせい!」と言わんばかりの顧客を無視して突き放した豪快さです。

さてと。そういう視点でもう一度、さきほどのM&Kのスペクトルを詳細に見ていきましょうか。

Track1 : J.S. Bach : Toccata and Fugue in D Minor

1曲目。左端にアーム共振が見えますね。これがNottingham Spacedeckのアーム共振周波数です。
しかし、それにスっレスレ。18Hz近辺に物凄いピークが見えます。そして36Hz付近にも。これはノイズではありません。オルガンパイプの「基音」です。それも、アーム共振ピークよりも高いレベルでカッティングされている・・・!? 狂気です。こりゃ〜、、、凄い音がするはずだわ。豪壮、雄大、圧倒的スケールで身体ごと揺さぶられんが如くの低音。まさに「Power & Glory」な感じ。
ただし、、、これは大変危険なワザです。「良い子は絶対に真似しないでね」というレベル。(後述)
 

Track2 : Vivaldi : Largo (D Minor COncerto)

1曲目に比較すると、静かで深々とした低音が聴かれる佳曲。中高域は控えめで低音主体です。
20Hz未満が控えめになっている分、視覚的には1曲目よりも安全領域なはずですが、それでも目視でウーファーの大振幅は凄まじく。アーム共振と相まってXmaxすれすれまで振って振ってフリまくられます。ピーキーな衝撃音ではなく定常音が持続するので、VC温度上昇や断裂が心配になるほど。「サブソニック〜」って感じだけなら1曲目以上かも。

3曲目。これも豪壮雄大。これがワーグナーが聴かせたかった音なんじゃないかと思うくらいに巨大で質量のある音。単に低音が物凄いというだけでなく、教会の空間感、音場感、臨場感が凄まじく、ダイレクトレコーディングの威力・魔力を堪能できます。
 

Track4 : Alexander Russel : The Bells Of St. Anne de Beaupre

4曲目。本ディスクの白眉。
どの曲もすごいがやはりコレでしょう。鉄男翁も折にふれて「ホルツグラフの鐘」と紹介していたのはこの1曲。
まず音もそうだがスペクトラムのヤバさが半端ない。16Hzの基音がマトモにカッティングされていて、アーム共振レベルを大幅に上回る。また20-40Hz付近の「分かりやすい」超低音レベルも猛然と高い。
通例ならば、20Hzより手前、少なくとも20Hz未満は急減衰させてカッティングされないようにするものです。ですが、この盤はそれをしていない。

音は圧倒的。華麗・壮麗・豪快・壮大・・・どんな麗句をもってしても表現できないくらいに巨大で強烈で聴者を蹂躙する。これはまさに「宗教」。臨場感や緊迫感もすごい。

アーム共振と1oct.も違わない隣接帯域で、このカッティングレベル。ただで済むわけもない。アームとカートは猛烈なランブリングに晒されているから、混変調歪みも起きているはず。実際この曲が最内周部にさしかかることとも相まって、終局近くでは変調… というかランブリングも感じます。音階が揺らぐのです。しかし、そんな細かい瑕疵を吹き飛ばしてしまうくらい、異次元で未知との遭遇。
マトモな再生すら至難のワザだが、少なくとも大昔の感度の悪い安物のアームであるとか、ローコンプライアンスで古臭いMCカートリッジであるとか、そのへんに転がってるMMカートリッジであるとか、そういう再生装置で再生すべきでない。鉄男翁風に表現すれば、ラウドスピーカー、ヒト、カートリッジ、盤面のダメージ、全部がやばい。適切に再生しないと何処かは壊される。

なぜ、この盤が度を越してヤバいのか。仮に16Hzが−6dBFS相当で入っていると仮定すると、
溝速度:v = 2πfA

だから、振幅は100 Hzの約6倍必要
これはもう、ラッカー溝深さの限界近傍に近い。おまけにカッティングヘッドにも相当な電流が流れて危なかったはず。

しかもこれが失敗の許されない一発勝負の「ダイレクト・カッティング」で生み出されたものだという。いろいろな意味で信じられない、奇跡の結実した1枚と思います。
現代録音ではこれを上回る音質のものもある。(と思う)

しかしこの時代の、さらにアナログの入物としての限界点を突破した記念碑的存在として、また出音の写実感と緊迫感において、金字塔的なディスクと思います。

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2件のコメント

  1. すごそうでね。
    文字で読んでいるだけでも、伝わってきますから、
    実際はもっとですよね。

    アームが共振が出るため、低い周波数の低音は
    入れていないと誰かがいっていましたが。
    これは入っているわけですね。

    1. >hkhk321さん
      ローエンドが可聴帯域の下まで伸び切ったシステムで聴くとものすごいですよ。
      空間が揺らぐほど異次元体験になります。

      > アームが共振が出るため、低い周波数の低音は入れていないと
      おっしゃるとおりで、本来は「入れてはいけない」「入れるとよくないことが起きる」
      禁忌の帯域です。

      ですが、そこを収録してしまっているいくつかのレーベル・盤があります。
      普及価格帯のプレイヤーやカートリッジだとカートや盤を痛めます。無責任なのですね。

      それらはオーディオファイルが「血眼になって探す」プレミアの付いた盤になります。

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投稿者

KeroYon

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