大昔のアナログディスク(Vinyl)には、「カッティングエンジニア」と呼ばれる職業が存在しました。(まあ、今でも細々と現存はするのでしょうが)
アナログディスクの“マスター盤”に音を物理的に刻む職人であり、技術者でもあります。

カッティングエンジニアの役割とは
マスターラッカー盤へ溝彫り(cutting)の際に各種調整を行う職人さん。
アナログディスクのマスター盤制作プロセスでは、カッティングレイス(Cutting Lathe)と呼ばれる特殊な旋盤機械を用いて、レコードのもとになるラッカー盤(Master Lacquer)や金属盤に音声信号をそのまま溝として物理的に刻み込む作業を行います。この工程がカッティングプロセスと呼ばれます。そのカッティング工程が終わったマスターをもとにして後工程のスタンパー(押し型)やプレスが作られ、最終的に市販用のビニールレコードがプレスされていきます。「はじまりの音を刻む人」といっても過言ではないですね。
繊細かつ熟練を極めた「匠の技」を求められた、高度な職種
音声信号を溝の振幅≒深さへと転換する:音楽のアナログ信号を、レイスの尖ったスタイラスが直接溝に変換するときの振幅と運針を制御します。これは単に機械を回すというだけでなく、収録帯域やそのダイナミクスに応じた最適な溝幅・深さを熟練の耳と手で決めていく、極めて高度な判断を要求される作業です。
例えば、低音/高音の過度な振幅の制御。アナログの制約(例:低音が大きすぎると溝が深くなりすぎて針飛びするなど)に対して、音質を損なわないよう適宜調整する。ただのコピー作業ではなく、音楽として最適な状態で成立させるための音響的に高度な判断と機器操作を伴います。例えば、過度に低域伸長を欲張れば針跳びのリスクも生じますし、なにより低域振幅が大きくなれば予定の収録時間がディスクに収まらなくなります。
各曲の前後の間隔(ギャップ)やトラックの順番・配置を決めるのもカッティング工程の一部でした。ここにもエンジニアの判断が反映されます。
制作上の都合に合わせた判断もあります。音質だけを追求してよいわけでもない。曲全体の最終的な音量レベルの決定、録音データの特性への対応、必要な収録時間とその物理的制約に合わせたEQやフィルタリング的な調整も場合によってはカッティングエンジニアが行います。アナログではディジタルと違って、その音量レベルや帯域がそのまま収録時間の制約へと繋がるわけです。
まとめ(カッティングエンジニアの本質とは)
カッティングエンジニアは単なるコピー・オペレーターではない。レコードという物理メディアの音質・再生特性を左右する専門エンジニアだったということが解りますね。
Direct Cutting Disc(ダイレクト・カッティング)
それら、カッティングエンジニアのスキルが最大発揮され、かつオーディオの音質的にも究極が狙える音源のひとつとして、「ダイレクト・カッティング」という方式があります。これは、テープやデジタルレコーダーを介さず、演奏信号を現場でそのままカッティングレイスへ送り、演奏時にラッカー盤に直接刻むという録音方式です。Direct to Diskなどとも呼ばれます。1970年代のオーディオ黄金期、シェフィールドをはじめとする高音質志向レーベルを筆頭に活発なチャレンジが行われました。
基本原理
通常のレコード制作工程は次の通りです。
演奏 → マルチトラック録音 → ミックスダウン → マスターテープ → カッティング
Direct Cutting ではこれが:
演奏 → ミキシングコンソール → カッティングアンプ → カッティングヘッド → ラッカー盤
となります。
つまり、
- 録音テープをはじめとする一次録音媒体が存在しない
- 編集不可
- 失敗したらマスター盤は廃棄
- やり直しは演奏の最初から
・・・といったように、極端にシビアで極限の緊張を強いられる方式です。演奏者はもちろんですが、カッティングエンジニアにも失敗は許されない。一発勝負のスリリングな・・・まさに演奏とオーディオの真剣勝負 です。
技術的特徴
ずばり。マスターテープを介さないメリットは絶大です。今でこそ、ハイサンプルレートのディジタルレコーディングで、ほとんど録音・編集劣化のないレコーディング環境が整いましたが、70-80年代当時はテープ録音とミキシングダビングによるマスターテープ制作が一般的であり、その編集プロセスでの音質劣化は避けられないものでした。
テープ録音には以下の副作用があります:
- ヒスノイズ
- サチュレーション(飽和歪)
- ワウ・フラッター
- コピーによる世代劣化
ダイレクト・カッティングではこれらが原理的に排除されるわけです。
結果としてS/Nが非常に高く、トランジェントが鋭い、位相感が明瞭、ダイナミクスがダイレクト
・・・といった傾向になります。

D2Dの物理的制約の厳しさ
しかし同時に、アナログディスクの制約が、そのまま現場のストレスと調整の成否にかかります。
低域問題
低域エネルギーが過大になると:
- 溝振幅が過大化
- 隣接溝と干渉
- 針飛びリスク増大
よって、現場でリアルタイムにローカット、低域モノラル化(vertical成分抑制)などを行います。
演奏時間制限
D2Dの録音は、概して短時間な収録のものが多いです。これはそのまま、ダイレクトディスクの収録の難しさを表しているのです。ラッカー盤1面に刻める時間は物理的に決まっています。
- 長時間収録 → 溝ピッチを詰める。
- →すると振幅が制限される。
- →結果、音量が下がる。低域も妥協せざるを得ない
- →Hi-Fiではなくなる。D2Dである意義も消失。
つまり
演奏時間=最大音量制約=音質/Dレンジ制約
になるのです。これはアナログディスク全般に言える制約ですが、一発勝負であるダイレクト・ディスクでは一層シビアになるのです。片面20分を切るのが多いのもこのため。
失敗は廃棄と再録音を意味する
一度信号を刻み込んだラッカー盤はテープやディジタルメディアと違って、消せません。演奏ミス、オーバーレブなどノイズの混入、カッティングヘッドの過熱、過変調・・・そのどれかひとつでも観測されたら、演奏の最初からやり直しです。これは演者とエンジニア双方の心理的に極めて負荷が高い。
それでも、オーディオ尊重レーベルのチャレンジは続きました。
それは、マスターテープを介在しない音質に著しいメリットが聞かれたためです。非常に強烈でインパクトの強い音。ありえない生々しさ。しかし、テープ介在の音に比べて硬質でメタリックという評価をする人もいたみたいです。テープを介在した方が、少しアナログ的な柔らかさが備わる。そこが好まれる向きもあったようです。
古(いにしえ)の技術です。今となっては、ディジタルレコーディングでそれらの障壁は取り払われた。ただ、「一発勝負での緊張感」「一期一会の壮絶な音質」これは現代の今でも価値のあるものとして、高値取引されているのです。
The Power Power and The Glory (Vol.1)

おそらくは拙宅のコレクションで唯一のダイレクトディスク(D2D)です。
M&K Realtime レーベルの Power and The Glory。
ダイレクトディスク。物凄っい録音です。

次回はコイツについて。
スペクトル解析も交えて、内容を語りたいと思います。
アナログディスクの物理限界とは何か?
そして、過日のダイレクト・ディスク技術に意味はあったのか?
コイツが資金石として、価値を語りかけてくれます。


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