×

ラウドスピーカーの「分割振動」「ピストンモーション」。
よく聴く用語ですね。
ですがベテランのオーディオファイルでも理解されている方が少ないと感じるので、図解付きで説明することにしました。分割振動は再生音にどんな悪影響があるのか?そして、分割振動を逆手にとった設計とは? そこまで言及します。

ピストンモーションとは

ラウドスピーカーのメンブレンにおける、「分割振動」「ピストンモーション」。これらの用語はどちらも「振動版の動き方」に関する用語です。
分割振動を理解するには、まず理想挙動である「ピストンモーション」を理解する必要があります。「ピストンモーション」=「振動板の理想像」と覚えてください。

ピストンモーションとは? =ダイアフラム(振動板)がそのカタチを全く変えずに、カタチを保ったままでピストンのモーションをすることです。”振動板が形状を変えずに前後運動する”。

何をバカなことをそんなの当たり前じゃないか! と、思われるかもしれません。でも、これが至難の技なのです。
皆さんはメンブレンが前後に動く様子を「目視で」確認しているから、形状を保って振動をするのが「当たり前」だと考えてしまうのです。しかし、それは低域に限った挙動。我々が目視確認できるのは振幅変移の大きな低域の挙動にすぎません。

信じられないかもしれませんが、振動板は中域〜高域〜と帯域が高くなるにしたがって、ぐにゃぐにゃのコンニャクやトウフのような不可解な変形を始めるのです。
 

軸対称分割振動

低域では立派に変形せず振動していたメンブレンは、中域になると変形挙動を始めます。

分割振動のようすを説明する際に、よくこの「湖面に広がる波紋」が用いられますね。

低域においては、十分な剛性を持っていてピストンモーションする振動板。これが、周波数が高くなって「中域」になると、「まるで水のように」柔らかな存在に変わってしまうのです。

これが中域におけるメンブレンの挙動。
VCの駆動点を中心として、水に広がる波紋のように振動板は同心円状に「凸の部分」と「凹の部分」に分かれて振動を始めます。バウムクーヘン様。軸を中心として対象形状であることから、この挙動は「軸対称・分割振動」などと呼ばれます。

一番最初に現れる挙動はこれ。メンブレンのエッジ(≠サラウンドという意味ではありません、境界条件が変化し反射が生じる境界端という意味)で跳ね返ってきた反射波が順方向の進行波と干渉。メンブレンには位相干渉により凸部と凹部が出現。周波数特性にもピークディップが現れ始めます。

どうしてそんな事が起きるの?

それにはメンブレンの表面伝播速度(いわゆる音速)が関係しています。低周波では音速がゆっくりでも端から端までほぼ同期して振動が伝わるが、高い周波数になると駆動点からメンブレンエッジに到達するまでに時間差ができてしまうのです。つまり、湖面に伝わる波紋のような状況になります。

振動板がマトモに機能していない状況。しかし、これでももっと高い帯域よりは「だいぶマシ」な状況なのです。
もっと高い周波数になると、メンブレンは更に酷い挙動を始めます。

非軸対称・分割振動

軸対象の分割振動をする帯域から、さらに高い音になるとどうなるのか。

振動板はもっと酷い、わけのわからない形状での振動を始めます。
振動は軸対称包囲にだけ伝播するわけではありませんから、横方向に伝播して一層複雑な干渉縞を発生します。

複雑怪奇。メンブレンは”さながらポテトチップかピザ生地かというくらいにグニャグニャの扇動を始める。
軸に対して、もはや対称性すら維持できていないことから「非軸対称分割振動」などとも呼ばれます。

物理的な振動板の挙動としては「最悪」の状態だと言えます。

日本では振動板がまるで分割されているかのような挙動を示すためこれらは分割振動と呼ばれ、海外では Breakup Modes または Non-pistonic Motion などと呼ばれています。


 

どうしてそんな事が判るか?

目視ではマトモそうに見える振動板の挙動。70年代からの数々の解析技術によって、肉眼ではわからない数々の挙動と、その課題が明らかになりました。

  • 有限要素法(FEM: Finite Element Method)
  • モーダル解析(Experimental / Numerical Modal Analysis)
  • レーザードップラー振動計(LDV: Laser Doppler Vibrometry)
  • ホログラフィ解析(ESPI / レーザーホログラフィ)
  • 境界要素法(BEM: Boundary Element Method)

そして、分割振動は再生音を汚しカラーレーションの大きな要因になるため、それを打開する数々の技術が生まれました。

分割振動が特性に与える影響

分割振動がラウドスピーカーの運動にどう影響し、何が課題なのかをざっくりと説明します。

下図は、8inch (20cm) のメンブレンを持つ或るドライバーの周波数特性を示します。

一見20kHz付近まで特性が伸びているから、そこまで正常に使えるように見えています。
しかし、現実には下図多くの分割振動の重畳によって高域が伸びて見えるのであり、正確な振動(ピストニックモーション)ができているわけではありません。

8インチ系の紙のメンブレンですから、物理限界も低めです。その口径から、1kHzあたりから徐々に分割振動が開始。3kHzあたりでは顕著な分割振動をします。 1〜3kHz(中域)あたりでは、軸対称分割振動をしているでしょう。

さらに周波数が高くなると、いよいよ振動板の動きは「破綻」します。細かな特性の乱れだけでなく、大きくて幅の広いディップやピークも目立つようになります。この帯域になると、メンブレンの振幅変移量が小さいので目視では目立たないが、ほぼ「形状を維持したままの」振動はできていないと考えてください。

紙の振動板フルレンジの場合は適度なインナーロスを持ちますから、上図のようにピークやディップは「やや均されて」「ピークディップが広く分散された」形状になります。これが「高剛性」「高音速」の振動板になると、ディップやピークが特定周波数に集中・かつ急峻となり、非常に大きく顕著なピークが見られるようになります。

位相特性や指向特性”も”劣化する

振幅特性や振動板挙動がそんな感じですから、位相特性もただでは済みません。
また、指向特性に対しても分割振動が劣化要因となります。

位相は1kHzから徐々に劣化を開始。3kHzより上では顕著な劣化を見せるようになります。フルレンジのように、軟質かつインナーロスの大きな振動板においては「低い帯域から徐々にじわじわ目立たず瑕疵が増えていく」のが特徴です。高剛性だと「どっかんターボ」のようにスレッシュが比較的見えやすく、ある帯域からドッカンと特性が劣化します。フルレンジ=位相特性が優秀 と教わったかもしれませんが、そこには巧みな「ウソ」があります。

分割振動をほったらかしにすると音質にはどんな変化が現れるの?

では、具体的に音質にどう影響があるのかは、以下の2点に集約されます。

1 – ハーシュネスが目立つ

なんとなく音色が荒れて聞こえる、粗、楽音が不自然な感じ。または誇張された感じ。ざらざらしたり、汚く感じてしまう。これは振幅がフラットではないことに加え歪みも増えているので当然です。滑らかではなく、自然でもなくなります。

2 – 音場のクリアネスが失われて音像が不鮮明になる

正確にピストンモーション放射されているのに対すると、振動板の動きが不正確ですから、音色も音像も不鮮明、不透明になって、なんとなく見通しが悪くなります。濁って聞こえる場合もあるが、そこまで行かなくとも、(優秀なものに比べると)なんとなく透明に見通せない。これは特に高域で顕著になります。

口径が10cmを越えるようなフルレンジは音圧特性上で高域の音圧が観測されても単に「その帯域で音圧が観測される」というだけ。正しい再生ができているとは言いづらい状況です。私は10cmを越えるフルレンジでは、中高域において我慢できない”ツラみ”を感じます。聴いてられないのです。ただ、これもかなり個人差があるようで、あくまでも「私が苦手」というだけで。フルレンジの高域が「全然ヘイキ」という方も沢山いらっしゃいますから。
 

分割振動への対策

以前のポストでも分割振動の課題解決については具に触れましたが、ここでは概要のみを列挙します。ラウドスピーカーメンブレンの技術の半分くらいはまさにこの分割振動対策の歴史だったと言えます。

1. メンブレンの口径(∝ 反射距離)を小さくする

えっ・・・口径を小さくする? それってトゥイーターと云うのでは? そのとおり。実はトゥイーター/マルチウェイというのは、高域を伸長し、分割振動へ対抗するために生まれた技術です。

口径が小さくなると、エッジ境界反射の距離が短くなり、よって時間稼ぎができます。これによってブレイクアップ周波数を高い方へシフトできる。さらに、メンブレンの音速を極めて速い物性にすればブレイクアップ周波数が可聴帯域の外へ出る。
= 高域が伸びきって/分割振動が可聴帯域に存在しない 理想の姿になります。

口径が小さいなら理想なら、振動板口径を「ゼロ」にしちゃえばいいじゃないか。そのとおり、ゼロ振動板はラウドスピーカーの理想像ではありますが、そうすると能率も「ゼロ」になってしまい成立しなくなります。自ずと限界点がある。また、口径を小さくすると低域再生ができなくなる。そこで、2way…3way… といったマルチウェイ対策が生まれていきました。(分割振動だけでなくDirectivity Indexの課題対策でもあるのですが今回は割愛)

写真は、口径を小さくすることに加えて、駆動点をリング形状のセンターとすることで「距離を2倍も」稼いでいます。これによってタダのソフトドームに比べるとブレイクアップを1オクターブも高い方へ押しやることができます。

2. コーンにコルゲーションを入れて軸対称を支配的にする

「軸対称」は「非軸対称」よりはマシ。という説明をしました。
そこで、コーンにあえて軸対称のシワを入れる。軸対称のモードで動いてちょうだい。逆に、非軸対称の動きはしないでちょうだい。その願いがこのシワ。「コルゲーション」と呼ばれます。

3. コーンにスライスを入れ、コントローラブルな分割振動を起こす

非軸対称の分割振動は挙動が読めない。逆に、挙動が想定できる分割振動をあえて強く起こし、コントール可能にする。この考えかたが各社のメンブレン設計の形状に現れています。

いずれも考え方は同じ。エッジ境界反射までの距離が大切とお話しました。これらはスライスを入れ分断する事でそこが反射端面となり、しかも距離が一定ではないから分割振動が広く浅く分散します。

言い方を変えると: 低い周波数では大きな口径の単一振動板として振る舞うが、高い周波数では小さな口径の振動板として振る舞い始めるということです。
これらの特徴は「分割振動は確実に発生しているが、」「少なくとも応答特性上ではあまり目立たない」あるいは「コントローラブルな形状」というところです。

さて、「プレーンでブレイクアップが顕著なドライバー」と「ブレイクアップ分散型ドライバー」。どちらがより優れているかは意見の分かれるところです。

前者は少なくとも「潰したつもり」でも強烈なブレイクアップの痕跡が消しきれず、むしろカラーとして再生音に乗ってしまう。特に、パッシヴクロスオーバーを搭載した完結システムの場合。多少の再生音の「あいまいさ」はあれど、ヒト聴覚の評価軸と「自然さ」で後者に倒れることが多く、ハイエンドオーディオでは後者が主流に傾きつつあるように見えています。
Scanspeakの人もB&Wの人も、ブレイクアップは「完全に無くすべきもの」ではなく「制御対象」と、解説しているらしいですね。

4. 軟体、ロスで分割振動を吸収してしまう

ソフトドームが代表格ですが、エッジ反射で音波が戻ってきて特性が暴れる前に、波動をインナーロス(振動板そのものの損失)で収束させてしまい、消してしまう。という考え方があります。この場合は特性上に顕著なピークやディップは見られません。ただ、音速の低い素材を使うのですから低い帯域からブレイクアップはしている・・・していても無かったことになる という意味で、再生音には少し色が付くイメージはあります。

これを極端にしたのがマンガーやDDD等のベンディングウェイブ系の特殊ドライバーです。
軟体なメンブレンですが、時間軸応答特性は高剛性振動板よりも優れている。

5. 全面駆動方式にして分割振動を起こさない

コンデンサー、リボン、AirMotionTransducerの類は、振動板の全面が駆動点となるので原理的には分割振動は生じません。なかには中域から使えるような大型も有りますから或る意味最強です。
ただ、「駆動点は本当に無いのか?」というと微細には存在するし、「エッジ境界面は無いのか?と」問われるとやはり確実に存在するから、ブレイクアップの気配や痕跡は特性上に見られることが多いです。また、リボンでも「素材の音が聞こえる」という人もいます。
他にもいろいろあるけど、長くなりすぎたので割愛。

  

References

ScienceDirect
www.sciencedirect.com
E-library page – AES
AES E-Library ← Back to search
aes.org
E-library page – AES
AES E-Library ← Back to search
aes.org

フィリップス 電動歯ブラシ ソニッケアー 3100シリーズ (軽量) HX3673/33 ホワイト 【Amazon.co.jp限定・2024年モデル】

歯の健康を考えるのならPhilipsの電動歯ブラシがお勧めです。歯科医の推奨も多いみたいです。高価なモデルも良いですが、最安価なモデルでも十分に良さを体感できる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

投稿者

KeroYon

関連投稿

さよなら、DIATONE DS-25Bをパージ

長らく(?)楽しんできた、DIATONEのDS-25Bを処分しました。 最近少しの間、聴いてきたON...

タグ:

世紀の名盤Däfos、RR-12 (AD) とQobuz配信を比較

お待たせしました。(?) テツオの外盤A級セレクション 今日も今日とてVinylの話題。外盤A級セレ...

VinylとCDのスペクトル比較、[NABだった]は本当か?

Vinylで「RIAAカーヴではない」の風評は本当か?音質の「感想」ではなく「数学的・論理的」に、検...

ONKYO D-N7xx (2)測定解析

分解が完了したONKYO ONKYO D-N7xx。ですが、次に各ドライバーの諸特性も見ておきましょ...

ONKYO D-N7xx (1)徹底分解

また粗大ごみを買っちゃいました。中古・ラウドスピーカーシステム。 今回は、ドフじゃないんです。セカス...