新しい連載を開始します。
これから何回かに分けて、Room Acoustic Correction / Room Equalizer =室内音響の電気的な補正技術全般について取り扱っていきます。なぜ連載なのかというと、取り扱う分野が膨大・文章長大だから(笑)
世の中には、リスニングポイントにおける音響特性を自動的に補正するいくつもの技術があります。
Audyssey, Dirac, MCACC, YPAO, Arc Genesis….
その「自動補正」の意義と弊害について学び、最終的には
・ 何は補正してよくて
・ 何を補正してはいけないのか
を学び、より良い音質へ辿り着くきっかけを得るのがゴールです。
「正しい原理と利用方法を知ってこそ、自動補正に真価が生まれる」
以前もご説明したことがあるかも知れませんが、これまでの私はListening Point (以下LP)における自動音響補正に対して懐疑的でした。これは、過去にAVアンプにおけるMCACC、Audysseyなどのいくつかの全帯域自動補正を試して、ことごとく失望した体験のためかも知れません。
しかし、イコライザーやイコライジングに否定的なのではありません。LinkwitzTransformモドキをやっている位ですから、線形近似領域の補償に対してのアレルギーはない。盲目的な/全帯域のルーム自動補正にはやや否定的なだけ。
第1部:上級者ほど、”無配慮な”フルオート自動補正には頼らない
なんの配慮もなしにフルオートで全帯域フラット化すると、「フラットになるから無味乾燥でつまらない音」になる・・・のではありません。
- 著しく違和感のある音
- おそろしく変な音
- 音楽性が壊される
これらを感じたのです。でもこれは当然だったかもしれません。
室内音響への自動補正に対するスタンス:
- 初心者: フラットこそが正義、と盲信し補正に委ねる
- 中級者: EQは怖いからゼロ、または失望した経験から手を出さない
- 上級者: 極端条件を試行し、限界点を知った上で最小限の補正
ここから、自動補正のどの部分に課題があるのか、可能な限り論理的にご説明したいと思います。自動補正の何もかもを否定しているのではありません(それは後章で出てきます)。「盲目的な」「全帯域の」「補正強度の高い」「強制的なフラット化」が”致命的欠陥になる可能性が高くなる”と言いたいだけ。
ここで、今一度「イコライザー」や「コレクション」の正しい意味性を噛み締めておきましょう。
A⚫︎Equalizer / Equalization : 等価回路。「正しいすがた」に対して等価にする行為。
B⚫︎Correction : 補正する。「正しいすがた」になるよう補償する行為。
往年のオーディオファイルは、(A)のことを「妙ちくりんなツマミの沢山付いた音質劣化装置のこと」という先入観やアレルギーを持っています。もちろん本来の意味は違います。
さて、オートイコライザは、使い方を謝ればEqualizerどころかDestroyerになってしまう場合があります。
一番最初に「オートイコライザ」をちょっと極端な表現をしてみると、
× オートイコライザ ≠ 音響特性を正しい姿へと補正している
◯ オートイコライザ = グラフの絵を平らに補正しているだけ
耳がよいオーディオファイル:最初は音がよくなったと、喜ぶのですが、暫くすると違和感を抱き、オートイコライザを外してしまう場合があります。まずこれが中級の段階。
事例:https://www.reddit.com/r/hometheater/comments/xc5sdy/disabling_audyssey_has_made_an_dramatic/?tl=ja
これが上級者になると、「単に使わない」ではなく、その違和感を防ぎつつも効果改善だけを最大化させる微量補正へとチャレンジしはじめます。
なぜ、オートイコライザは問題が生じるか?
一言で言えば、因果律を無視して強引な平坦化をするところに問題があります。これは無響室特性を線形近似でイコライジングするのとは少し違う。
その歪曲は、いったい何によって引き起こされたものなのか。
ニスニングポイントにおける周波数振幅特性の歪曲とは、
- 直接音
- 初期反射
- 後期残響
- ルーム定在波
- SBIR
- 家具による回折
- 設置の左右非対称
- 人体影響
…などなどの集積体です。それら因果(何によって生じたのか)を全く無視して、特に時間軸を無視して振幅特性「だけを」平坦にしたら、変な音に聞こえる可能性が高まります。

拙宅の ANDROMEDA-Alpha V11 の物理特性です。赤線が無響室相当の特性。そして青線が今回計測した、リスニングポイントにおける特性です。かなり差がありますね。赤線を青線に変えている要因が、
- 直接音
- 初期反射
- 後期残響
- ルーム定在波
- SBIR
- 家具による回折
- 設置の左右非対称
これら要因を無視し、青線を赤線に近づけるよう、強引に補償すると、”必ず良い音”になるのでしょうか?答えは否です。ヒトの受容特性では、青線のようには聴こえないからです。


ヒト聴覚には、左側よりはむしろ右側の特性に近しい音が聴こえています。(完全に右側ではないです。「どちらかといえば」という話。実際には赤と青の中間くらい。)
定常状態の周波数応答(青線) = そのまま聴感ではない
リスニングポイントでの特性、青線は:
- 長時間窓
- エネルギー平均
- 定常状態成分込み
- 反射音込み
で作られたもの。
一方で人間の知覚は:
- 初期到達音を重視
- 時間窓で刺激列を分離
- 帯域ごとにその積分時間も違う
- 空間情報を別処理
しています。
まとめると、耳はFFTアナライザではない。

私の部屋のリスニングポイントでは、105Hz付近に大きなNullが見えています。これはSBIRに依るものです。グラフだけ見れば、低域が不足して痩せた音に聞こえそうなものですが、実際は痩せては聴こえないのです。
理由1:低域は時間積分される
低域ほど1周期が長いです。
100Hz:
T=1100=10 msT=1001=10ms
聴覚は複数周期を統合して知覚する。瞬間的なキャンセル点があっても、部屋全体の残響エネルギーや前後反射も加味されるため、グラフほどスカスカには感じにくい。
理由2:モード上は音圧の谷でも“エネルギーがゼロ”ではない
座席一点でSPL nullでも、
- 部屋全体ではその帯域エネルギーがある
- 体感的な鳴動もあり
- グラフに現れない/遅れて到達するエネルギー成分あり
これによって主観的には厚みが残ります。
理由3:低域のラウドネス知覚は広帯域
限定された狭い帯域だけでなく、
- 40Hz
- 60Hz
- 120Hz
- 倍音成分
など総合で「太い」「薄い」を判断しています。105Hz一点の峡谷だけで印象が決まりません。

この105Hzの大きなNullは、90%以上の確率でSBIRです。
SBIR(Speaker Boundary Interference Response)
これは前壁反射音とラウドスピーカー直接音の干渉によるもので、典型では70〜200Hz付近へ出現します。
この周波数fnはスピーカーと壁の距離 dL に依存し:
fn ≒ 音速/(4*dL)
fn=105Hzでは常温音速におけるdLは約82cmとなる。ウチのこの帯域を再生しているミッドバスから後壁への距離が約85cmだから、だいたい計算とも一致しています。壁面との距離によって決まるNullだから、リスニングポイントを大幅にずらしても、この周波数はほぼ動きません。ディップの浅深が変わるだけです。また、ラウドスピーカーを前後動しても、Nullを完全にゼロにすることは難しいです。
SBIRの改善方法として、前壁からラウドスピーカーの距離をずらして、Nullができるだけ浅くなるポイントを探す。または105Hzに共振点を持つ特別なバストラップを背後に置くこと。・・・などがあります。
このNullを電気的に/強引に埋めようとするとどうなるの?
まず、埋まりません(笑)。
そう、これを強引に埋めに行こうとするのが従来のオートイコライザでした。ただ、近年の賢くなった自動補正では、ここを無理に埋めに行かなくなっているようでもあります。また、埋めるか埋めないかをユーザーの裁量で調整できるようにもなってきている。つまり、徐々に賢くはなっている。(そこが本稿の核心です)
では、これを無理に埋める電気的イコライジングをするとどうなるのか? これは逆相の打ち消しあいで生じているディップ(Null)なわけですから、一生懸命ゲインを上げていっても(測定値としてのディップは)全然埋まらないのです。なぜなら打ち消しあっているから・・・。
これはあくまで私のケースですが。頑張って補正しても特性が平らにならないのに、このときラウドスピーカー(ウーファー)の方はパニックに陥っています。極端に高いQで105Hz付近だけを10dB以上も持ち上げたら、その周波数だけドライバーの振幅変移量が極端に増大。歪みは増えるし、Qが高いからブーミーでおかしな音になる可能性が高い。極端イコライジングで位相特性・群遅延も悪化する。
私のケースで、仮にフラットにすべく
電気的に +12dBしたとすると:
ドライバーの変移量が+16倍。
反射波もー16倍(逆相)
+16 -16 =0 で、LPでの測定値は全然増えない。(=谷が埋まらない)
その一方で、
- 振幅変移歪み/温度歪みが増大
- ハーシュネスが増え、荒れた音感
- 高Qで100Hzのみ持ち上げているから、音圧と裏腹に妙なブーミー感
- 不自然、音階不明瞭、リズム感も壊れる
上記は拙宅でのSBIRを一例に挙げました。部屋の寸法とリスニング位置で決まる「ルーム定在波」のNullも同様です。逆相による打ち消しあい・・・特に極端に深いディップを、イコライジングで無理に持ち上げると弊害の方が大きくなる可能性があります。
ここで「因果律」の話へ戻ります。「なにが理由でそうなったのか」、原因を把握していなければ、的外れでむしろ害悪になる補正になってしまう。
では、どうやって逆相のNullを解決するのか
基本的には、部屋の寸法 / 部屋に対するラウドスピーカーの設置 / リスニングポイントの最適化 / 吸音静音処理、などの「物理的な回避手段」を優先的に考えるのがベスト。もし電気的補正をするにしてもその後、Low-Qかつ必要最小限で止めるのが適切と考えます。
SBIRにせよ、ルーム定在波にせよ、そのNullは寸法や聴取位置によって決まってしまうので、物理的解決手段がまずメイン。物理的要因を無視したまま電気的補正だけで解決しようとすると、測定値は改善しても、音質や音楽性が破綻する確率が高くなります。そのディップが深ければ深いほど。
SBIRの場合:
・ラウドスピーカーの設置位置を、前壁から10cm, 20cm…と徐々に離し、Nullが広く浅くできるポイントが無いかを探る。
・Null周波数にチューニングされたバストラップを前壁へ設置する。
・(前壁が全部バストラップ吸音構造がベストだが、それは家屋施工時の話なので・・・)
ルーム定在波の場合:
・(Nullになっているなら、定在波の節で聴いているので)リスニングポイント距離を10cmずつ前後動して測定し、節でも腹でもない=ちょうどよい距離を探す。
・場合によってはラウドスピーカーの設置位置や横方向の聴取位置も見直す。
その後:
最小化されたNullに対し、できるだけLow-Qで浅いPeakフィルタを設置し、補正量はごくごく最小限とする。
部屋の反射・回折で起きてしまった特性の乱れは複雑な時間特性の結果であり、最小位相系で補正することができません。その場合はアコースティックな手段で解決しようとするのがいつの時代も王道です。「臭い匂いは元から立たなきゃ・・・」というやつですね。自動補正は消臭剤のようなものかもしれない。一瞬、よい匂いになったと喜ぶが、よく嗅げば腐敗臭と香料の混ざったなんとも不自然で不愉快な香りがする。
最初にできるだけ匂いの素を断ち、残ったわずかな悪臭を芳香剤で散らすのがよい。


もちろん、この左を「右側にできるだけ近づける」行為は無意味ではありません。その方がいいに決まっている。ただ、そのプロセスが大切だということです。

無響室で特性フラットなラウドスピーカーのスコアが高くなる(多くの人に好まれる)。
これは私だけの主張でなく、Floyd Toole博士の何年間にも渡り延べ1000人近くに及ぶブラインドテストを通しての結論であり、多くの研究者の主張と一致するところです。

しかし・・・せっかく整っていた無響室特性を、☝️盲目的な/高強度の補償をするオートイコライザーは上図のように ”歪曲してしまう” 。特性を整えて出荷しているベンダーさんは泣いているかもしれません。
確かに、リスニングポジションでの「測定グラフの絵」はフラットになる。でも、本当にそれは良い音になるだろうか? そして果たして「フラットに聴こえる」のだろうか? LPでの限局的な測定値は改善して見えるが、聴感との乖離が生じやすくなる。少なくとも「多くの人には、無響室でフラットなラウドスピーカーが嗜好される」という研究結果とは、矛盾していきます。
LPの特性が「整った」と喜んでばかりではなく、過去のプロセスで何が起きていたのか、そして今何が起きているのかに思いを馳せる必要があります。(=因果律)
さて、このシリーズはまだ扉の入り口。(いや、その手前か?)
今日は部屋とレイアウトによるNullの扱いのお話でしたが、これ以外にもルームイコライザでは「やってはいけない」禁忌技があります。このお話はまだまだ続きます・・・。

フィリップス 電動歯ブラシ ソニッケアー 3100シリーズ (軽量) HX3673/33 ホワイト 【Amazon.co.jp限定・2024年モデル】
歯の健康を考えるのならPhilipsの電動歯ブラシがお勧めです。歯科医の推奨も多いみたいです。高価なモデルも良いですが、最安価なモデルでも十分に良さを体感できる。