シリーズDIATONEのP-610、大改造。
さあさあ、使用前/使用後が出揃いましたね。
(改造前/改造後という意味です)

左は魔改造品。右がオリジナル。魔改造品で大きな変更点はサラウンド、スパイダー、そしてガスケットです。特性はどう変わったのでしょうか?気になりすよね。まずはT/Sパラメーターがどう変動したのかを見ていきましょうか。(これは私が小僧の時代では望めなかったような愉しみです)
オリジナルのT/S
DIATONE P-610A には所謂「公称スペック」がありますが、私は全くと言って良いほど信用していません。古臭く常識のない時代に測られたものです。ここはぜひ現代のスキームで実測すべきでしょう。
今回は厳密な意味でサラウンドがオリジナルではなくなってしまっていますが、構造としてはほぼ同じですし、FsやQtsに影響するようなフリクションはほぼありません。
そのへんに支配的なのはMmsと電磁制動力、それになんといっても固い布製スパイダーだと思います。


T/Sを実測する際にはできるかぎり自由空間に置きます。できればドライバーを固定かつ空間に吊れるとBESTではありますが、今回も手抜きで瓶の上において周辺ディフラクションを減らします。

これが裸状態で計測した DIATONE P-610A オリジナルでのT/Sパラメータです。
以前説明したとおりです。Mmsは直接的には測定できないのですよ。
図にあるとおり、以下のいずれかのMethodで間接的に規定します。
- Test Box Method
- Added Mass Method
- Specified SPL Method
- Specified M(md)
基準箱を持っているわけでもないので、ここでは一般的なAdd Mass方法を用います。


それをコーンを痛めないようゆるく貼り付けします。
ばっちり貼り付けしてしまうとコーンやダストキャップを痛めますから、最低限のゆるさです。
MassをAddした状態で、Measure Vasを指定します。

ハイ
出ました。
これですべてのT/Sが埋まりましたね。確定です。

P-610A オリジナルバージョンのT/Sパラメーターが採れました。
世界的に見てもきちんと測られたモノはほとんど無いんじゃないかな。
600Hz付近のスパイクはウレタンサラウンド逆共振と想像されます。
Fsは82Hzと、6.5inch径としてはヒジョーに高いです。
そして、Qts=0.92と、モーレツに高い。
典型的なローファイかつ古臭い設計です。
これをして「高忠実」とか「モニター」とか呼ぶ人が居ても全く信頼できません。電磁制動力が決定的に足りないので、なにもかも制動が利かない状態です。しかしそのQの高さと振動板が異様に軽いこととが相まって、電磁制動力がなくとも能率が高めという現代にはない特異な性質を持っています。しかしこれはこの時代のドライバーに共通項でもあるのでつまり「古臭い」の一語に尽きますね。
Vasは48L。少し大きめではあるが、現代ドライバーと比べても常識的範囲内。
Fsが高いというのと、Qがやたら高いこと、振動板がぺなぺなに柔く異様に軽いこと。その辺りが独特の世界を作っています。P-610の付属マニュアルには標準エンクロージャーの図面が載っているのですが、なんと、、、その容量は50リッター! ロクハンなのに?50リッター?ムリですってそんなの。
ただ、実はANDROEDAはあんなに巨大なのに内容積は45リッター程度。P-610の1本にちょうどよい容積でもあるのです。
魔改造のT/S
では次に、魔改造品の方を測ってみましょう。
どのような変化が観られるでしょうね。

触った感じも柔くなっているので、少なくともFsは下がっている予感がします。
同じようにAdd Massで各種パラメータを同定します。

オリジナルとかなり違うぞ、

とても特徴的なインピーダンスカーヴですね、
サラウンド逆共振は重くなったので300Hz付近まで低下。その下のギザギザはコイルスプリング等の共振が細かく重畳されたものと想定されます。
でもT/Sはもっと大きく変わりました。
Fsが47Hz周辺と、ガクンと下がりました。
Qtsも0.73付近へ低下。
代わりに、Vasは100リッター以上ととてつもない容量に変動しました。
両者のT/Sを比較表にしてみましょうか。
| T/S | Original | Modified(魔改造) |
| Fs | 82.26 Hz | 47.37 Hz |
| Qts | 0.92 | 0.73 |
| Vas | 47.95 L | 100.8 L |
| SPL | 93.58 dB (SPL 2.83Vrms/1m) | 93.37 dB (SPL 2.83Vrms/1m) |
| Re | 13.87 Ohms | 7.36 Ohms |
| Le | 0.36 mH | 0.22 mH |
| BL | 5.695 | 4.098 |
| Mms | 4.723 g | 6.363 g |
Mmsも5g付近から6.4g付近へ上昇。
あれ~っ? 振動板は同じものなんじゃないの??
前稿で説明したとおりです。Mmsにはサラウンドやスパイダーの構成1/3程度の質量が印加されますので、重いセーム革のサラウンド、鉄製のコイルスプリング等の一部がMmsに付加されたものと思われます。
とにかく、これはオリジナルと全くの別物です。数値の上でも違いが明白になりましたが、音もかなりの変化が期待されます。
T/Sを観る限り、現代的な数値に変化したものもあれば、逆に猛烈に古代退化したと思われる部分もあるので、現代である「今」こそ面白さ満載のドライバーになりつつあるのではと思う。元々古臭いパラメータのドライバーではありましたが、魔改造によって一層特異点なドライバーに変身したのではないかと考えています。
下図はいわゆる昔の公称スペックです。T/Sではないので同列には語れませんが、ご参考までに。

ところで、せっかくT/Sが測れたので、箱のシミュレーションもしてみましょうか。
ここから先はグラフばかりが並びます。グラフの意味性の読み取りが難しい方は面白くないと思いますので、早期離脱をお願いいたします。
Box-Sim :指定箱に入れた場合
P-610Aの標準指定箱は、下図のようなものです。
すなわち、実効50リッター。Fb=47[Hz]付近のバスレフです。

まずは、この箱に入れたときに低域特性がどうなるかを観ておきましょうか。
いつものVituixCADのEnclosureシミュレーターへ係数入力したところ、演算不能のエラーが出ました。出た~っ。T/Sパラメーターとは、ドライバーの動作が線形近似領域で動作できることを前提としたシミューレーション係数なのです。よって、線形近似を逸脱するようなドライバーでは極端にSimの信頼性がなくなります。つまり、P-610とはそれくらい古臭い設計のドライバーだということです。
一般に、Qtsが0.7を超えるようなオールドファッションだと信頼性が落ちますね。ましてこのオリジナル版はQts 0.92と極度に高いです。まぁ、無茶は承知でSimしてみますか。



ヨレてはいますけど。メーカー公表値に近い形ですね。F3は45Hz付近のようです。



へんな形になっちゃいましたねぇ。まあT/Sが変わって別物になったのだから当たり前です。
このことからも、「ドライバーを設計もせずにテキトーな容量の箱に入れる」のがいかにダメか、判りますよね。箱の設計を変えてみますか。

ロクハンに120リッターって・・・。狂っとる。

そのときのF3は、27.5Hzですって。怖!! ロクハンのフルレンジの低域下限が27Hzて。。。アタマおかしくなりそうです。でも、Fsが低くQの極端に高いドライバーってこの傾向が出るんです。良いことばかりではありません。喜んではいけません。
ワイドレンジは結構ですが、Excursionが物凄い事になっています。
以前のExcursionのお話を思い出してみてください。ワイドレンジ=パワーが入らない と同義です。逆の視点でいえばパワーがいくらでも入る、というのはワイドレンジではないことの査証です。
ありもしない夢想をしても仕方がないですね。これらドライバは最終的にはANDROMEDAの箱に入れるのです。ANDROMEDAのPRsと組み合わせたときの現実的なSimをしてみましょう。
Box-Sim : ANDROMEDの箱に入れてみる
まずはオリジナル・ドライバーです。

これがANDROMEDA-PRsのジオメトリ。Extra Massは0gにしました。
このとき、

こうなります。
若干波打っちゃいますが、これが調整限界です。
6.5inchでも40Hzまでは伸ばせそうですね。Xbassと併用前提ならこんなに伸びる必要もないのですが。
次、魔改造品です。

箱は同じですが、Add Massを30gも載せています。これってAlphaよりBetaより多いです!
そして、

F3が28Hzになるだと。ロクハンのフルレンジなのに??
怖い怖い。凡百の「スーパーウーファー」が敵いません。これってどういうスペックなのかというと、我が家の旗艦Alpha(のXbass抜き)よりもワイドレンジなのですよ。こんなワイドレンジ必要無いって。
まあでも、T/Sシミュレーションが怪しい領域のドライバなので、眉につば付けながら期待しておきましょう。まず、鳴らす前から判るのはパワーが全然入らないだろうなということ。もしかしたらMX-1000Hのサブウーファーよりもパワー入らないかもしれない。それと、これだけ設計値が常識ハズレなドライバーだと、私でも聴いたことの無いような特異な音が出そうです。(良い意味だけではなくてね)
まさにこの「すごく変な設計にしてすごく変わった音を聴く」が狙いのひとつでもあったりします。

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