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本日は、リスニングポジションにおける音圧レベルを周波数平坦に整えることが必ずしも正しくないという話をします。以前アメブロで書いていた表題の記事が消し飛んでしまいましたので、新たに原稿をリテイクしました。以前とは微妙に説明のトーンが異なる部分があります。
 

序論

ハイエンドオーディオの世界では、音声を最高の品質で再生するための技術が数多く展開されます。中でもリスニングルームにおける音響調整は音聴空間の特性を集中的に設計する分野でもあり、特に「リスニングポイントでの周波数特性をフラットにすることは本当に正しいのか?」という視点にマニアの興味が集中します。

本稿では、マイクロフォンによる測定結果とヒト聴覚による「フラットに聞こえる」という知覚の不一致の要因について明らかにするとともに、室内音響調整の現代トレンドについて解説します。

有響室(リスニングルーム)≠ 無響室

まず当たり前の前提の話をします。無響室は一般リスニングルームとまるで違います。これは式を書いてみれば自明です。

リスニングルームにおいて、ある周波数f における測定値は、ラウドスピーカーからの直接音 に加えて、壁、床、天井、調度品などから反射し、かつ時間遅れを伴って到達する間接音の重畳で示されます。
無響室では上式の「ref..」が限りなくゼロに近づくわけです。

上式は「マイクロフォンの」測定の特性です。人間も上式と同じような受容特性を持っていれば話は簡単だったのですが、そこが全く異なるため事態を複雑化します。このことが後段で出てきます。

Floyd Tooleの嗜好テスト

Dr. Floyd Toole(フロイド・トゥール博士)はスピーカー設計と測定の専門家です。NRC(カナダ国立研究所)時代からハーマン社時代に至るまで膨大な実測データブラインド聴取テストを積み重ねてきました。その成果は「Sound Reproduction」など専門書にまとめられ、ラウドスピーカーの実測物理特性(周波数特性・指向性・ひずみ特性など)と聴覚心理(聴感)の関係性を結びつける科学的枠組みを提供しています。

50年にわたる試聴テストからリスナーは「無響室では平坦かつ滑らかな軸上周波数特性を持ち、指向性が一定または滑らかに変化するラウドスピーカーを好む」と報告しています 。ここでいう「平坦」とは無響室でのOn-Axis特性を指しています。
一方、そのような無響室で平坦特性なラウドスピーカーを、一般住宅の部屋=有響室で測定すると、わずかな低域ブースト(下向き傾斜)の傾向を示します。トゥール博士は図版で、上位評価だったラウドスピーカーの平均的な室内周波数特性を作成し、それは緩やかな下向き傾斜+約2kHz付近の小さなくぼみを示すことを示しました 。このくぼみは位相継ぎ目によるもので、「リスニング上は支配音に重要であるため、無理にフラット化すべきではない」と述べています 。一方、平坦な室内曲線をあえて作ると「高音域が持ち上がり過ぎて明るすぎる音になる」とも指摘しています 。

つまりトゥールの試聴結果からは「良いラウドスピーカーは無響室フラット+スムーズ指向性」であり、それを「室内で測るとわずかに高域側が低下して聞こえ、そちらの方が好まれる」という結論が得られています 。

人々に最も好まれるラウドスピーカーは「無響室において」特性フラットなもの
それをそのまま「有響室」へ持ち込めばやや右肩下がりの
特性となり、それが最も好まれる。

またトゥール研究では被験者の選定と訓練に工夫がありました。聴力が正常~軽度補聴内(オーディオメトリック基準で0~20dB以内)であることを最低基準とし、全人口の約75%を満たす条件としています。

初期の被験者はオーディオ愛好家やプロ研修で「何となく優秀」程度でしたが、聴感に関する語彙が不足しており、問題点を的確に表現できないのが弱点。そこで、被験者が問題音(特定周波数のピークや共鳴など)を聴き分けられるよう訓練セッションを導入しました。

訓練を受けたリスナーは音響問題を明確に検出して的確に記述できるようになり、評価の効率と信頼性が大幅に向上したと報告されています 。実際、12人の訓練済リスナーと256人の一般リスナーで同じスピーカー評価を行うと、「製品の順位付けはほぼ一致した」ものの、訓練リスナーのほうが評価のばらつきが小さく信頼度が非常に高いという結果が得られています 。このため少数の訓練リスナーでも、再現性ある結果を素早く得られる点が評価されています。

  • 評価結果概要:
    無響室では平坦特性+スムーズ指向性を持つスピーカーが最も好まれる。
    => それは有響室内測定ではわずかな右肩下がり(高域下降)の傾斜となる 。
  • 訓練リスナー:
    聴覚検査で正常聴力を持つ被験者を選抜し、聴感問題を聴き分ける訓練を実施。訓練リスナーは少人数でもほぼ一般リスナーと同等の選好結果を示しつつ、結果の信頼性と再現度が格段に高かった 。
  • ブラインドテストの重要性:
    トゥールらは「見える試聴(メーカー名・価格・サイズの影響)も音質評価に大きなバイアスをもたらす」ことも実験で明らかにし、完全ブラインドでのテストが必要と結論付けました。
     

被験者に好まれたカーブ

青—– 訓練されていないリスナーの好む特性
緑—– 訓練されたリスナーの好む特性
赤—– 全リスナー平均的

そして、黒線はそれらからToole博士が導出した望ましい特性傾斜角で、Tooleのターゲットカーブとも呼ばれます。
いずれの場合も特性平坦とは程遠い右肩下がりの傾向を示します。無響室でフラットなラウドスピーカーを有響室で再生すると、このような傾向になるのは自然かつ望ましいのです。

そんなに無響室フラットが好ましいのであれば、リスニングルームを無響室みたいに反射のない部屋にしてしまえばいいのじゃないか?との議論もあります。しかし、こちらもトゥールらの長年の研究で、適度な反射や残響のある部屋の方が好ましいと感じられるという結論が出ています。矛盾しているようですが、反射要素も大切ということ。

 

人間の聴覚モデル特性と測定特性の断絶

普通に考えれば、無響室特性がフラットなラウドスピーカーが好まれるなら、有響室でもフラットでいいのではないかと考えたくなるものです。なぜこのような違いが生じるのでしょうか?測定値と実際の印象が乖離する要因には、人間の聴覚特性と測定器条件の違いが挙げられます。

非常にざっくり言ってしまえば「聴覚はマイク測定特性と違うのだよ」で終わりです。

マイクロフォンの測定は時間的に異なる反射も重畳された結果を用います。これに対し、人間の聴覚モデルはそれがまるでパケット通信であるかのように、音波を小さな時間窓で分離した一塊の刺激列として知覚します。この刺激列の時間窓は一般に「約200ms*」程度の長さをもつとされています。この小パケット分断効果によって小さなディップや小幅の差が繰り返されても平均化されて「精緻に覚知されない」ことが多いとされています。これにより、測定の上では高幅なピークやディップを持つ周波数特性も、聴覚上で気にならない場合が生じます。

さて、ここで前述の「マイクロフォンが受容している」測定計算式をもう一度眺めてみましょう。

擬似無響計測なみとは行かないまでも、ヒト聴覚は「直接音」と「反響音」を弁別することが可能ということです。常に可能なのではなく、あるときはdirectとref1, ref2 を分離して聞き分けできる。またあるときは、direct+refが混濁して一塊として捉える。そういう特性を有しています。皆様もオーディオマニアであれば、直接音とホールトーンなどの間接音を明快に聴き分けることができたご経験があるはず。これが時間窓の効果で、通常のリスニングルームでも同じ事が起きています。
この能力は、前述の小パケット識別だけで成立するのでなく双耳間位相差を利用した空間認知能力とも関わっているそうです。

200ms*
この時間窓の長さは議論のために一般的に用いられる中間値です。実際には周波数に依って一定ではない。例えば50Hz未満では300msを超える窓が必要の場合がありますし、逆に高域では10-50msの窓でも十分に認知可能とも言われています。

ここでポイントは、そんな受容特性を有しているヒト聴覚において、リスニングポイントで特性平坦になってしまうような調整をしてしまうと、ヒトはどんな感じ方をするのかという視点です。

多くの人に好まれるのは、下図のように無響室で平坦特性を持つラウドスピーカー。


これを有響室=リスニングルームに持ち込むと、一般に下図のような特性になる。
(リスナーは擬似無響計測的な受容特性をもっているから、これでフラットに聴こえるのです)


それを室内音響調整で、リスニングポジションにおけるマイクロフォン測定値が平坦になるよう、強引に補正していく。

すると? → リスナーにはどんな聴感になってしまうのでしょうか。
フラットにしたのだからフラットに聴こえる? おそらくは、

こんな感じの「聴こえ」になっています。
煌びやかで華やかで、鋭い解像感はあるものの、低域は痩せて聴こえ、高域は過度にブライトに聴こえる。つまり、特性平坦にするとヒト聴覚にはフラットには聴こえなくなります

リスニングポイントに測定マイクロフォンを据えて測定する計測技法では、擬似無響相当の計測ができません。壁・天井・床・調度品からの反射音の支配力が強くなり、ラウドスピーカーの直接音到達時間と時間差が稼げないため、時間窓を使った擬似無響計測ができずに、ステディステートでの計測結果となります。その結果のみを使って強引に平坦化した結果は人の感じる「平坦」とはかけ離れ、多くの人にとって違和感のある再生音となります。前章でも触れた通り、リスニングポイント測定=フラット=「高音域が持ち上がり過ぎて明るすぎる音になる」という感想になるようです。

ちょっと想像していただくと分かりますが、

  1. リスニングポイントで=有響特性で特性を強引に平坦にする
  2. → 無響室では平坦”ではない”高域上昇特性にすることと同じ
  3. → すなわち、多くの人が好ましいと感じる特性では無くなってしまった

日本では、 [TRINNOV] や [AVアンプ]の補正機能でリスニングポジション特性を最小位相特性も鑑みず強引平坦化している事例が結構多く見られます。もちろん趣味ですから何をやっても自由ですが、現代の室内音響補正のトレンドからすると遅れていると言わざるをえません。耳のよいユーザーはいったん調整はしてみるものの、その調整結果に「違和感」を感じて、最終的に自動補正を排除してしまう方もいる。それらは実に的確な聴力と評価能力をお持ちの方だと思います。

では、平坦にするのが正解(トレンド)ではないとすればどんなカーヴにフィッティングすれば適切なのでしょうか。
次章では、その室内音響調整の所謂「ターゲットカーヴ」について説明します。

ターゲットカーヴの誕生

一言で測定といっても、プロの音響設計ではFFTと時間窓を用いて直接音成分のみを取り出して初期反射や残響をリジェクトする計測手法が用いられます。これは私が日頃から自作スピーカーの評価に用いている測定技法と同じものです。

トゥール博士の論文でも音響システムの設計には時間窓を短くして直接音特性を捉え、これを平滑化するのが望ましいと述べています。分かりやすく言えば、有響室でも無響室相当の測定でラウドスピーカーを正しく評価するということですね。無響室や擬似無響基準での良否判定は単純です。特性フラットにできれば良いので。

ただし、これは測定のジオメトリと環境を整えてこそ可能な技法であって、有響リスニングルームの、特に遠点の「リスニングポイントでは」通用しなくなります。実際、聴取位置での音にはスピーカーからの直接音だけでなく、壁・床・天井などからの初期反射や残響音が多量に含まれます。これら反射音はスピーカーの軸上音だけでなく、斜め方向・背後方向からの音も含みます。従来の正面軸上測定ではこれらの反射音の色付けが捉えられないため、トゥールはリスニングウィンドウ(聴取窓)や初期反射曲線などを含めた測定手法(スピノラマ)を導入しています。これらにより、人間が聴くダイレクト+反射を総合した音のスペクトル評価が可能となりました。

さらに指向性の違いも大きな要因です。典型的な直接放射動電型ラウドスピーカーは低音域でほぼ全方位放射ですが、高音域では一般に狭い指向性となります。その結果、有響室内では低音がより多方向へ拡散して強く響き、高音は減衰しやすくなります。だから、有響室では低音が多く響き高域が減衰するのが自然に聴こえるのです。トゥール自身も「下向きに傾斜した室内特性は、高域の指向性性向ゆえに自然発生するものであり、良い特性である」と説明しています。実際、良質スピーカーを部屋で測ると周波数応答は緩やかに下がって聞こえ、無響室でのフラット特性を求めて部屋を補正すると「明るすぎる」音になるという報告が見られます。

オーディオガイド誌によれば、リスニングルームでは低域が自然に盛り上がり、高域は吸収されやすいので、最終的にスタジオのミックスに近い音とするには、ハーマンのターゲット曲線(後述)のように低音を少し上げ高音をやや抑える必要があるとされています。

トゥール博士の研究から始まったこの検証はHarman・Oliveまで長年にわたり引き継がれて、「リスニングポジションではこんな感じのカーブになればいいのではないか?」、すなわち有響室で目指すべき特性・ターゲットカーヴという概念を生み出しました。「特性フラット」のような単純なものに比較して、研究者の重視する評価軸に違いがあることから、そのカーヴは一種類にとどまりませんでした。研究者の数だけカーヴが存在する感じです。絶対性能の評価ではなく、人間の官能評価とのフィッティングが目的のため、そのカーヴには揺らぎがあるということです。

ただ、そのカーヴの中には「完全フラット」のようなものはひとつもありません。低域が持ち上がり高域が減衰している右肩下がりなカーヴは共通しています。

Floyd Toole vs Sean Olive:役割とアプローチの違い

Sean Olive(ショーン・オリーヴ氏)はTooleも在籍していたHarmanグループの研究者です。オリーブは心理音響とターゲット曲線(好みの周波数特性)に重点を置いた研究で知られています。元々はハーマンのヘッドホン・スピーカー品質研究チームに所属し、聴感テストとモデル化を組み合わせるアプローチを推進してきたメンバーです。オリーヴ氏は「良質なラウドスピーカーが理想的な部屋で再生される音特性」をターゲットとすることをミッションとし、聴取実験から最も好まれる音響特性を導き出しました。2004年には、ラウドスピーカーの客観測定値からリスナーの評価点を数学モデルで予測する手法を確立しており、その成果がANSI/CTAの新規格(2015年制定)にも反映されるなど、極めて影響力の高い存在です。近年ではヘッドホンの音質研究にも注力し、DF/FFターゲットを超える「ハーマン・ターゲット・カーヴ」を提唱しました。

ざっくり言うと、Toole博士は多様な測定データを基にした「物理指向」のアプローチでスピーカー性能を解析し、Olive氏はリスニングテスト結果から好みの音作りを行う「心理音響モデル(官能評価)」に重きを置いたと言えるでしょう。両者は立場や主張が微妙に異なるものの、互いに補完的で、実際に共著でスピーカー・部屋・ヘッドホンを扱う専門書を執筆するなど、協力関係にもあるようです。
 

では、実際に両者(Toole / Olive=Harman) のカーヴを比較してみましょう。

前述のとおり、青赤緑は「Tooleテストにおける被験者の好み」でしたね。
そして、黒線がTooleの提唱するターゲットカーヴ。ピンク線がOlive =Harman Target Curveです。

いかがでしょう。Tooleは論理的かつ玄人好み。そして、Harman/Oliveはより一層一般人の嗜好寄り、と言えるのではないでしょうか?単純に多人数に嗜好だけでテストすれば、Harman Targetの方がスコアが高くなってしまいそうですね。

また、上図ではHarmanは一種類しか示していませんが、HarmanのTargetは好みや嗜好性について更にいくつかの種類があるのです。

現代の「補正トレンド」

現代のルームアコースティックにおいて、先進的なユーザの間ではDirac LiveやREWなどのオーディオツールを用いて、(フラットではなく)ターゲットカーブにフィッティングさせる活動がトレンドです。
これらルーム補正ツールで使われるハーマンターゲットカーヴは、前述のリスニング実験から生まれた理想的な室内周波数特性を目安に設計されています。一般にこのターゲットは、低域にやや持ち上げ(豊かな低音)、高域に向かって緩やかに下がる傾斜(例:20Hzから20kHzで5dB程度の低下)を持っています。トゥール博士の分析でも、高評価スピーカーの室内特性は平均して高域方向へのわずかな下向き傾斜とほぼフラットな中高域から構成され、急激なピークは含まれません。この傾向は多くの研究/研究者で共通しており、ターゲット曲線は少なくとも一部で右肩下がりに傾いているのが望ましいとされています。また、このターゲットカーヴの考え方は数多くのハイエンドオーディオファイルのなかで支持されています。

このハーマンターゲットは実際の室内リスニングにおける快適さを再現する意図があります。部屋では低音が強調されやすく高音が減衰しやすいので、そのままではバランスが崩れます。ハーマン・ジャパンの解説でも「低域が豊かで、高域が抑えられたカーブ」を示し、それが試聴者に最も好まれたと報告されています。それは「完璧な無響室補正(Free-Field)」でもなく「音が全方向から反射する仮想空間(Diffuse-Field)」でもない、ハーマンのリファレンスルーム特性に基づいた補正を目指しているためです。すなわちJBL/AKGのリスニングルームでのモニター特性を参考に「最終的に耳に届くべき音」をターゲットに据えており、このカーブをヘッドホンやスピーカーで再現すると、多くのリスナーが自然に「原音に近い」と感じることが示されています。

ツールのひとつであるDirac Liveでは、ターゲット曲線の自動生成機能が導入され、最適化の候補曲線としてスピーカーの特性に応じた特性曲線(このカーヴはハーマン曲線を基にしたもの)が提案されます。さらにユーザーは周波数帯域ごとの調整ポイントをドラッグして更なるカスタマイズも可能です。あるフォーラム報告によれば、Dirac用のターゲットカーブには「再生レベル」と「周波数スロープ」を組み合わせた設定が複数用意されており(例:参照音圧85dB、スロープ5)、これには等ラウドネス補正(ISO 226に基づく人間の音圧感度曲線)も考慮されるとされているそうです。つまりハーマン曲線は特定の音量で「聴感上フラット」と感じられるように最適化デザインがなされており、視聴音量が変わればほんのわずかにカーブも調整されるのですね。

まとめます。
ハーマンターゲットカーヴは「モニター環境で理想とされる音響特性を、多くの聴取者が好む形でモデル化したもの」と言えます。DiracやREWにおいてはそれを参照値として、部屋の周波数レスポンスを補正することで、エンジニアの理想とする音に近づける、すなわち制作現場で聴く音に近づけることを目指しています。「リスニングポジションでフラットにする」概念が過去の遺物であるということが分かります。

Dirac : 各種のターゲットカーヴ

Harman Target Curve.txt


 

電気的/数学的にターゲットへ近づけるのは是か否か

数学的な補正の落とし穴

もう一度、ターゲットカーヴを示してみましょう。これがルーム特性で最良であったと仮定して:

REWはRoom Equalizer Wizard の略です。つまり元々測定アプリケーションではなく、ターゲットカーブへのイコライジングを最終的な目的としたアプリケーションなのです。REWはイコライザーカーヴを喰わせておいて、自動補正されるオートイコライザの機能が備わっています。miniDSPの相方として動くDirac Liveなども同様。

電気回路のイコライザを使ってターゲットに近づければ電気的な補正といえますし、DiracやREWを使えば数学的な補正と言えますね。しかし、私個人的にはこれら二つのアプローチには疑念があるのです。

「電気回路を通ると信号が劣化する」とか「数学的にイコライジングすると原音ではなくなる」とか程度の低い発言は論外として・・・そういうのとも違うんですよね。

私は、オーディオという学問はその因果律がとても大切だと思っています。無響室特性が完全平坦であったとして、それが部屋に入れると何が要因でその姿に至ったか、という因果です。たとえばそれが最小位相系で示せるようなとても綺麗なものであったと仮定して、ここではその系が不明なわけです。系が不明なままで、的確な補償はできません。単純に音圧周波数特性のみを整合させると、前述の「因果」は見事に破綻します。つまり原型ではなくなるということですね。

例を挙げれば分かりやすいかなと思います。
たとえばラウドスピーカーの有響室特性をターゲットカーヴへ近似させるため、FIRを使ったとします。直線位相系を使ったのだから一見するところ劣化がなく気持ちがよい。しかし、室内音響で特性が乱れたと言うことは、当然ながら音圧レベルだけでなく位相錯乱も伴います。そこを無視して音圧だけを整えたので位相錯乱は戻せないから因果律は破綻します。次に、FIRではなくIIRで補正したとします。すると今度はIIR補正ならではの自然な位相変移が伴ってしまいます。しかしそれは、ルームアコースティック影響による位相回転とは一致せず、同じく因果律は破綻します。
つまり何が言いたいかといえば、それは「イコライジング(等価補正)」とはならず、単なる「歪曲=改悪」になると言いたいのかもしれません。数学的ならばなおさら、論理通りに因果を保った補正をしてほしいと思うのです。

私見で理想と思える手法

<その1>

まず、無響室で位相直線/振幅平坦であるラウドスピーカーを買う。または設計製作する。ここは全く揺らぎません。トゥール博士の研究とも完全一致します。源流が歪んでいると、因果律もへったくれもないからです。

<その2>

ルームアコースティックの吸音・音響的な調整のみでターゲットカーヴへ近づける
これは無理難題ではなく比較的容易です。低音の吸音は困難・不可能ですが、高域は簡単に吸えるからです。低音の吸音や拡散はそこそことし、壁面や床面のカーテン・カーペット・吸音パネル等を駆使し、高域の吸収を多めにして、ターゲットカーヴへ近づけてゆきます。アコースティックなパネルのみで、理想に近づけていくということですね。(そのためには正確な測定環境が必要ですが)

<その3>

ラウドスピーカーの設計で高域反射を減らす
これは指向性の制御によって実現可能です。具体的にいうと、高域にホーントゥイーターやウェイブガイドを導入し、高域に行くにしたがい指向性を狭くするのです。結果論として高域ほど壁面の二次三次反射が減り、リスニングポジション特性では高域が減衰傾向になります。

いずれの場合も「低域が盛り上がりすぎている」現象が観測されれば、ベーストラップ等の工夫も必要になるでしょう。

ぴしゃり、このカーヴへフィッティングすることが目的ではないのです。トゥール博士が示したように、大雑把な右肩下がり傾向になっていることが大切。

(ご参考)
上図は拙宅の「ANDROMEDA-Gamma」実測特性です。
ブルーの実線が無響室での特性であり、ピンク色の階段がリスニングポジションにおけるエネルギー特性を示しています。ピンクがTooleやHarmanに似ていると理想です。
これを見ると超低域が大幅に盛り上がっているが、これを無理に抑えてはいけない…ということが分かりますね。
一方で、高域は無響室の特性と漸近しており、フラットすぎます。理想のターゲットからいえば、少し吸音処理を増やし高域を減衰した方が聴感が改善されるかも知れない。。。な〜んてことが判るわけですね。
 

まとめ

  • 無響室で位相直線・振幅が限りなくフラットなラウドスピーカーがよい
  • リスニングポイントの実測では、低域が盛り上がってわずかに右肩下がりの特性になるのがよい
  • できれば電気的/数学的イコライジングではなく吸音などのアコースティック領域で解決できるとBEST

以上です。

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2件のコメント

  1. KeroYon様
    あなたのオーディオに対する合理的な取り組みについて、好感とともに楽しく読まさせていただいております。

    ただし、いくつか気になる点がありました。

    「Tooleの提唱するターゲットカーヴ」という表現は、誤解を招くのではないでしょうか。そのように扱われているかもしれませんが、彼の記述を見る限り、「部屋特性は、部屋それぞれの固有の特性であり、好みにより多少左右されるが、ほとんどの場合、人はそれを受け入れる。すなわち、[スピーカー+部屋]特性は結果であり、明確な目標特性は存在しない。」ではないでしょうか。ただし、定在波については対応が必要であるとの述べています。

    また、「Olive =Harman Target Curve」は、ヘッドホン・イヤホンのために想定された特性曲線(スピーカー+部屋特性)にすぎないのであって、実際の部屋における目標であるとは、Oliveが主張したことはないのではないでしょうか。こちらについては、私の勘違いかもしれません。ですが、Oliveがそのような主張をするとは考えにくいのです。

    以上、私の誤解であればご指摘ください。

    1. >nkiさん
      なるほど、そうなのかも知れません。

      Toole自身、Olive自身がルーム補正用途としてそれらを提唱したというよりは、後発の”外野(例えばDirac Live, REW, AVアンプ)”が勝手にそう解釈し、フィッティングの補正カーブとして採用している。つまり二次創作であると。
      …が正解かもしれませんね。
      もう少し原典に当たるなどして検証してみますね。

      「外野」の動きとしては、何種かのHarmanにフィッティングされて「あれがよかった」「これがよかった」などの議論が盛んです。私はそれを曲解しました。Tooleの示した好ましい曲線の傾斜は地味すぎてあまり評価がよろしくないようです。

      技術的に的確なコメントありがとうございました。

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KeroYon

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