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これは自作ラウドスピーカーではありません。市販製品を分解しXoverを改造したりDSP導入することで徹底的なドーピングをするというプロジェクトです。自作スピーカーとは言えないが、DIY Loudspeaker Building であるとは言えます。過去にも市販製品のモデファイ、徹底ドープをした経験はあります。しかしこのモデルほど詳細な改造プロセスを全て連載記事化したのは初めてかもしれません。

LS-11シリーズについて

KENWOODのLS-11シリーズはオーディオ全盛期の末期。1980年代末期から1990年代初頭に小型3wayの名機として大ヒットしたシリーズです。

  • LS-11 ¥45,000
  • LS-11M ¥50,000
  • LS-11ES ¥56,000
  • LS-11EX ¥60,000

最初のモデルはペア45000円のローコスト3wayとして始まったシリーズも最終期のEXでは6万円の高価格となってしまいました。まぁそれでもVictorのSX-500シリーズが9万円〜10万円近かったことを考えれば十分にハイコストパフォーマンスだったと言えるかもしれません。

このシリーズの設計が大幅に変わったのは、やはり3代目のESからではないでしょうか。先代までがミニコンポ付属然としたルックスだったのが観るからに高級感を醸し出し、トゥイーターも高級そうなハードドームに変更されました。EXの中古は高いのですが、ESの中古は安く入手できます。
私が入手したものはハードオフでペア4,000円。「故障品」とラベリングされたジャンクだったのですが、実体はまったく故障や不具合がなく、完全に鳴る個体でした。

4千円で入手したジャンクLS-11ES

今回はこの中古ジャンクLS-11ESの素特性を徹底解析 → 徹底分解 → 徹底改造 → 音質のジャンプアップを狙う というのがテーマとなります。

購入状態のままでの実測と視聴

30年以上前のくたびれた中古品です。そのまま聴いたのでは本来の性能を発揮することはありません。分解しての徹底清掃、性能の出ていない部分の補修を開始します。

トゥイーターが断線しているとのショップ情報でしたが、テストすると断線しておらず、正常に音が出せました。おそらくはアッテネーターの接触不良に思います。

埃だらけな上に全体的にかなり汚れています。まずは清掃から。

サランネットは汚らしい上に破けていたので全部撤去しました。サランネットのフレームがばっきり折れているので、これも補修しなければなりません。

清掃後に一通り計測もしてみました。

特にウーファーはサラウンドが硬化していますから本来の性能は発揮できていないと思います。しかし中〜高域は原初の性能からそんなに変わらないはず。非常に変わった特性をしています。必ずしも特性平坦ではないですが、これはローコストモデルですから、まあこんなものなのでしょう。(幻想を抱いてはいけません)
 

インピーダンスカーヴです。ドライバーFsもポートチューンも高めですね、現段階では。

この状態での初回視聴の感想はかなりボロクソなことが書いてあります。
ご興味があれば以下を。

分解、清掃

解析と改良のため、分解していきます。普通のラウドスピーカーに比べると少々分解が厄介な商品です。なにせ前面からはビスが全く見えない。
 

まず一番キモとなるのはこの背面のアッテネーターツマミです。針金のジグを作って外しました。

このラウドスピーカーは裏板を外すことで各所にアクセスできます。どんどん分解をしていきます。

この段階でエンクロージャーは洗浄・清掃します。

これが内蔵のクロスオーバーです。正直な感想を言うと「まるでゴミのよう」でした。
この価格の国産ラウドスピーカーでは、裂けるコストはドライバーや見た目のゴージャスさに全振りされ、Xoverまでは回らないのです。だから「粗大ゴミ」があてがわれています。

ウーファーのサラウンド軟化

このラウドスピーカーで最もやらねばならない性能復旧のひとつがサラウンドの軟化です。ファブリックに制動剤を含浸させたサラウンドですが、手触りからしてカチカチに硬化しています。

軟化処理に使うのは ラッカー薄め液/ボンドG17/絵筆 です。

ダイアフラムに溶剤が掛からないように、マステで軽く養生します。

ラッカー薄め液にG17を加えます。ほんのわずか。計量はせずに色だけで判断します。ほんの僅かに黄色味の液体になるまで。元の弾性剤を完全に除去できるわけでなく、軟化して弾性剤を加えるだけだから、薄めの方が良いのです。多すぎると乾燥後に硬化します。

これは塗り終わった状態。時間を置きながらこれを数回繰り返します。触るだけでかなり軟性が変わってくるのが分かります。

T/Sパラメータを計測しながら、軟化処理の効果を確認しています。
最終的には、ペイント薄め液ではなくブレーキフルードによる軟化処理が一番効いたみたいです。

ドライバーを分解清掃

ミッドやトゥイーターのドライバを分解し清掃・メンテナンスしていきます。

溶剤でメタルネットを外します。

埃だらけなので徹底洗浄・清掃をします。

清掃するだけでなくフランジは研磨してピカピカにします。新品同様です。

エンクロージャーの補強

エンクロージャーを叩いてみると、明快に面積の大きい側板が弱点であることが分かります。音質上もブーミーで汚れた低音の原因になっている感じがあります。そこで、木材を用意して側板にブレーシングを追加しました。

結果、明らかに側板を拳で叩いたときの打音が変化しました。

ターミナルを大改造

スピーカー端子を改造してWMT分を分割して引っ張り出せるようにしました。

なぜ、こんなターミナル増設をしているのかというと、

  • プアーな内蔵Xoverを徹底改良したい
  • 改良したXoverは箱に収まらないほど巨大なので外へ引っ張り出したい
  • DSP Xover導入の準備としてWMTを別々に配線できるようにしたい

という目的のためですね。
このため、すべてのドライバーは回路を介さずにこのターミナルと直接結線します。Xoverはもちろんのこと、取り外したアッテネーターもスキップです。

新しいケーブルですべてのフックアップをやり直します。

吸音材も不足でしたので少し増量。(少なすぎる吸音処理は特性を劣化させます)

閉じました。

ドライバー単体の裸特性

測定時のジオメトリを算定します。スタンドに乗せても床から近いからそんなに窓は長く取れません。

ウーファー、ミッド、トゥイーター個々のドライバーのインピーダンス特性です。

ウーファー、ミッド、トゥイーター個々のドライバーの音圧周波数特性です。

これらをそれぞれzma, frdとして収納し、シミュレーションに利用します。
ミッドがなかなかワイドで優秀だなと思う一方で、ウーファーの設計は特殊。トゥイーターはトゥイーターのくせに高域の伸びが足りないと感じました。有り体に言えばどれもポテンシャルの足りない(安物の)ドライバーだと思います。

Xoverシミュレーション

これよりVituixCADを用いてクロスオーバーシミュレーションをします。

がその前に、ドライバーのバッフルジオメトリを入力しておきましょう。

これを怠ると、算定される定数に大差が出ます。(これはCoaxialドライバーではありませんので!)

ターゲットスロープを求めて、それぞれのカーヴにフィッティングを行なっていきます。が、それぞれドライバーの素特性が悪いので、フィッティングにも限界がありました。特にトゥイーターは酷い特性をしています。

求めた最終的な回路。オリジナルの2nd. Orderに比較すればかなりの大規模です。

”電気的な”カーヴ。かなり強引な補正をしていますが、こうでもしない限りフラットにはならないのです。(=すなわち、素性が悪いってこと)
ANDOROMEDA – Alphaがほとんど補正らしい補正なしでスロープが出せて、かつ弩級フラットだったことを考えると、いかに素性の悪いドライバーであるかが判ります。まぁ掛けられた技術力もコストも違いますが…。

アコースティックなスロープと合成特性です。最高ではないが、なんとか纏まりました。(オリジナルよりはマシ)
グレーの点線は位相特性を示しています。トゥイーターの性能が悪いので、高域に行っても位相はグダグダになってしまいます。
 

パッシヴXoverの制作

百均の有孔ボードをPCB代わりにして、2段重ねのクロスオーバーを制作していきます。1枚では乗らないので。

膨大なストックの中から、使えそうな定数を選び出します。(定数がないものは回路にフィードバックを掛けて見直しをしました)

超大型・高級パーツも大量投入しています。中には数百万円の市販品にしか採用されないグレードのパーツも。

これで片ch分です。笑ってしまうほど巨大です。

出来上がったXoverとLS-11ESと並べて撮ってみました。LS-11ES本体とそんなに大きさが変わりません。こんな巨大な回路がエンクロージャーの中に入りっこありません。手前にちょこんと置いてあるのがオリジナルのXover回路ですがチリのように見えます。

投入したパーツを現在レートで計算してみると、トータル 45,156日本円 /2ch。スピーカー本体と大して違いがありません。高級ラウドスピーカーの原価率が20%と考えるとクロスオーバーだけで20万円を超えてしまいます。

パッシヴ型のセットアップが完了しましたので、測定と試聴を行なっていきたいと思います。

パッシヴXoverでの実測特性

インピーダンスと癖です。16kHzで3オームを切っちゃってるのは落ち込んでしまう高域端を補償した反動ですが、このままではヤバいので後日対策を行いました。安物国産ラウドスピーカーですが、改造インピーダンスはハイエンドスピーカーよろしく極度の補償の形跡が見られるような極端なものに変わりました。(まるでKEFです)

そしてこれがOn-Axisでの振幅特性です。モーレツに整ったと言えるのではないでしょうか。

オリジナル状態での実測値と比較すれば、どれほど整えられたかが判ります。

  桃色が改造前の特性です。 
 →ブルーが改良後の自作Xover。

この整った平坦な特性は、能率を犠牲にして達成しているのだということは判りますよね。補償とはそういうものです。オリジナルと最大値で10dBもの落差ができています。実際にフラットな方が必ず音質が良くなるのかといえばそこは議論の余地があるにせよ、On-Axisでの特性平坦がトータルでスコアが高くなるというのは実験統計的に明らかになっている事実です。極端に暴れているものに対しては「スコア優勢になる」のは疑いがありません。公称89dB/Wがどこの帯域基準なのかは判りませんが、改造後は実効82dB/2.83V内外の低能率になってしまったと思います。
 

パッシヴXoverでの音質所感

このパッシヴXoverで初の視聴当時、かなり興奮したであろう記述が残っています。

う、ウッソだろおぉおおおお?

という記述が残っています。少なくともジャンクから出てくるような音ではないと。元のオリジナルの音質がかなり酷いものでしたので、それとの落差で当初はかなり良く聴こえたのでしょうね。「いかにもオーディオの音」から一歩脱却し、楽器本来の音の片鱗が聴かれ、クールで高分解能系の音場タイプに変身したと。ただ、入念に視聴を繰り返していくと徐々に粗が聴かれ始めた…ともあります。以下、当時の感想文をそのまま再掲します。

ファーストインプレッションが良くて大興奮するも、だんだん冷静になってアラ探しを始める。長時間聴いていれば、だんだんと気になる部分が鼻についてきます。完全なる無個性/全くのノンカラーレーションというわけでも無いみたい。AlphaやGammaに比べると、、、やっぱり色づけは感じる。
特に気になるのは、やはり中低域。160Hzより下あたりかな。ソースによってはドンスコ、ブーブー、特定の音調が気になりはじめる。低域の透明度が足りず、ぼん付いたりバタ臭くなってしまう。箱鳴りの部分と、バスレフ”ならでは”の部分が苦手。ウーファーの共振Qも高すぎるんだよ。以前よりかなり良くなってはいるんですけどね。後日、吸音材ぎゅうぎゅうの密閉としLTすれば少しは印象変わるかしらん?
それと最高域も気になる。伸びと透明感は上がったんですが、少しイガイガするような….? 人工臭が香る場合がある。圧倒的なナチュラルというのとは違う。
音楽を聞いていると分からないが、映画やアニメのダイアログを聴いていると、ダイアログも若干イガイガする。この特徴もAndromedaにはないもの。これも最高域が影響したこのスピーカーの個性(欠陥)だと思う。  

若干のアラは感じつつも、オリジナルとは全くの別物。私はドライバーを全交換してしまったのかと空目しました。そのくらい、決定的に違う。4千円で入手したジャンクに4万円を超えるクロスオーバーを投入するのは馬鹿げたコスト投入で、アンバランスでもあるし恐らく誰もやらないこと。そのくらい、クロスオーバーというものは音質への絶大なインパクトを持っている。ドライバー本来のポテンシャルどころか、それ以上のものも引き出してくるという体験ができました。

ただ、その限界点はやっぱりドライバーやエンクロージャーが最終的ボトルネックとなって収斂します。どうせクロスオーバーに物量・コスト投入するのであれば、優れたドライバーやエンクロージャーに対して行いたい、とも強く思うのです。

パッシヴ型でも大変貌を遂げたLS-11ES。ですが、次は大本命とも言えるminiDSPでのディジタルクロスオーバー・マルチアンプ化もやってみましょう。対象に対して完全なる過剰品質ですが、それこそがホビー・オーディオの醍醐味でもあります。
 

miniDSPによるマルチアンプ化、Xoverのオプティマイズ

クロスオーバーの技法がアナログからディジタルに変わっても、やることは同じ。理想ターゲットスロープに対してフィッティングを行なっていきます。

トゥイーター。アナログでは四苦八苦しましたが、ディジタルでは整えるのがラクですねぇ。

ミッドレンジ。

ウーファー。

そしてこれが合成結果。なんたる整いでしょうか。

これに更に今回は、なんちゃってLT (LinkwitzTransform) も適用して低域も伸ばします。
このとき、LTですからバスレフポートは塞いであります。

怖いワ〜。怖い怖い。ハイエンドかよ、と思わせるほど整った特性になってしまいました。別に自動音響補正やグライコのような帯域レベル調整をしたわけではないのですよ。シェルビングやノッチで軽い線形近似補償を加えただけです。DSP/ディジタルXoverというものは、アナログ素子の性能に起因する音質劣化要素を排除できるというだけでなく、容易に線形性を手にいれる調整の容易さという点でも圧倒的なアドヴァンテージがあります。ただ欠点は・・・そう、アンプやケーブルが沢山必要になるところ(笑)
 

Digital Xover/マルチアンプによる音質改善

確かに凄い音質にはなりました。
当時の感想として「軽自動車(オリジナル)」に対する「F1マシン」のような表現が見られます。そして、

このイラストみたいな音質だ、という記述があります。

運動能力のない人にドープしてアスリート並みの過酷な運動性能を無理やり引き出させて死亡寸前

…のようなことを言いたかったのだと思います。まぁ、凄い音だが簡単にいってすごく疲れる音でもあると。
たとえば、F1マシンで一般道をドライブしたとして、楽しいでしょうか?猛烈な運動性能で「ものすごい」のは間違いないですが、車を降りれば全身全霊の体力と気力を引っ張り出されて失神寸前。必ずしも「心地良く」はない。

すごく高性能な音で、欠陥があるわけではないですが、「私には」パッシヴクロスオーバーの、少々性能未達はあれど手綱を緩めてリラックスして楽しめる、しかも高性能感もある音の方が好みでした。並べてみると私の感想は以下のとおりです。

  • オリジナル:軽自動車、走らない、速度を出すと壊れてるんじゃないか?とさえ思う
  • パッシヴ改造:ライトウェイトスポーツカー:絶対性能はないが、俊敏で性能感もあり余裕のクルーズ
  • DSP Xover:F1マシン、圧倒的高性能で運転が疲れる、使う側に極度緊張を強いて妥協も許さない

LS-11ESの余生

約4ヶ月間に及ぶ清掃・メンテナンス・改造・改良でLS-11ESは「骨までしゃぶり尽くした」と思っています。現在は手元を離れてお嫁入りしてしまったのですが、その手前で遊んだりメンテしたりした内容を掲載します。

ウーファーのフレームにテープLEDを巻き付けます。

アッテネーターの穴を利用してDC電源を引き込む。

LED点灯。

実はこれのクロスダイニーマウーファーは振動板が透けて見えるため、そのことを利用してLEDの灯りを灯したのです。照明を落とした室内で雰囲気抜群です。往年のバーかクラブか。こんなことをして「遊べる」スピーカーでもありました。

折れていたサランネットフレームもエポキシで補修。

サランも新品に張り直す。

美しい〜
あのジャンク売り場でまさにゴミのように汚らしかったLS-11ESの姿はどこにもありません。外観はもちろん、性能も当時以上に復旧できました。

サヨウナラ、KENWOOD LS-11ES。そしてありがとう。
ものすごく愉しかったし、それに示唆に富む体験にもなりました。

投稿者

KeroYon

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