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例によって、テキトーな事を書き殴っているだけなので、以下あまり気にせず話半分にお読みください。

本稿ではトランスミッションラインシステム(TLs)とバックローデッドホーン(BH)について、深掘り考察をします。

第一章:トランスミッションラインとバックロードホーンは何が違うの?

同じです(笑

もう少し正確に言うと、BHはTLsの部分集合です。
トランスミッションラインシステムは、音響線路等価で示せる系の総称ですから、BHを含みます。バックローデッド、共鳴菅、音響迷路、TQWT、呼び方が少々違うだけで、すべてトランスミッションラインシステムに包含されると言って良いと思います。TLsファミリーとでも言うのかな?

管っぽい構造を持ったものはすべてトランスミッションラインの系列と言えます。パイプが少々広がっていようが/すぼまっていようが/直管だろうが、同じ。すべて伝達関数がリアクティブな系で示される、管をつないだトランスミッションラインに大別できます。同じシミュレーターで全部分かるんだから、同族以外のなにものでもないです。

そもそもトランスミッションラインって何?

元の語源は電子回路です。「伝送線路」。そう、FMやテレビの信号を送信するケーブルの等価回路でおなじみの、アレですね。ケーブルのインピーダンスマッチング、などの用語はご存知かと思います。伝送線路は高周波において純抵抗ではなく、等価回路を持っています。その回路によって高周波での伝送効率や周波数特性が決まります。
これを音響的な伝達関数に置き換えたものが、ラウドスピーカーにおけるトランスミッションライン・システム(TLs)です。管を伝っていく音響線路の伝達関数と、最終特性の関係性が電気の伝送線路そっくりであったことからこの名が付きました。

  トランスミッションライン・システム = 音響伝送線路系

バックロードも管を繋げて作った構造のため、TLsの等価回路で示すことができます。
Port Aに1を入力したら、Port Bからは xが出力された。よって、系の伝達関数は?というだけの話です。

バックロードホーンは、ホーンではない

爆弾発言かもしれませんがこれは自明です。BHはホーンと名が付いてはいますが、ホーンではありません。的確に表現するのであれば、オープンテーパーの付いた音響迷路(=TLsの一部)と呼ぶのが妥当かと思います。単に末拡がりになっているからホーンと呼ばれている。単なる慣習というのが実態。

なんで、バックロードはホーンで無いの?

それを理解するには、まずホーンとは何なのかを理解する必要があります。
本物のホーンと、バックロードを見比べることで、バックロードがホーンではないことの理解が進みます。
トランスミッションラインもバックロードもミッドホーンも、音の伝わる「経路」を持っていますよね。その経路の音響伝達関数がレジスティブなものが「ホーン」と呼ばれます。つまり経路の伝達関数は純抵抗で構成される。ロスはあっても反射はない。(注:ここでいう反射とは、音が壁に跳ね返って・・・という意図での反射ではありません)

理想ホーン型の挙動と特徴を見てみましょう。

これがホーン型の理想特性です。
ホーン型においては、コンプレッションが掛かることで、音圧特性はダイアフラムの速度に比例したカーブを描きます。速度はFsにおいて極大となりますので、Fsを中心とした音圧特性となります。そのままでは、Fs以外の音が出ないことになってしまいますが、ホーンで負荷を掛けることによって、平らな特性を得るわけです。
ホーンの負荷を掛けるほど、平坦特性が広くなりますが、能率は低下してしまいます。
[a][b][c]どの特性になるのかは、ホーン設計(負荷)に依ります。

ご覧のとおり、きちんと設計されたホーンでは反射がないので、インピーダンスカーヴはFsの1点だけで極大になります。

(ご参考)ちなみに、ホーンではない一般的なコーン型などの音圧特性は下記になります。

ホーンと同じく、[a][b][c]のどれになるかは負荷によります。質量負荷に頼った場合、[c]は重いコーンでワイドレンジ。[a]は軽いコーンで高能率だがナローレンジになります。
 

バックロードの示す特徴

さて、ホーンはインピーダンスカーヴに一点だけ山ができましたね。
対して、バックローデッドホーンはぶっちゃけどんな感じなのでしょう

(超有名・超大型バックロードの特性)

実線がインピーダンス。点線は電気的位相特性。
ご覧の通りです。ホーンのカーヴと見比べてみてください。

いくつもの共振点の山が出来ています。
これでホーンと呼べるのでしょうか。(まぁ別に呼んでもいいですけど)

いくつもの共振の集合体でできている特性がバックロードの挙動の正体。
なぜ、こんな風になるか。それは、バックローデッドホーンのホーン形状が全くもってホーンではなく不連続なパイプの継ぎ合わせだからです。ホーンのカーヴから外れた場所(=恐らくほとんどの場所)で、伝達関数はリアクティブに。つまりそこで、大きな反射が起きるということです。反射とは、伝達している信号の逆流のようなものと考えてください。一部が逆流してきて特性を乱す。

ホーンではないため、ホーン=トランジェントが良い、という表現も誤りです。”共振、共鳴”という言葉の通り、長く尾を引いてトランジェント特性を劣化させています。

実際、どんな伝達関数になるのでしょうか。ホーン(ではなくて単なる気道ですが)の一部を切り抜いて、その伝達関数を見てみましょう。

これが、トランスミッションライン/バックローデッドホーンの伝送線路等価回路の一部を抜き出したものです。

回路図としてはどっちも同じなのです。広がっているか、すぼんでいるかは関係ありません。回路としては同じ。次数や係数が変わるだけ。=形状によってLCRの定数が変わるだけです。回路の中に、LやCが見えますでしょうか?つまりこれが、伝送線路がリアクティブであることを示しています。
この特徴があるかぎり、バックローデッドホーンはホーンとは言えません。

BHは音道がホーンの形状をしていません。場合によっては直管を繋いだだけ。そして、90度とか180度とかでハデに折り返しをしています。折り返しを交えたとたん、そこが関数の大きな不連続になり、リアクティブになります。そんなことをしてしまうと反射は避けられません。だからホーンとは呼べないです。インピーダンスの山が大量に出ていることからも、共鳴菅としての特性の方が色濃く出ていることが分かります。

そんな等価回路と、インピーダンス特性を持つBH。どんな最終特性になるのかも見て終わりましょう。

グリーンが総合的な振幅周波数特性です。
上図はすごーく著名な長岡式大型バックロードホーンの模擬特性。設計値をネットから拾ってきてSimしました。ドライバーのQtsをはじめとするT/SもInputしていますので、比較的正確です。総合伝達関数がリアクティブですから、反射と前面相互干渉の影響を受けて、全体の特性もグリーンのようにドタバタと暴れます。吸音材はゼロにしてみました。が、少々吸音材を盛ったところで、この特性は変わりません。細かい乱れが無数にあるが、脳内でスキマを補間すればフラットになるというタイプ。

細かいノコギリ波がたくさん見えますよね。これは本物のホーンでは現れない特徴です。
インピーダンスで見られた特徴と音圧特性が符合します。
吸音材を適切に配置すれば、この極端な山谷は多少ならせます。

低域が25Hz付近まで伸びているという世評に、偽りは無いようです。ただ中高域に比べて-15dB以上落ちているのを「伸びている」と云って良いものかどうか? 全体としては、キレイだが痩せた音のバランスになりそうです。

次章では、BHとTLsではどんな特性差になるのか、見ていきたいと思います。
特徴が似通っているのでびっくりされるかも知れません??
 

第二章:バックロードとTLsを無理やり分離する

理屈だけではよく分からない。納得いかない。

論より証拠、実際の諸特性を見比べた方が理解が進みます。バックロードとTLsほぼ同じもの、はホント?

今回の特性シミュレーターは全面的にSpicyTLを利用しています。Martin-J-King博士のスプレッドシートなき後、唯一無二の優秀なシミュレーターと言えるでしょう、ありがとう、SpicyTL。

Backloaded Horn D-58ES

↑ バックロードホーンの模擬です。ドライバーはFE-208SS, 箱はD-58ESの数値をインプットしました。

Tapeered Transmission Line (with no fill)

↑ こちらはテーパード・トランスミッションライン。吸音処理は一切していません。つまり、条件がBHと同じ。

それでは早速、両者の周波数振幅特性や位相特性を並べて見比べましょう。ショッキングですよ。
 

Backloaded Horn
Tapered Transmission Line

あれあれ〜?
なんだかグラフが似たようなカタチをしていませんか? バックロードの方が低域が下降気味になっていて、TLsの方が低域が豊か。でも、そこを除けばかなり似ている、特に周波数振幅特性(f特)がノコギリ形状になっているあたり。
これ、当然なんですよ。だって同族ですもん。両者ともパイプ共鳴が強烈に特性を支配した結果が出ています。
インピーダンス曲線にパイプ共振の1次、2次、3次・・・と高調波の共振峰がいくつも現れるところも同様です。

屁理屈の納得感以上に、その物理特性が両者の類似性を証明してみせた形です。

なんでf特がノコギリのような形になるの?

バックロードホーンの特性で最も特徴的なのは、上図のようにf特がノコギリ形状となり、派手なピークとディップを繰り返す点です。それも、低域だけでなく中域や下手をすると中高域まで侵食して凸凹になります。

その理由はカンタン。ドライバ背面のホーンから出力された音波はロードなりに位相が回転しており、それがドライバ前面の音と干渉して凸凹を形成するのです。管共鳴ですから、強調される周波数、強調されない周波数が決まっています。それと、同相か逆相かが絡み合ってピークとディップを形成します。

  • 前面音と正相になる帯域では: 音圧がかなり上がってピークになり
  • 前面音と逆相になる帯域では: 大きなディップができます

管共鳴で強化された背面の音圧は強烈で、中域・高域でもハイレベルで染み出してきています。それがドライバー全面と干渉する。これがノコギリ形状の正体です。吸音材を入れないTLsも同様の結果になっています。

以下、海外のビルダーが録ってくれたバックロードホーンの実測特性です。なかなか傾向をよく捉えていると思いました。

バックローデッドホーンはなぜ超高能率か?

前述の背面干渉による凸凹と理由は同じです。中域で95dB/1mであるはずのドライバーが、なぜBHだと100dB近い能率となるのか?それは背面の共鳴音で「補強」されるから。同相ピークの周波数では能率が猛烈に高くなるのです。
ところが、このホーン干渉は高域に行くに従ってゼロに近づいていきます。バックロードにハイ上がりのドライバーが好まれるのもこのためです。高域は能率が上がらず、中低域だけ補強されてしまうから、ハイ上がりのドライバーでないとバランシングしなくなるのです。

ロードホーンの位相特性は良いの?

バックローデッドホーンは、概してフルレンジが使われているので→位相特性が良いと勘違いされがちですが、シミュレーションだけでも劣化は明らかになってしまいます。線形近似領域においては、周波数振幅特性と位相特性は相関関係があります。従って、暴れている振幅特性で位相特性「だけが良い」というのはあり得ないと言えます。
下のグラフで点線で群遅延特性を示しましたのでご参考までに。

大型高級バックロードの群遅延特性(緑点線)です。

感覚的に言うと、10m遠くで聴こえたり/逆に4m近くで聴こえたりを帯域別に激しく繰り返している感じでしょうか。これを見て位相特性が良いと表現する人は居ません。

同・位相特性。
これは低域/中低域のグラフですが、一方、中高域も分割振動帯域では大きく位相が乱れます。

 ※ヒトは位相特性を聴き分けできるとは言っていません、ただの物理特性のお話です、念の為。
  

第三章:スタッフト・トランスミッションラインの正体

所謂トランスミッションラインスピーカー、内部にスタッフィングを施したTLsの狙いや技術の核心に触れたいと思います。

 おさらい

  • 吸音材の無いBHとテーパードTLsは、特性の特徴に大差が出ない。
  • どちらも気柱共鳴のクセがそのまま出た特徴になる。
  • しかしBHはストレートチューブよりも高い周波数から低域が下降ぎみの傾向になる。
  • BHの中低域の飛び抜けた高能率とf特の暴れは、前面+後面の干渉に拠るものだった。

BHの低域が早めに落ちてしまうのは、管が末広がりであることや、マグネットが巨大で極端にQtsの低いドライバーを用いていることと関係があります。もう少しQtsが高めで・制動力を弱めたドライバを用いれば、相対的に低域の落ちも抑えられ、低域をフラットにすることは可能です。ただ、それは「ホーンが効いているから」ではありません。ドライバの制動が低くなったことに相対して、「共鳴管の共振がより強く出るようになった」というのが正しい表現です。

また、たびたび説明してきたように、気柱の共鳴(笛)というのは強烈な支配力を持つものです。少々マグネットが大きく過制動のドライバを使ったところで、BH(TLs)の強烈な気柱共振を完全制動できることはありません。それがだらしのないインピーダンス曲線、乱れまくった周波数応答に現れています。

 スタッフィング有無による分類

これまでは音道の形状の違いによるタイプで差異を見てきましたが、今度は吸音処理による違いを見ていきましょう。

これからいよいよ、スタッフィングを施したトランスミッションラインの狙いについて切り込んでいきますが、まずはその前に、スタッフィングをした際の挙動、特性の違いを見ておきましょう。

フォーム、ウール、フェルト、綿などの詰め物をすることを(E)「スタッフィング」と云います。

https://www.alare-labs.com/enclosures/ (←超高級TLs)

なぜ、AlareやPMCをはじめとする市販ラウドスピーカーブランドは音道にスタッフィングを施すのでしょうか?
理由は、スタッフ有無の特性差を見比べることで明らかになります。
 
まずは、吸音処理ナシから。

前稿でご覧いただいた通り、特性は凸凹です。

つづいて同じモノに、適切な質と量の吸音処理をしたもの。

いかがでしょう。
度肝を抜く変化量だと思いません?

バックロードとテーパー菅の特性変化量の比ではないですね。ここまで来ると「全くの別物」。
バックロードかテーパーチューブかの形状違いよりも、吸音材の有無による特性差のほうが顕著なのです。

驚くほどワイドでフラット。特に、ピンクのインピーダンス曲線に着目ください。山がほとんど潰されて、十分な制動が掛かったことが分かります。

どんなに馬鹿でかいマグネットを使った強烈なドライバーをもってしても、全く制動することが出来なかった猛烈な菅共鳴が、完全になりを潜めています。ここで見られた劇的特性変化こそが、まさに市販製品やDIYヤーのスタッフト・トランスミッションラインの狙う所なのです。
また、私はBHとTLsを「同じもの」と説明していますが、両者の明快な分水嶺は「スタッフィングの有無」と言って良さそうです。

では次に、何が何してそうなるの? その理屈と狙いについて、模式図を交えながら説明してみたいと思います。

 スタッフト・TLsのロジックと狙い

以下で出現する一部の模式図は私が説明用に描き起こしたものなので、科学的に必ずしも厳密ではありません。予めご承知おきください。

まず初めに、あるドライバーを密閉型システムに収めた系があるとお考えください。

(左側はPhysical、右側は音圧/インピーダンスのグラフです)

一般に、直接放射動電型のラウドスピーカーはFsの速度共振を頼りに、加速度比例の音圧を得る系のため、速度共振が極大となるFsを境に、それより下の周波数は再生できない。ということが知られています。低域を欲張って系のFsを下げようと大きな箱に入れると今度は系のQ (Qtc)が極端に下がり、高い周波数から音圧低下が始まって、結局は低域の十分な音圧が得られないことも知られています。つまり密閉型 (二次系)はFsとQによって決まる再生限界があります。

この再生限界を打開するための手っ取り早い手法として、もうひとつ極を増やして四次系にしちゃえという手があります。そう、Ported(バスレフ型)です。しかし、Portedには群遅延特性が劣化し、ポート歪が乗るという弱点があります。

システムの低域を伸ばしたい。Ported以外でもなんとかならんものか。そこでトランスミッションライン型が登場します。

上図と全く同じドライバを、今度は箱ではなく、片端開放のパイプ構造に収めてみました。
すると、パイプ共鳴の基本波を初めとして、二次、三次、四次・・・などの強いパイプ共振が発生し、それがインピーダンスの共振峰としても現れています。
振幅特性(←音圧周波数特性)も、その共振ならびに前面背面の位相干渉により、大きな凸凹が現れます。

また、最小位相系において振幅と位相は相関関係にあります。振幅がこんな風になっているということは、位相特性もボロボロです。ラップした位相特性は見づらいので、試しに群遅延特性をとってみました。

緑の点線が群遅延ですが、おぞましい量です。
この状況はフルレンジ・バックローデッドホーンでも同じです。

管に収まったシステムは、このように凄まじく強い共振の現象を持ちます。

ところで? もともと在ったはずの、ドライバーのFsは何処へ行ってしまったのでしょうか?
そうなんです、ドライバーのFsは「どこかへ行ってしまう」のです

もちろん、これらの菅共鳴はドライバーのFsが励起したものではあるのです。しかし、菅共鳴の力は余りにも強大で、支配力が強いため、Fsの共振は支配力を失います。菅共鳴は大竜巻で、ドライバーはそのなかでキリキリ舞いする重いクルマや人です。信じられないかもしれませんが、ドライバーの振動板はこのとき自由に動くことは許されません。菅の強い共鳴に揺すられて、キリキリ舞いする木の葉のごとし。です。

繰り返しますが、その状況はバックロードでも変わりません。どんなに強力なマグネットのドライバを持ってこようが一切の制動力を失って管共鳴が支配的になります。

ドライバーのFsやQが持っていた共振系は励起だけに使われ、パイプを使った新しい共振系に「再定義された」という見方もできます。それこそがまさに、トランスミッションラインの狙いなんです。

ただ、このままだとf特がドタバタと暴れていて、使えませんよね。
前図のように、群遅延も大きいです。なにより、高いQを持った共鳴で音質はクセが強く、Hi-Fiにはなりません。
そこで、スタッフィングの登場です。パイプの中に、適切な密度、周波数特性、量の吸音性素材を設置し、パイプの速度共振にブレーキを掛けます。=負荷=制動

すると、パイプ共振でいくつもあった共振は制動され、周波数応答も平坦に近づきます。なにより密閉箱を使っていた図よりも、低域の下限をぐーんと伸長することに成功しています。
インピーダンスカーブや音圧を見る限り、まるで違うドライバーで作った新しい密閉箱のような特性に生まれ変わっています。

このとき、群遅延特性も大幅に改善されているんです。改善後の群遅延(緑点線):

40Hz未満では、やっぱり増えちゃいますけど、それより上の帯域では天地の違い。この量ならばPorted型よりも優れています。

以上が、トランスミッションラインにスタッフィングを施したときの挙動と狙いです。
まとめると、こんな狙いが有ったということなんですね:

  1. ドライバーは低域再生の下限がFsに左右され、物理的な限界がある(無理に下げると音質も劣化)
  2. そこで、パイプに取り付けてもっと低い周波数の、より強烈な共振の系を創る
  3. そのままでは強すぎる共振と干渉で劣悪特性なので、スタッフィングで制動して均す
  4. ついでに群遅延特性も改善しつつ低域を伸ばす

少し難しかったでしょうか、つまり敢えて支配力の強い共鳴を作り、作ったうえでそれを潰す、というのがスタッフト・トランスミッションラインの精髄になります。ドライバのFsはそのままに、群遅延を劣化させることなく低域の伸長に成功している。

もっと簡潔にまとめると?:

  •  あえて強いパイプ共振を作り
  •  それを制動して線形特性へ近づける

 
つづく最終章では

  • TLsの弱点や限界の考察
  • 「共振は悪なのか?」という話題
  • バックロードでドライバ変えたり吸音材入れたり

を考察します。

第四章:ダンプトBHと加飾の話

ダンプトBHとは:吸音材を大量に突っ込んだBHのことです(笑)日本のバックローダーが絶対にやらないこと。

本章ではバックローデッドホーンへのスタッフィングの影響と、共振とオーディオの関係性について、鋭く(もしかしたら一部の方には少々不快な)切り込みをしていきたいと思います。日本にはトランスミッションラインについて正しく語られた記事が(皆無ではないが)ほとんど無かったことが、寄稿の動機になっています。

 おさらい

  • テーパードTLsと、バックローデッドホーンは実は仲間、音響特性に大差がない。
  • BHはホーンではなく、気柱共鳴による共振と位相干渉を頼りに音圧レベルを上昇させ、暴れさせている。
  • 強大な磁気回路ですら共振を制動できないが、スタッフィング材(ダンプ材)は容易に共鳴を制動できる。

原理動作として、また、物理特性としても、先細りのTLsと末広がりのバックロードホーンは大差がないことが判ってきました。テーパードTLsに吸音処理をする、いわゆるスタッフトTLs(ダンプトTLs)は物理特性に寄与することが判明したのですが、末広がり管であるバックロードホーンに対して吸音材を投入することはどうなのでしょうか? 今回はソコ集中的に見ていきます。

日本におけるBHに対する「吸音材の大量投入」は半ば禁じ手とされているように見えます。まして、その音道を9割方塞いでしまうような吸音処理は、ナンセンスと考えられているのではないでしょうか。しかし、過去の「ジョーシキ」は「焦げた肉を食えば癌になる」と同じで誤りが多く、常に疑って掛かるべきです。それはしばし洗脳であったり刷り込みであることも多々あります。

バックロードに吸音材を入れるような行為はしばし、「音が死ぬ」で代表される文学的な表現で語られます。これを物理的な表現に転換すると、「共振が制動されてピークが低くなった」とか、「後面の音圧/位相干渉が減った」とか、「見かけ上の能率が下がった」となります。

では、次項より有名な大型バックローデッドホーン:D-58ESに吸音材を詰めて、挙動の変化をシミュレーションしてみます。(あくまで、これはシミュレーションですからね。)

 スタッフィングの有無による特性差

モデル、(B)(C)はかなりの量のダンプ材を詰めています。特に、初段の空気室と最初の頃の音道にはかなりの密度のスタッフィングを導入しました。

まずは、吸音材を設置していない素のバックローデッドホーン(A)の特性から見ておきましょう。

SpicyTLのセットアップはD-58ESの音道設計を正確にINPUTしています。ドライバパラメータも同様です。
グリーンが総合特性、グレーはホーン開口部からの音圧です。

開口部からの中域レベルは強烈で、ドライバ前面の音圧とホーン開口部の音圧干渉で、能率は極めて高くなり、特性は位相干渉によって凸凹が大きくなります。ブルーラインでだいたいのピーク音圧レベルを示しています。この能率を覚えておいてください。

ちなみに、ここで見られる特徴的な特性は、少々の吸音材を空気室やスロートに導入したからといってほとんど変化が見られません。
 

さて次に(スタッフトTLsよろしく)、かなり多めにスタッフィングを実施し音響制動を掛けたBH (B) を見ていただきます。

グリーンが総合特性。グレーがホーン開口部からの音圧を示しています。かなり変わりましたね。特徴を列挙していきます。

まず、中高域の凸凹がかなり減ってフラットになったことに着目してください。これは、ダンピング材によって中高域が吸音され、開口部から染み出してこなくなったことにより、音圧干渉/位相干渉が無くなったためです。

次に着目してほしいのは能率の低下。スタッフィングを施していないBHでは102dBもあったものが、94dBまで低下しています。使用ドライバーはFE-208EΣ FE-208SS-HPのパラメータを入れました。

このことが意味しているのは?: バックロードの飛び抜けた能率の高さは、ドライバー単体での能力ではなくて、ドライバー前面と背面の音圧が重合されることが理由です。前面と背面が正相合成される周波数では極端に能率が高くなり、逆に逆相で合成される周波数では能率が低くなります。

スタッフィングをしていないバックロードで、f特が凸凹していることも同じ理由です。ドライバー背面から共鳴管を通ってやってくる音は位相が大きく回るのでドライバ前面の音とは位相が揃わず、このような結果になります。

極端に高い音圧レベルや凸凹は、前/後面の干渉によることが判りました。

一方で、低域では未だ凸凹が残っています。これは、今回セットアップした吸音材の量では量が足りず、中低域がホーン開口から染み出しているためです。ただ、全く吸音処理をしていないモデルに比べると、かなり平坦な特性にはなっていると思われます。

中域の干渉音圧レベルが下がったことで、全体の能率が低下し、結果論として相対的に低域の音圧が上がったように見えています。これって皮肉じゃありませんか?多くの方は、「ホーンによって低域が増幅されて豊かな低音が出る」と想像しているのです。しかし現実は、そのホーンを塞いでしまった方が、相対的に豊かな低音感が得られるというわけです。

 バックロードに対するスタッフィングの影響まとめ

(A)
(B)

上記、A) B)の違いと影響度をまとめると、以下のとおりです。
スタッフィングによって気柱共鳴のダンプをすることで:

a) バックロードホーン(管)の共振は制動される方向性になる

b) 中高域の漏れが減るので音圧/位相干渉の現象により凸凹が減る

c) 中高域の漏れが減るので音圧/位相干渉の現象により見かけ上の能率が下がる

d) 中高域の能率上昇がなくなるので、相対的に低域が豊かに見える

e) 位相特性/群遅延特性は概して改善方向となる

ここで特に、bとcには着目すべきです。
ここで「音が死ぬ」という文学的な表現に戻ると、まず能率が下がったのにボリュームを上げなければ、生気が失われたと感じるのは当然です。「吸音材を投入したくらいで能率は変わらない」というアンコンシャス・バイアスと、「私はいつもこれくらい」という慣習的なボリューム位置で鑑賞すれば「音が死ぬ」という感想は当然といえるでしょう。計測で平均聴取レベルを確かめながら、+8dBボリュームを上げて聞いた時の感想は、果たしてどうなったでしょうか。私の知る限りでそうした科学的な検証をしている原稿を一度も見たことがありません。

また、スタッフィングの導入はb)で共振を抑制し、凸凹を平らに均す効果があります。これもヒトの「嗜好」に限定すれば良好に働くとは限りません。大凡、楽器や声を始めとして大きな音を発するものは「共振共鳴」が常態です。この、収録段階で失われてしまったかもしれない楽音が本来盛っていた”共振の鋭さ”を二次加工によって誇張/加飾した方が「生っぽい」「より原音に近い」という主観を抱く方が多くても、全く不思議ではありません。

以上、さらにさらに大雑把なまとめに掛かると:

f) 吸音材は、バックロード最大の特徴である超高能率を削減する方向になる

g) 吸音材は、バックロードの特徴である共振による誇張表現を削減する方向になる(特に中域で。)

 ドライバーを弱くしてみる(C)

今度は (B)と(C)を比べてみます。
すなわち、(B)は強力過ぎるので、少しだけ磁気回路を弱くしたドライバーに替えてみます。
日本ではバックロードはモーターシステムが出来るだけ強力で過制動であればあるほど良いとされているようですが、これが弱くなるとどうなってしまうのでしょう??

(B)磁気回路強い

(C)磁気回路少しだけ弱め

う~ん、分かりやすいですね。

まず、当たり前ですが能率は下がります。インピーダンスカーヴからも解るとおり、共振(管共鳴)は一層制動されます。ヘンじゃありませんか?モーターシステムが強力な方は制動できなくて、磁気の弱い方は制動されるなんて。変じゃ無いんですね、そうなります。もうひとつの大きな特徴としては低域と中域の音圧差がほぼ無くなります。

以上。ドライバーの電磁制動力を最適化(少し弱く)すると:

h) (B)より能率はさらに低下する

i) 管共鳴はより大きく制動される

j) 低域の音圧レベルが上って低音不足が無くなる(ワイドレンジになる)

 吸音材って最高?

記事を読み返すと、私はまるでスタッフィング/ダンピングマテリアルを礼賛しているかのように見えます。

私は過去に超大型も含む3種のバックローデッドホーンを制作しましたが、いずれも自分の好みからはかけ離れていたので、離脱してしまいました(これは嗜好の話です)。一方で、TLsは過去に4種ほどのモデルを制作して今もひとつ計画中だったりしますが、一度も成功した試しがありません。全部、はっきり言って失敗作でした。

理由として、私があまりマジメにTLsに取り組んでいないというのが在ると思います。TLsの大きな目的のひとつに、低域下限を1オクターブ以上伸長する。というのが在ると思うのですが、それがズバリ成功したことは無いです。あまりマジメにシミュレーションをしてこなかったというのもありますし、伸びなければ伸びなかったでいいやという諦め、いい加減さがありました。代表作として、今使っているテレビ用の左右スピーカーがトランスミッションラインだったりしますが、設計からしてメチャクチャいい加減です。

あまりマジメに取り組まない理由として、私がダンピング・マテリアルの線形性に疑念を抱いているからというのがあります。だって、綿とか布とかスポンジとかフェルトですよ?んなもん、線形近似できるわけ無いじゃないですか(非線形の特性を示すってことです)。

だから、シミュレーターは動かすし、ダンピング剤の面積体積を測ったり重さも測るんですが、それでシミュレーションずばりで動いた試しが無いです。つまり、どうしたって実装+計測しながらの調整作業が必要になるんです。そして、その調整が巧く行かなければ「詰んだ」となります。ドライバもエンクロージャーもXoverも読み切れるんだけれども、吸音材だけは読めないと。それに尽きますね。

TLsは上級者向きかな。ということはBHも。

 ヒト聴覚は測定機ではない / 主観評価

残念ながら、ヒト聴覚は悲しくなるくらいに性能が悪い。
物理特性の検知限界は低く再現性も極めて悪い。
なので、あたかも物理特性を識別できているかのような感想は痛々しいのでやめた方が良いです。往々にしてそれは、事実ではなく、官能的な主観評価だけで、あたかもそうだと想像しているだけであったりします。

物理特性を計測して位相特性が良いと言う。

これは良いでしょう、事実ですから。

耳で効く限り、位相が揃っているかのように感じた。

これも良いんじゃないでしょうか、単なる主観と感想ですから。

私が聴くかぎり、位相特性が素晴らしい。

これはいただけません。何より、だいたいハズレです。もし自身の感想を物理特性にも転嫁して語りたいのなら、それは正確な計測とセットで照合/検証していなければ説得力がありません。そのPDCAを繰り返していくと、特性と聴覚の嵌合もある程度のトレーニングが可能だと、最近感じ始めています。

例えば、バックローデッドホーンはフルレンジだからネットワークが無く、音源位置が一致しているからコヒレントで、だから位相特性は最高という思い込み/洗脳/固定観念で捉えられている方は非常に多い。それは思い込みによる位相特性でしかなく事実とは異なります。スタッフィングしていないバックロードのように「測ってみるまでもなく位相特性が劣悪」なものに対して、位相特性が良いと嘯くのはどうなんでしょうということで提起してみました。

Hi-Fiとは、できるだけ加工や歪曲をせず原信号を忠実に再現するもの という認識です。
そういう意味では「バックロードこそHi-Fi」という長岡翁の主張には異論を唱えたいと思います。ただ、Hi-Fiってそんなにイイものなの?・・・というと、そこは違うかも知れない。私も一時期はバックローダーの端くれでした。ですから原信号に忠実ではないがある種の加飾や演出を伴う再生音の方が「生々しい」「原音に近い」と感じるファンが非常に多いのは納得できる部分があります。それは物理特性のディメンジョンではなくヒト聴覚特性や趣味嗜好の領域だからです。

録音段階で、すでに「生々しい」と感じるための生の信号は失われてしまってる。だったら後から足してしまえば良い。そういう視点に立つならば、”加飾や演出で失われた生々しさを補った方が生っぽく聴こえる”し私は好き。それは不思議じゃない。それは往々にして極端な演出であったり高調波歪の追加であったりします。真空管アンプにもその傾向はあるかも知れません。
また、私がメインストリームで徹底的に加飾を廃したスタンスを取るのは、過日にバックロードを使っていた反動があるのかもです。
 
 

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KeroYon

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