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日本では「エイジング」という記述をよく見かけますが、そちらは誤りです。エイジングは「老化」「劣化」を表す単語なので、海外ではまず使われません。

「慣らし」を意図したいのであれば、Break-in または Burn-in という表現を使います。

さて、ネットを漁ってみると、ウーファーのブレイクインの効果を定量的に扱った記事がとても少ないと感じます。とても重要なことなのに。日本はもちろんのこと、海外でもほんの数えるほどで、情報量も不足。そこで、厳格に測定して結果を記事で残しておくことにしました。

第一部: 実験のスキームと実験開始

ウーファーやフルレンジなど、低域を扱うドライバーにとって、初期ブレイクインはとても重要な工程です。これは自作スピーカーではもちろんのこと、市販スピーカーシステムでも有効です。

なぜブレイクインが重要なのか?

ラウドスピーカー, スピーカーシステムの多くは、最終的な係数(パラメーター)が落ち着いた状態を前提として、エンクロージャーが設計されています。うるさい事を言えばクロスオーバーネットワークも同様です。しかしながら使い始めは、特に低域において本来あるべき所定の係数に落ち着いていません。このため、初期はエンクロージャーとの設計不整合が生じており、本来の性能が出るにはブレイクインの完了を待たねばなりません。

想定数値の出ない原因の多くが、ウーファーやフルレンジの機械的抵抗、その機械的抵抗によるQmsとFsの上昇です。

自作画像

初期に性能の出ない原因の多くが、図中のサラウンドとスパイダーに集中しています。この2箇所と振動系質量でQmsを形成しているのですが、解りやすく言うと、慣らしをしていないこの2箇所が生硬で、所定の性能が得られないのです。
そこで、特定の手法を使ってサラウンドとスパイダーを強制的に伸縮することで、ブレイクインを加速させます。

適切な手法のブレイクインを施すことで、最初の数時間だけでFs、Qtsは劇的に変動します。すると、その状態を前提としたエンクロージャーとの設計整合ができ、音質も本来あるべきすがた(設計者の意図した音)へと変貌します。

具体的に言うとまず、ウーファーの能率は若干下がります(驚)。これはFs、Qtsが低下しますので論理的に当然です。ダイナミック型ラウドスピーカーはQを左端下端として加速度比例しますので、能率が下がってしまうわけです。次に、ややボン付いていた低域は落ち着き、ローエンド方向へ伸びが出てきます。ゆったり傾向の音へ変化してゆくはずです。逆に、ブレイクイン前に”豊かな低域だな”と喜んでいた場合、ブレイクインが進むと少し低域が寂しくなったという感想を持たれるかもしれません。

このように、ほとんどのドライバー/ラウドスピーカーシステムは、初期には想定性能を出せない状態でファクトリーアウトされてきます。稀には、最初から最高の音で聴いていただくために、ファクトリーで数時間のブレイクインを経て出荷されるモデルもあるようです。

スピーカーマニュファクチャラーの多くは積極的ブレイクインを推奨しています。例えばこれはクリプシュさんですが:

http://href=”https://www.klipsch.com/blog/how-to-break-in-a-speaker

ドライバーによっては、いっくらブレイクインを連続しても、値がまるで公称スペックへ近づかず、エンクロージャーの設計が詰んでしまう・・・なんて悲惨な事故もあり得ます。だから、自作派はできれば設計する前にブレイクインを済ませてから作るのがBESTです。

ゆっくりしたエイジング(劣化)ではダメなのか?

ダメ、ということは全くありません。
高価なスピーカーシステムを何年も掛けて、エイジング=劣化していくさまを楽しむ過程も、趣味としてとても楽しい行為と思います。しかし、劣化の前に少しでもいち早く所定の性能に達しさせ、最高性能で長く楽しめるようにするためには、劣化前の初期ブレイクインが重要となってきます。つまり、準備期間をスキップしいち早く蜜月の期間を迎えるのがブレイクインという行為になります。劣化が進んで初期性能を維持できない頃になって、今更ブレイクインが完了しても意味がない、ということですね。

単純に音楽鑑賞で音楽信号を鳴らしているだけでは、ブレイクインに効果的な信号との出会いは、1/1000の確率かもしれません。また、仮にそのような信号が混入している音楽であっても、小音量の音楽鑑賞では寿命末期までブレイクインが完了しないケースがあるかもしれません。簡単にいうと、音楽信号では連続印加時間が足りなさすぎるのです。

大音量ではない普通の音楽鑑賞でブレイクインを行った場合、値が収斂し完了するのは最低半年以上先かもしれません。

ブレイクインの方法

本稿では、主にウーファー(/フルレンジ)の低域ブレイクインの手法について説明します。

ブレイクインを記事にしようとして、なにか手持ちのなかで良い題材はないかなぁ?と探してみました。どれも使った履歴のあるドライバーばかりで、役に立ちません。しかし、1個だけ見つけました。W3-2108。

こちら、UltimateMicroSubでも登場したウーファーで、予備に買っておいた1本です。まだ一度も導通していませんので、初期ブレイクインの効果を記録するのに好適です。今回は、3時間毎のブレイクイン結果を全部記録していって、その効果を定量的に残してゆきたいと考えます。

ブレイクインには、5Hzの矩形波などを用います。矩形波には高域成分も混ざっているので全域のブレイクインには好都合というわけです。しかしドライバーの耐性によっては、ドライバーを痛めてしまうかもしれません。たとえば、セラミックやボロンに過度な矩形波を投入するとダイアフラムが割れる危険性だってあります。より安全なメソッドとしては、サイン波ならびにサイン波スイープなどが好適となります。

一方、ウーファーのFsやQtsを下げるブレイクインには、低周波単一周波数のサイン波が適しています。高域が必要ないからです。例えば、10Hzや20HzでXmaxの定格振幅まで振るブレイクインを、24時間に渡って連続実施するわけです。例えばXmaxが±7mmのドライバーなのであれば、その振幅幅まで近づけます。15インチ(38cm)などの丈夫なウーファーなら、Xmaxのフルまで振っても構わないと思いますが、小口径では少し不安もありますよね。

今回は20Hzのサイン波を20分間ぶん作り、それをエンドレス再生します。3.5インチのウーファーなので、Xmaxのほぼ半分。3.5mm程度の振幅を目指して音量調整を行いました。

ブレイクインしている振幅の様子を動画でも録ってみましたので、そちらもご覧ください。

高域に対してもブレイクインは効くの?

【注】中・高域ドライバーに低周波ブレイクインは絶対にやめてください!一瞬にして破壊されます。

ミッドレンジやトゥイーターに対しても、ブレイクインは有効です。ただし、その変化はとても緩やかで、ウーファのような劇的な初期変化はありません。それは元々ミッドレンジやトゥイーターのサラウンドはスティッフが大きめであり、大きく変動したりしないということ、またそのドライバーの低域下限を使わないように設計するのが常識的だからです。

一方、ダイアフラムに対してのブレイクイン効能も大きくありません。特に、アルミやセラミック、チタンをはじめとするメタル系ダイアフラムはブレイクインによる高域特性変化があまり見込めず、大きな変動があったとすればおそらくそれは、酸化や腐食を始めとする物性的な劣化が起きている場合です。

ペーパーコーンに対しては、「紙の繊維が振動でほぐされて・・・」みたいな期待をされると思いますが、現実には1年経ってもフルレンジの中~高域の形状には大きな変化が起きません。(低域はもちろん大きく変わりますが)エイジングが進んだという感想を持たれるのであればそれは多くの場合低域の変化を感じ取っていることと、またはその音質に慣れてしまうことによる感応的な効果だと思います。

そういう事情で、ミッドレンジとトゥイーターはクロスオーバーネットワークを介し普通に音楽再生してブレイクインが進めばそれでOKという判断になります。もしそこも早くブレイクインを進めたいということであれば、20~20kHzのロングサインスイープを作り、それを大きな音量でエンドレスで流しておくという手法になります。そちらはかなりウルサイですね。

多くのベンダー・マニュファクチャラーがブレイクインを推奨していますので、無理のない音量でも、一度お試しください。

記録の詳細

まずは、ブレイクインを開始する直前。通電したてのドライバーのT/Sパラメーターを計測しておきます。
主に変化点を注目するのは、 Fs, Qts, Vasになります。

それを約3時間おきに再計測し、変化をプロットしてゆきます。

下図は、0時間、3時間、6時間経過後のT/Sの変化です。

理論どおり、Fs、Qtsは徐々に低下。逆にVasは上昇傾向にあります。
Fs Qtsは測定毎に微妙に実測値が変動してしまうので、10回くらい録って平均化しないと有意なデータにはならないかもと感じ始めています。

引き続き、観察を続けます。積算24時間までは継続する予定です。
(第二部へ)
 


第二部 見えてくる変化点

測定をはさみながらの、24時間の耐久ブレイクインが終了しました。
それでは、結果発表したいと思いまーす。

まずは、インピーダンスカーブを重ねてプロットし、インピーダンスの変化を見ていきましょう。(スプシを使いました)

黄緑色から、ブルーにかけて、徐々に徐々に、Fs(共振中心周波数)が左へシフトしていることが分かりますね? … ってこれじゃぜんぜん判らないか~。

では、スケールを伸長すれば少し分かりますかね?

これでもまだ分かりづらいですね。だいたい、Q・・・というかインピーダンスの極大値が上下に結構フレているのが謎ですね。
つまり、それくらいFsやQtsは環境因によるアーティファクトが大きいって事なんですけど…。
でも、だんだん周波数が低い方へシフトしていってることだけはハッキリしてますね。

それでは、取得した数値を具体的に見ていきましょう。

大雑把に俯瞰すれば、

  Fs(ブルー) Qts(オレンジ)は下降傾向。

  Vas(グリーン)は上昇傾向。

ってことだけは間違いないです。
ですが途中で上下動の逆転現象がありますね。3時間毎に観測しているのですが、6h、9hのあたりが怪しい。(これはのちに原因がハッキリするのですが)

まとめると、ブレイクインによってFsとQtsは下降する。Vasは逆に上昇する。そして、24時間ほどブレイクインすると、値の変化が収斂する。測定誤差範囲ぐらいでしか変動しなくなり、だいたい似たような値に漸近します。

ただ、ちょっと困ったちゃんな現象があります。この現象は往々にしてあります。特にTangbandにはこの傾向が多いみたい。点線のラインが、それぞれの「公称スペック」を表しているんです。つまり、最終的なターゲットラインを示しています。どうでしょうか??
Fsは、まあいいでしょう。ターゲットの近くまで下降しているんだから。Vasも、まあいいでしょう。目標値は越えてるし、へたすると、ブレイクインを継続したら更に上がりそうな勢いです。

問題は、Qtsです。下がりきらないじゃないですか。

しかも、これ以上下がらないよという、ドン詰まり傾向が既に見えています。困るんだよね、FsやQtsは公称どおりに下がってくれないと。多くのスピーカービルダーは、この公称スペックのFs、Qts、Vasを頼りにエンクロージャー設計しているんです。これじゃあ狙った性能が出ないじゃないですか。だから、ここで最初の話に戻るんですけれども、ブレイクインして、実測してからスピーカー設計した方がいいんですよ。TangbandやDaytonの場合は特にね。。。

FsやQtsの公称値って、ビルダーにとってはお買い物ガイドのようなモノなんです。これを頼りにドライバーを購入している。設計は実測してからやればいいんだけれども、余りにも構想と数値が違うと、見当違いの買物ミスをしたことになります。たとえば、小型スピーカーが作りたかったのにやたら大型になっちゃったりね。

QtsやVasが大きめってことは、狙っていた箱よりも大きな箱が必要になってしまうんです。

私はこれが在るんで、Andromedaではかなり大きめの箱を作りました。5種のウーファーに1容積でオプティマイズは難しいことが判っていたので、大きめの箱にしておいて、PRsで調整範囲を広くとった設計にしたのです。PRsは調整がラクで、おまけに私は基本的にバスレフが全部嫌いだし。

途中の計測にちょっと不手際があって、失敗した回はあるのですが、それでも全体傾向としては変動のさまを克明にすることが出来ました。また、いくらブレイクインを長く/適切にやっても設計値に近づかないものは近づかない・・・というパターンが有るのだと、再確認ができました。

今回の測定実験で、新たな発見がありました。
それは、Fs、Qtsのブレイクイン直後の変動の大きさです。

途中、「もしや・・・」と思って仮説を立てつつ検証してみたら、ズバリでした。

これって何でしょう?
ブレイクインを数時間やって、その直後はFsやQtsが十分に低いんだけれども、そこから鳴らない放置時間が経過するごとに、FsやQtsはわずかながら、上昇の傾向があるのです。

何を意味しているのかっていうと・・・クルマには、暖機運転みたいな概念があるじゃないですか。オイルがあったまらないと、フリクションが大きいからいきなり廻しちゃいけないという。スピーカーにも全く同じ傾向があった・・・って事なんです。

音楽をバンバン鳴らして、信号を加えている間はFsやQtsは落ちきっている、つまり本来の性能を出せている。しかし、信号が途絶えている間にみるまにフリクションが増えて、性能低下を起こしてゆく・・・ みたいな現象が、数値の上でも明らかになったという事なんです。

ラウドスピーカーも温度特性をもっています。VCは過振動させて温度上昇すれば抵抗値が上がるし、紙のメンブレンは湿度の影響を著しく受けるし、ラバー製のサラウンドは温度の上昇とともに柔軟性を増します。そんな風に周辺環境で変動するものですから、それを読んで運用すべきだし、逆にあまり神経質になり過ぎても意味はないことになりますね。

経過測定中、上昇下降に矛盾が生じてしまったのにも、実は上記の「放置時間」が矛盾を生んだ理由でした。ブレイクイン直後に間髪与えず測定すると、間違いなく前よりは下がっているのです。

ところで改めて、ブレイクイン中のパワーアンプは、かなりホカホカになりますね。音楽再生とは比較になりません。最も電流電力を食らう低域に大入力を据えているし、しかも動的変動のない連続出力・・・そりゃ熱くなりますよ。

くれぐれも、真空管アンプなどでブレイクインはされないよう。耐性も自己責任にて。お願いします。ブレンクイン効果の音質へのインパクト、第三部へ続きます。



第三部 ブレイクイン効果の音質へのインパクト

あと少しだけ。お付き合いください。まとめです。

第二部までの実測値の分析をまとめると、次のことが判りました。

ブレイクインによって、

  • Fsは低下する。
  • Qtsは低下する。
  • Vasは上昇する。
  • 長時間やると値が一定値に収斂してほとんど変化がなくなる。
  • 長時間やってもT/Sパラメータが公称スペック(目標値)に達しない場合がある。
  • T/Sパラメータは温度湿度の環境影響を受ける。
  • 発音中はFs,Qtsはやや下降。発音を停めるとFs,Qtsは若干上昇してしまう。

係数が変動することは判りました。が

一方で、多くの方が一番興味あるであろう、ブレイクインによって音はどう変わるのでしょうか?
そこを見てみます。

紺の点線が、ブレイクイン前。

グリーン実線が、ブレイクイン後。です。
 

今回実測したW3-2108のバスレフエンクロージャーを設計し、ブレイクイン前とブレイクイン24時間後の周波数特性を比較してみました。同じ箱に入れた時、紺色の特性は、グリーンの特性へと変化してゆきます。
けっこうな違いですよね~。

見た目にf特がこれだけ変化すると、音質も大きく変動します。「世に言われているとおり」ですね。ブレイクインすると、低域は下の方まで伸びるし、クセもなくなるんですね。(稀にその逆もありですが!)

  紺のF3は40.6Hzです。

  グリーンのF3は30.1Hzです。

低域限界が、たった24時間で10Hzも違うのです。超低域での10Hzの差はでかいですよ。。。

ろくすっぽブレイクインも実施していないのに、そのスピーカーシステムに「ダメ出し」するのは論外。またブレイクインをしないのであれば、半年も待たずにスピーカーシステムに見切りをつけるのも早計です。

私個人は、この紺色の特性のまんまで「半年ガマンしろ」というのは生理的に無理ですね。辛抱たまらんです。

結論:

  • ブレイクインによって低域再生限界は低くなる
  • ブレイクイン不足による不自然な低域ピークや癖は減少される

ブレイクインの重要性、必然性、ほんの少しは伝わったでしょうか? 以上です。

 

<余談>

今回は、裸のドライバーに対して20Hzサイン波を印加するブレイクインでしたから、音は聴こえません。目で見ないと振動していることが判らないレベルです。(つまり、静かです)

これをもし、キャビネット入で20Hzまで平坦再生できるXbassでやったのなら、年中家鳴振動で、嫁に空手チョップされ昇天するか、あるいは自律神経失調症で逝ったことでしょう。
中高域までブレイクインするサインスイープも同様。爆音でやったなら、迷惑間違いなしです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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投稿者

KeroYon

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