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最初に結論から。

  • バスレフ型の低音はとても遅れている。
  • ダブルバスレフ型の低音はさらに凄まじく遅れている。

今日は低域の群遅延特性について書いてみたいと思います。


バスレフ型、海外風に言うと Ported 型は、例外なく低域が遅れます。
ラウドスピーカーの低域端の線形近似モデルはハイパスフィルターに該当します。(T/Sパラメータもそこから来ています)バスレフ型のそれは低域端が4次フィルターに該当し、Double Tuned Bassreflex (日本でいうダブルバスレフ)では6次の線形モデルで近似できます。そして、このフィルタ次数の高さこそが大きな群遅延を生む源泉になっているわけです。

ここで出てくるお話は、
いや!家のスピーカーは低域が遅れているようには聴こえない!」というような聴感的・情緒的なお話ではなく。原理的・物理的に不可避な特性の話になります。
またこれは、ポート形状に工夫をしているから/ポートがマルチポートだから/ポートが高剛性だから/リアポートだから等々の実装工夫とまるで関係なく発生してしまう弱点です。

群遅延を乱暴に表現すると、

   位相特性を周波数で微分したもの

になります。

位相特性はいくら回転しても良いのです。位相直線でありさえすればいい、なぜなら位相直線ならさまざまな周波数で遅延時間一定となるからです。どの周波数でも遅延時間が一定であれば、違和感は感じません。でも、低域だけが遅延が大きい・・中域のある帯域だけ遅延が大きい・・・など、遅れ方に違いが生じると、ヒトの検知限界にひっかかり、違和感が生じてゆきます。

そこで登場するのが群遅延という評価軸です。
群遅延特性の単位は時間 (単位msec)で示され、各周波数でどのような遅延時間を持っているかの客観的指標になります。
なぜ”群” ”GroupDelay”なのか?バッファローの群れが、統率のとれた等速で北へ移動している。しかしそのうちの何頭かは遅れが出てしまった。その牛は、群れに相対してどのくらい遅れたのだろう。群れとの相対を見るから群遅延と呼ぶのでしょうね。

ちょっと解りにくいと思いますので具体例を見てゆきましょう。
下図は、41Hzくらいまで再生できるPorted(ポートを持つバスレフ型)の群遅延特性を示したものです。

200Hzでは(相対的な)遅延時間がゼロですね。でも、100Hz… 50Hz… と周波数が下がるにつれ遅延時間が増え。30Hz付近で極大になっています。
このPortedの群遅延は、設計次第で若干上下動します。でも、大筋このような大きな遅延になります。
ちなみに上図の肩特性はSC4(チェビシェフの四次)と呼ばれる係数で、特殊なアライメントではありません。厄介なことに、低域特性を欲張るほど群遅延は劣化する傾向があるようです。

このバスレフの群遅延は11.6msec. そう言われてもピンと来ませんよね?
もう少し解りやすく言うとこのバスレフは常温で、4mの音道長を持つバックロードホーンと同じくらい低音が遅れます。長岡翁が全盛期に設計していたバックロードホーンの音道長がたしか2m~3m付近でしたので、それよりも低音が遅れてやってくることになりますね。(まあバックロードの場合は全く別の課題がありますが。)
残念ですが、アライメントがQB3だろうがSBB4だろうが、この遅延時間が10msを切ることは無いようです。どれもどんぐりの背比べな特性になります。

この群遅延特性が示すように、Ported、バスレフ型スピーカーシステムは低域端が大きく遅れて聴者へ到達します

さて、一部マニアの間で人気のダブルバスレフ型(海外ではDouble Tuned Bassreflexと呼ばれます)は、どうなるでしょう。
低域端の伸長には大きな効果を見せるダブルバスレフですが、残念ながら群遅延ではバスレフ以上に無惨な特性を見せます。なぜならば、海外で「6th Order」と呼ばれることが示すように、ダブルバスレフの線形モデルは6次ハイパス・フィルターになるからです。フィルタ次数が高くなってしまうと群遅延が大きくなるのも必然です。

上図のバスレフと全く同じドライバを使って、調整してみたダブルバスレフの群遅延がこちらです。

このダブルバスレフは設計F3が約34Hzと、大変ワイドレンジで優秀な特性が得られました。が、それとトレードオフに群遅延特性は劣悪となりました。
この調整では割と群遅延は抑えられて、約16msec.となりました。これは5.5mもの音道を通ったバックロードホーンと遅延時間が同じになります。またはウーファーが壁のむこうの5.5m遥か遠点へ置かれているのと同じです。ヒト聴覚では低域の方が群遅延に敏感(検知限が低い)と言われます。これだけ低音が中音に対し大きく遅れていると、聴感にも影響ゼロとは言えないでしょうね。

上ではバスレフ、ダブルバスレフを事例に採りましたが、群遅延時間を最小としやすいのはClosed:密閉型です。なぜなら密閉型の線形近似モデルは2次HPFだからです。

3者の群遅延の比較を下図へまとめてみました。同一ドライバーを用い、一般的なアライメントを施すとこの傾向になります。
遅延時間の差が一目瞭然。

(Likwitz Transformについては後述します)

密閉型では5.5ms、だいたい1.9mぶんの遅延です。これとて”無視”はできませんがバスレフに比較するとかなりマシな感じではあります。これだけ遅延が違うと、聴感上も自然な感じになります。密閉は群遅延特性が優秀なものの、他方の弱点は低域のポールが高い周波数に出やすくなるので、低域下限が高めになってしまうところです。
そこで、低域の線形近似補償、Fsのシフトという概念が登場します。(これは私のやっていることです)


 

低域の線形近似補償(Fsシフト)について説明します。

赤線は、あるドライバーの密閉型の裸振幅特性です。
この密閉の2次系特性にちょうど逆伝達関数を宛てると、グリーン点線のような特性になります。これがFsの左側シフトです。海外ではLinkwitz Transform(LT)という回路が最も有名。グライコみたいなものと勘違いしないでくださいね、全く別物です。
上図の赤線=元のFsは50Hz付近にありました。それを、拙宅と同じようFsを8Hz内外へ持ってきたのがグリーン線です。
最小位相系では、振幅と位相に相関性があり、上図のように振幅(Magnitude)を直線化すると位相 (Phase) も直線化されるという関係性があります。ホントかな?ということで、見てみると・・・。

補償された特性。赤が位相。グリーン点線が群遅延です。
若干アライメントに甘さは見られますが。かなりの直線位相ですね。
そして、30Hzまでの異常な群遅延の低さに着目してください。(上の密閉型の群遅延と見比べてください)

ここまで群遅延を低くできると、低音は自然界の音質に近づきます。
20Hzにポッコリ、群遅延が少し残ってしまうのが残念です。が、それはこの手法の限界です。Fsを右から左へシフトしただけだから、山の影響を消しきれないのです。この再Fsを0Hzに持ってくれば僅かな群遅延も消えますが、そんなことをしたらアンプもスピーカーも壊れてしまいます。

上図ミントグリーンのような群遅延は市販品で滅多にお目にかかれないものです。有るとしたら、Original Nautilus、Meridian、Audio Physicsのようにアクティブフィルタによる同定を行ったシステムのみです。
密閉型と、それをFsシフトしたシステムの群遅延を比べてみましょう。

良く聴こえる重要帯域で、最大4.5msec.も群遅延を改善できています。
元の密閉(Closed)もそれなりに優れていますが、それをFs補償したシステムは、さらに水を開けます。

以前のブレイクインのところでも、FsやQtsは温度湿度駆動状況などの環境要因で揺らいでしまうということを学びました。だから、いつも必ずこのグリーンの良好な特性ということでもないんですね、それは揺らいでいます。ただ、揺らいでいるのはバスレフも密閉も同じ。
滑走路に近い領域でゆらゆら揺らいでいるのと、全く見当外れな場所をふらふらしているのとでは次元が違う話だというのは想像できるかと。

まとめます。

  • バスレフ型の低音はとても遅れている。
  • ダブルバスレフ型の低音はさらに凄まじく遅れている。
  • 密閉型の群遅延はまあまあ良好。
  • 群遅延時間は、ダブルバスレフ >> バスレフ >> 密閉 > Fs補償した系 の順に多い

(アクティブ回路以外で、上記群遅延を改善するテクが無くはないが、本日は割愛)

【註】
以上は純粋な物理特性のお話でした。
物理特性が良好になると、万人の好む音になるか?というと、これまた別の話です。
現実には大きな群遅延を伴った低音の方が「いつものオーディオの音だ。こっちの方がしっくりする」という方が多くても、不思議はありません。故・菅野沖彦さん云うところの、「アーティフィシャルサウンド」という奴ですね。
また、50Hz以下の重低音が十二分に再生できていないのであれば、(聴こえないのだから)上図の特性の影響も小さいといえるかもしれません。
 
長くなりましたが以上です。
 

【References】

What is group delay?

ダポリット先生のTesting Loudspeakers

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投稿者

KeroYon

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