以下、自分のための備忘録として記事にしておきます。
はじめに
DATS は、Dayton Audioが開発したドライバーのT/Sパラメーター計測用ツールです。
PC用ソフトウェアとUSB接続デバイス(ハードウェア)で構成されています。
もちろんこのセットを利用しなくてもT/Sを測る手段はありますが、電子工作や専門知識をスキップして、誰でも簡単に測れるところは大きなメリットがあります。
また、ドライバーのインピーダンスカーブ/Fs/Qはメーカー公表値と、実際に売られているものの値にかなり乖離のあるのが普通であり、その差を確認する必要があること、また、ブレークインの進行度を確認するためにも、パラメーターの実測はマストです。
ここではPC(Windows上)でのDATSの使い方をメモしていきましょう。
1. DATS V2の起動
まず、DATS V2 PCソフトを起動すると下図のようにハードウェア(以下、デバイス)が接続されていないというエラーが表示されます。

2. DATSデバイスを接続
ここであわてず、徐にデバイスをUSBポートへ差し込みましょう。USBバスパワーで動きますので、給電は不要。USBポートへ挿すだけです。このデバイスはサウンドデバイスとして認識されますので、ハーの設定も特に不要です。しばらく待つと自動的に稼動を始めます。

3. 事前設定
左側ペインの設定は必要に応じて変更します。
特殊な場合を除き、設定はデフォルトのままで良いと思います。

4. テスト・リードの抵抗値のキャリブレーションをします。

初回に使用時。また、長い期間計測をせず間が空いた場合には、まずキャリブレーションをします。
デバイスの鰐口クリップの両端をショートし、以下の操作をします。

[Impedance Analyzer] → [Test Leads Calibration…]
→ダイアログが表示されたら[OK]を選択します。
計測グラフが表示されれば完了です。
5. ダミー抵抗(1kΩ)のキャリブレーションをします。
インピーダンスカーブは値が既知である純抵抗値との電流比で算定されるので非常に重要な較正です。
DATS V2には精度±0.1%の酸化金属皮膜抵抗1kオームが付属されていますので、これをテストリードに接続します。

次にメニューを操作します。
[Impedance Analyzer]→[Impedance Calibration]
と操作します。

Calibration Resistor Value = 1k Ohms
とすでに表示されていると思いますので、[OK]を選択します。
インピーダンス 1k Ohmsでフラットに漸近しているグラフが出れば、完了です。
6. ドライバーを接続
いよいよ、測定対象のドライバーをテスト・リードへ接続します。
このとき、ドライバーはアンプなどの他の装置に接続してはなりません。端子をアースなどに接地することも不可です。
計測されるドライバーの周辺は、その背面も含め、できるだけフリーエアに近い状況を作らねばなりません。また、後方にポールピースベントを持つドライバーでは背圧が掛からないよう、つまりベントを塞がないような工夫が必要です。

たとえば、この写真のようにポールピースを浮かせるアタッチを着けた背の高い瓶を用意すると良いかもしれません。台は頑丈で鳴かないものが好適です。
7. パラメーター測定
Vasの測定は少し厄介です。しかし、Vasを除くT/Sパラメーターの測定は一瞬で終わります。
DATS V2左サイドペインの[Measure Free-Air Parameters]をクリックしてください。
右サイドペインへ測定結果が現れると思います。
またこのとき、インピーダンスカーブ(青線)位相回転(赤線)が同時に測られ、出現します。

8. Vasの測定
Vas(equvalent Volume of Air Suspension) の測定方法はいくつかありますが、ここでは最もかんたんなAdd Mass Methodをご紹介します。付加質量を振動系へ加えたときと、加えなかったときで、FsとQの変動を算出し、そこから非付加時のVasを逆算するというものです。
まずは右サイドペインのラジオボタンで、[Add Math Method]を選択状態にしてください。
また、対象ドライバーのピストンモーション直径をできるだけ正確に記入してください。
次に、ドライバーの振動板へ載せる付加質量(錘)の重さを正確に測定します。
例えばこんな質量計を使います。

前記のダイアログのM= [ ]g に今測った錘の質量を記入します。
ドライバーの振動板上へ、ダイアフラムを痛めないよう慎重に付加質量を乗せます。
弱い粘着力の粘弾性材質を挟むと、振動の悪影響がなくかつ後から容易に取り外せます。

すべての準備ができたら、左サイドペインの[Measure V(as)]を押して測定を開始します。
もし、Measure Vがグレイアウトして押せない場合も慌てないでください。
それは、事前にFree Air Parameterが測定できていないためです。錘をいったん取り外し、Free-Air Parametersの計測からやり直してください。
計測の結果、図のようにエラーが発生することがあります。

これは錘が軽すぎて、Fsの変動が25%未満だからです。錘の質量を大きめにしてリトライしてください。一般に、元々のMmsと同等、振動系が軽い場合はさらに2倍以上の錘が必要となるようです。
全てのパラメーター計測が完了すると、このように右サイドペインへドライバー・パラメーターが並んで表示されます。手慣れてしまえば、大変迅速にT/Sパラメータの実測が完了します。

ちなみにこのドライバーの公式パラメータは、Fsが90.2Hz、Qtsが0.63というものです。ブレークインがよほど進んでいないと、結構違いますよね。
現在、最新版のDATSはV3が売られています。
多少UIの違いはあるかもしれませんが、大勢には影響ないでしょう。
Parts Express / Dayton Audio DATS V3